「地方自治でできないことはない」樋渡啓祐・武雄市長
図書館革命を超えて“公共空間革命”へ

竹中 治堅(聞き手)【Profile】

[2013.08.26] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

“ツタヤとスタバが入った図書館”――佐賀県の武雄市図書館が、開館3ヵ月で入館者26万人という人気絶頂ぶり。民間委託で、地方自治に風穴を開ける43歳の樋渡啓祐市長に直撃インタビュー。

樋渡 啓祐

樋渡 啓祐HIWATASHI Keisuke佐賀県武雄市長。1969年佐賀県朝日町生まれ。1993年東京大学経済学部卒業、総務庁(現総務省)入省。沖縄開発庁、内閣官房、高槻市市長公室長等を経て、2003年武雄市長に当選。2010年に再選を果たす。2007年関西大学客員教授。主な著書に『「力強い」地方づくりのための、あえて「力弱い」戦略論』(ベネッセ/2007年)、『首長パンチ 最年少市長GABBA奮戦記』(講談社/2010年)など。

“「TSUTAYA(ツタヤ)」と「スターバックス」が入った図書館”――佐賀県の人口5万人にしか過ぎない武雄市の市図書館が、民間委託で利用者を急増させ、全国から多数の見学者が押し寄せるほど話題になっている。今や、“究極の図書館革命”といった評価を超えて、地方分権具現化の象徴のようにもてはやされ始めている。

この革命的事業を推進するのが、43歳の樋渡啓祐・市長だ。「自分は映像人間」、「昔は不登校児童だった」とあけすけに語る市長だが、したたかな戦略と計算の上に、改革のターゲットを図書館から病院、さらには教育へと広げ、地方改革を大胆に推進している。彼のチャレンジ精神の源は何か。元財務官僚で政治学者である竹中治堅・政策研究大学院大学教授が話題の図書館内でインタビューした。

人気絶頂、3ヵ月で26万人の来館を記録

——2013年4月のリニューアルオープンから3ヵ月で26万という来館者数を記録しました。

「たかが図書館にこれだけの人が来るのはあり得ない。予想以上というより予想外です。とにかくここは気持ちのいい空間でしょ。要は体感の問題なんです。例えば5冊読むと全体の金額は3000円ぐらい。それをスタバの500円ぐらいで読めるのだから安い。600タイトルもの雑誌をパラ読みできるのもいい。スターバックスもガンガン売れていますが、読み放題なのに本も売れています。まじめな日本人は、これだけ読ませてもらったら1冊ぐらい買わなきゃと思うんですかね」

——来館者の大半は、武雄市民ですか?

「平日は市民が6割、週末、休日は5割ですね」

年間600万円も運営経費を削減

レンタルショップ「TSUTAYA(ツタヤ)」などを展開するカルチャー・コンビニエンス・クラブ(CCC)が委託運営する武雄市図書館が2013年4月にリニューアルオープンした。改装のための費用は、武雄市が約4億5000万円、CCCが約3億円を負担。図書館のセールスポイントは、20万冊以上の蔵書に加え、雑誌や本を“買える”コーナーがあること。カフェダイニング「スターバックス」を併設し、図書館カードに代わるポイントカード(Tポイントが貯まる)も利用できる。開館時間は従来よりも3時間延ばし、午前9時~午後9時まで。年間約30日あった休館日も「年中無休」とした。図書館の年間運営コストも、指定管理で総額約1億2000万円から約1000万円削減する見込みだ。リニューアル後の1日当たりの平均来館者数は約2900人で前年度に比べ4倍。図書貸し出し数も平均で1644冊と約2倍に達した。

重要なのはシームレスな空間構成能力

——武雄市図書館の経営をカルチャー・コンビニエンス・クラブ(CCC)に委託するきっかけは?

「2011年12月末に、『カンブリア宮殿(テレビ東京系)』というテレビ番組で、東京・代官山の蔦屋書店のことを見たんです。友人を介し増田宗昭(ますだ むねあき)CCC社長に面会を申し入れ、副社長に会えるというので行くと、社長が路上にたたずんでいた。勝負どころだと思い、いきなり『市図書館の運営を任せます』、そうぶつけました。すると、増田さんが『私もやっていいと思っていた』。びっくりして思わず『何で』と聞くと『図書館と病院は最高のサービス分野。市長は病院のことで苦労されていたので、図書館は自分のところでやれたら』と答えてくれた。冬晴れの路上で、根回しも妥協もなく始まったんです」

——武雄市図書館のイメージは計画通りですか?

「増田社長が最初に『これで行こう』と紙に書いたイメージ通りです。とにかく“シームレス”にこだわった。閲覧場所と販売場所を分けるのはサプライヤーの都合にすぎません。利用者はシームレスで居心地のいい空間を求めている。フラットなゾーンがあれば、自由に居場所を見つけるんです」

——スターバックスも増田社長のアイディアですか?

「社長と僕の意向です。スターバックスは“空間構成能力”がある。見てください。完全に図書館に溶け込んでいるでしょ。こういう空間はスターバックス以外に作れない。ドメスティック企業には難しいですね。そもそも人口5万人の町で人を集めるには“物語”が必要です。だから日本で初めての『Library&Cafe』を作りましょう、とCCCに言ったんです。もしかすると、世界でも初めてかもしれない。これが物語です。スターバックスとの実際の交渉はCCCにお願いしました。人の力を借りることも大切です」

Tポイント利用可で“10代”を呼び込む

——Tポイント導入の目的は何ですか?

「図書館利用は圧倒的に60代が多い。一方、Tポイントを使うのは10代。Tポイントを使えることで、図書館が今までリーチできなかった層にアピールできたんです。ちなみに“T”はTSUTAYAの“T”ではなくて、武雄の“T”ですから(冗談です。笑)。省力化という目的もあります。若者はカードに慣れているので、司書の業務が軽減されました」

——図書館改革に対する市役所内の反応はいかがでした?

「市役所でこれを担当するのは教育長。最初は得体のしれないものを嫌がっていましたが、CCCの人に会ってもらい、代官山にも幾度か行ってもらったら『ツタヤの人たちとはやれる』と急に変わった。人は見たことでしか変わりません」

——職員もかなり辞めたと聞いています。

「でも、僕らの仕事は医者と一緒で、目の前に困っている人がいたらすぐに対応しなくてはいけない。大学時代、竹下登さん(元首相)のお孫さんの家庭教師をしていて、竹下さんからも直接ご指導いただいたこともありました。そのとき言われたのが、スピードが大事だということと『手柄は人に全部あげなさい。出世は自分が一番遅くていいから』。そのことをずっと守っています。だから最初に手をあげてくれた人を僕はものすごく厚遇する。皆だんだん手をあげるようになりました」

物語を作り、ゴールポストを明確にする

——“物語を作る”という発想は、昔の役人時代からですか?

「そうです。作るときは自己中心そのものですよ。行政がダメなのは、あまりに意見を聞きすぎて、結局、『可もなく、不可もなく』で作ってしまうから。平凡でかどが取れたものなんて、誰も魅了しない。ビジュアル的にもこだわります。映像人間ですから、映像をきちんとイメージしながら大きな第1章、第2章、第3章を僕が作る。あとは行政が真面目に書いてくれればいい。それと、僕は結末をはっきりさせるんです。行政は逆算するのが得意なので、目標にきっちりと合わせてくる。政治の役割は結末をきちんと描くことなんです。

だから図書館を具体化できたのは僕一人の力ではなく、役所の力ですよ。人は仕事でしか鍛えられない。地方公務員なんて認められることないですから、認められるとすごく頑張ります。CCCが最後に言ったのは『市長は代わっていいけど、担当の3人だけは残して』。僕もうれしいし、言われた担当者は100倍うれしい。机を並べている人が変わると周りがものすごく変わります。そういうことが今まで地方自治体になかったんです」

武雄式「フェイスブック(FB)通販」、全国40自治体に拡大

——市長が立ち上げた「FB良品」ですが、2013年度中にも40もの自治体に広がりそうですね。

「今では海外からも視察に来ています。要するに、それまでの通販には自分の買いたいものがなかったんです。民とか官とか気にしていたら集まらない。だから、民業、官業という境界をなくし、シームレスにしました。今度はシンガポールにFBI(FBインターナショナル)を出します。新しいものを生み出すエンジンになるのは、地方では役所しかない。ただ、官がずっとやると非効率になるので、そうなったら売ればいい。明治時代の揺籃期に、政府がスタートした事業を買い取って大きくしたのが、政商の五代友厚。あれがいいモデルだなと思ったんですよ。僕の場合、ほとんどがパクリ。TTP、『徹底的にパクル』です(笑)」

次は市庁舎建て替え、狙いは、「公共空間革命」

——次の目標は?

「次は庁舎です。窓口を廃止して、例えばお花屋さんを入れて、居心地のいい空間にする。かつ、図書館とも連動させて、用がなくても役所に行きたくなるような気持ちのいい空間を作る。今は図書館革命と言われているけれど、おそらく10年、20年経つと『公共空間革命』と言われると思う。その2番目の矢を庁舎で放つ。議会もガラス張りで、すり鉢状にしようかと思っています。椅子やテーブルも全部アクリルです。そうすると何が起きるか。人は見た目でしか判断できないので、中に座っている人に期待する。『場』って大事です。今までの地方の役所は、それを全然意識していなかった。認識していても、それを具現化する力がなかった」

——力を入れたい分野はありますか?

「絶対、教育ですよね。来年の4月から小中学生にタブレットを配る。いい授業を配信しようと思っています。僕は不登校児童だったんです。保育園中退だし、集団行動ができない。大学時代も、ひきこもりで床ずれができるかと思った(笑)。今、市長しているのも、その当時の反動かもしれません。ただ、国政には興味ないですね。基礎自治体で、あっと驚かせるようなスキームを作って、横に広めていった方が日本は早く変わると思います。現在の地方自治制度でできないことなんて、まったくない。9割9分できます。その証拠に、図書館でも病院でも、中央省庁におうかがいしたことはありません。今や、地方分権はかなり進んでいます。99%、いや100%進んでいます。」

——十分ですか?

「道具だってあればいいというわけではありません。地方の自治体がバズーカ砲を持っていても混乱するだけ。それより槍が必要というときがある。それが今なんです」

(2013年7月11日に、佐賀県武雄市の市図書館にてインタビュー)

撮影=西田 佳世

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nippon.com 編集企画委員。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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