特集 「トランプの米国」と日本
日本は独自の視点、構想の提示を:デニス・ブレア元米国家情報長官インタビュー
[2017.01.20] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

中国の軍備増強や英国の欧州連合(EU)離脱問題、米国のトランプ新政権誕生など、国際社会はさまざまな課題に直面している。米太平洋軍司令官、国家情報長官を歴任し、アジアの安全保障情勢にも明るいデニス・ブレア氏に、日本が今後果たすべき役割などについて聞いた。

デニス・ブレア

デニス・ブレアDennis BLAIR米海軍退役大将。米海軍兵学校を卒業後、ローズ奨学生としてオックスフォード大学で歴史学と言語学の修士号を取得。海軍では大西洋艦隊および太平洋艦隊の誘導ミサイル駆逐艦に乗務したほか、キティホーク空母戦闘群を指揮。統合参謀事務局長、米太平洋軍司令官を歴任し、2002年に退役した。09年1月から10年5月まで米国家情報長官を務め、16の米国情報機関を統括した。2014年5月より笹川平和財団米国会長。

日米同盟は進化の途上

——ドナルド・トランプ氏は米大統領選のキャンペーン中、日米同盟における米国の財政的・軍事的負担を不公平だと評していました。これは正当な評価でしょうか。

ブレア  日米同盟が発展したのは冷戦時代で、当時は米国自身が不均衡な関係を望んでいました。冷戦終結後も同盟関係は進化し続けてきましたが、まだ進化の途上だと思います。ですから同盟の現状をトランプ新大統領が検証すること自体には、問題はないと考えています。

日米同盟は40年前、50年前よりも対等になり、日本は自国の防衛により大きな役割を担うようになっています。集団的自衛権の解釈変更は非常に大きな第一歩で、「米国には日本を軍事支援する義務があるが、日本には同様の義務がない」という日米同盟の主な要素が取り除かれました。条件はある程度限定的ですが、それでも正しい方向への第一歩と言えます。

米国が同盟関係を結ぶのは、他国への好意からではありません。それが国益にかなうからで、日米同盟といえども同じです。両国の人的交流は飛躍的に発展しました。世界でも重要なこの地域に強力な同盟国を持ち、自国の兵士5万人を駐留させることは基本的に米国の国益にかなっています。同様に、米国の強力な同盟国として目標を共有することは、日本の国益にもなります。私は、トランプ政権が日米同盟を検証した結果、改善または進展させるべき点が見つかったとしても、その基盤は極めて強固だと考えています。

——トランプ氏がアジアにおける米軍のプレゼンス低下を選択した場合、日本の自衛隊はどうすべきでしょうか。

ブレア  米国がこの地域の軍事プレゼンスを大幅に縮小するとは思いません。世界の安全保障環境が一変した1990年代初頭を思い出して下さい。冷戦が終結し、米国は世界における軍事的コミットメントを全面的に見直しました。欧州の駐留米軍は30万人から10万人へと3分の2も削減しましたが、東アジアでは10万人レベルを維持しました。これは現在と同じ規模です。

この地域における米国の国益には世界情勢に左右されない一貫性と持続性があり、新政権も同じ結論に達すると思います。ですから、米軍の不足を補うために日本が能力増強を検討するのはやや早計だと思いますし、日本の防衛能力強化は自国の都合のみによって決定されるべきだと強く信じています。

この地域の危険性は増しています。北朝鮮の行動や、中国が進めている軍備増強がその例です。また世界を見回すと、中東やアフリカでも日本の国益が多くの課題に直面しています。日本が防衛の概念を拡大し、そのために軍事能力を強化するのは、米国の行動いかんにかかわらず良いことです。

——安倍晋三首相は大統領選後、時をおかずにトランプ氏と会談して日米同盟の強さを再確認しました。しかし、予測不可能な言動がトランプ氏の特徴ともいえます。この先どのようなことが待ち受けていると思いますか。

ブレア  安倍首相はトランプ新大統領よりも、はるかに経験豊富な国際的政治家です。指導者としての経験や、対外的に持っている関係のレベルという点で、これまでとは少し違った関係になるでしょう。日本が多くのことを自ら決定し、独自の視点や構想を提示すべき時が来たと思います。個人的関係を築くために安倍首相がトランプ氏に会いに行き、日本の立場を説明したのは良いことだと思います。

日本は1つの国として、米国の最も重要な同盟国です。かつて最も重要な同盟と言えばNATOでした。12カ国体制だった当時のNATOは、ほぼ全てのことに一丸となって取り組んでいましたが、28カ国体制となった現在は、課題によって各加盟国の対応が異なっています。一方、日本は、5万人の米兵が駐留し、自ら防衛費を拡充し、米国にとって大きな国益を有しながら、安全保障上は危険もはらんでいる地域に位置する強力な同盟国です。これらのことを総合すると、日本の首相とアメリカの次期大統領が早速会談の場を持ったことは、全く妥当で適切なことです。

TPPの原則、具現化して前進図れ

——欧州連合(EU)が英国の離脱問題で混乱し、米国の先行きがやや見えづらくなっている今、比較的に政権が安定している日本は国際政治の荒海の中で何ができるでしょうか。

ブレア  日米が長年取り組んできた分野の中で、トランプ次期大統領が強く反対していることの1つは、環太平洋連携協定(TPP)です。しかしTPPはこれまでと違ったタイプの協定だということを認識する必要があり、私は安倍首相がその違いをトランプ氏に説明できればいいのではないかと考えています。

TPPは、非関税障壁の解消に向けて取り組んだ初の自由貿易協定です。具体的には、米国や日本が取引をしている国の環境規制や労働法、知的財産権の保護などがルール化されています。発展途上国の多くはこれまで、日米などがこれらの規則を守っているのをいいことに、自国の商品をはるかに安く輸出していました。必要なのは、TPPの原則を具現化して前進させる方法を見いだすことだと思います。それによって大規模国営企業が独占する中国式取引に対抗し、日米が国際経済におけるリーダーシップを示すこともできます。

新大統領は「アジアへの義務」再確認表明を

——オバマ大統領は日米同盟へのコミットメントを明確に表明していましたが、トランプ氏が同盟関係をどのように見ているのかはまだよく分かりません。東シナ海における中国の活動を考えると、中国が尖閣諸島をめぐる問題で軍事的圧力をかけてきた場合、トランプ氏は日本を支援するでしょうか。

ブレア  トランプ氏は大統領就任後の適切な時期に、その点について何らかの表明をするべきです。台湾へのコミットメントについても同じで、そのことは法律に明記されています。もちろん韓国に対する防衛義務もあります。トランプ新大統領はアジア地域におけるさまざまな義務について再確認する必要があります。

現在、中国は東方の尖閣諸島に向け、さらに南方の南シナ海にも自国の領海を広げようとしています。米国を含め国連海洋法条約を批准または支持している国々は、領海の問題をどう扱うのが正当なのかを中国に対して堂々と主張すべきです。トランプ大統領も歴代大統領同様に、中国のそのような振る舞いを許さないと思います。

——沖縄の人々の多くは、駐留米軍に関して不当な負担を強いられていると感じています。他県や日本国外への基地移転は、実行可能な選択肢ですか。

ブレア  米国と日本は、沖縄に駐留する海兵隊を半減させてグアム、ハワイ、オーストラリアに移転させるという計画に合意しています。問題は、移転先の建設作業にかなりの時間がかかることです。計画自体は良いものだと思いますし、移設対象の部隊の即応性と戦闘能力も維持されます。私は計画を加速させる必要があると考えていますが、そのためには主に米国が、そして日本も資金の拠出を増やさなければなりません。

沖縄の米軍プレゼンスに関しては、部隊や[基地面積の]割合だけで語るのは間違っていると思います。重要なのは沖縄への影響の大きさです。私は長年、米軍のプレゼンスが非常に高いハワイのオアフ島に住んでいましたが、オアフ島では軍のプレゼンスが島の住民の生活を脅かさないよう配慮されています。

沖縄駐留米軍の再編成も重要な問題です。特に必要なのは、市街地に完全に囲まれている普天間のヘリコプター基地を移転させることです。だからこそ人口密集地ではなく、海上を飛行して離着陸する基地を名護市に建設することが重要なのです。それが完了すれば飛行場の返還作業が始まり、沖縄は返還された土地を他の用途に利用できるようになります。那覇空港は航空貨物の積み替え拠点としてのニーズが増しているため、那覇市周辺の土地は特に重要です。

もう1つ、九州から台湾にかけて位置する南西諸島では自衛隊の能力強化が図られています。中国が軍備増強を進める中で、日本は自国の主権を主張し、領土・領海・領空を守るために自衛隊の能力を本格的に強化しなければなりません。沖縄は鎖状に連なるそれらの島々の真ん中に位置するため、日本は今後この地域で自衛隊を強化することになるでしょう。

首脳、高官それぞれの強固な関係構築が重要

——トランプ次期大統領は、陸軍大将や海軍大将など元高官の退役軍人を側近に起用し、これには激しい非難の声もあります。これらの人事は安全保障問題でプラスになると思いますか。

ブレア  私も退役陸軍将校として国家情報長官という政府閣僚を務めましたが、そのことが職務に求められる資質への障害になったとは全く思っていません。同僚には軍の経歴を持つ人もいれば、民間の経歴を持つ人もいましたが、結局は個人の問題だと思います。私は国防長官に指名された[ジェームズ・]マティス大将をよく知っていますが、彼は非常に優秀で、素晴らしい国防長官になると思います。

——トランプ次期大統領は日本とのビジネス経験はありますが、政府指導者との人脈はほとんどありません。このことをどう見ますか。

ブレア  ウィルバー・ロス氏の商務長官指名は、知日派の大物を主要なポストに起用したと言えます。経済・ビジネスの問題において商務長官が重要な役割を果たすことを考えると、これは明らかに強力なシグナルです。

日本が非常に重要な国だということは誰でも知っており、駐日大使の指名はとても重要です。10年、20年前の日米関係はとても形式的で、指揮系統を通じて物事が進められていました。しかし21世紀において、それは成熟した国同士の関係とは言えません。国家の首脳、国家安全保障顧問や国防長官がそれぞれ直接話し合うことが大切です。日米両国はやっとそのような関係になりつつあります。

17年前、私が太平洋軍司令官だった頃のことです。国家安全保障担当補佐官のオフィスに行くとデスクに電話が置いてあり、英国やフランス、ドイツ、イタリアなど7カ国のカウンターパートへの直通ボタンが表示されていたのですが、日本への直通ボタンはありませんでした。しかし今は、日本の国家安全保障顧問への直通ボタンがちゃんと設けられています。

日本と米国の成熟した強固な同盟関係は、多くの人々の強力な人的交流によって築き上げられてきました。変化は、常にある種の不確定性を伴いますが、われわれの同盟は、今後も良好な関係を堅持し続けると自信を持っています。

インタビューを終えて

インタビューの中で、「狂犬」と呼ばれる次期国防長官に指名されたジェームズ・マティス元中央軍司令官について、「よく知っている」とした上で「非常に優秀で素晴らしい国防長官になると思う」と述べたのが印象的だった。

デニス・ブレア氏は、米海軍兵学校を卒業して太平洋軍司令官に上り詰めた筋金入りの軍人である。インタビューでは、静かな口調ながらトランプ政権になっても米国にとって日米同盟の重要性は変わらないと断言した。一方で安全保障を守るためには日本が自ら、これまで以上の役割を果たしていく必要性も指摘した。そこには、北朝鮮の核開発や中国の海洋進出という東アジア情勢の現実を直視する軍事専門家の目があった。(編集部)

(オリジナル原稿は、英語。2016年12月19日に行われたインタビューに基づく。)

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