猪瀬直樹東京都知事辞任 五輪招致の栄光から挫折へ

政治・外交

東京都の猪瀬直樹知事が2013年12月19日、医療法人「徳洲会」グループからの5000万円の資金提供問題を受けて、辞職を表明した。同知事は、記者会見で辞職の理由について「都政を停滞させ、国の栄誉がかかったオリンピック・パラリンピックを滞らせることはできない」と述べた。

都の年間予算規模は6兆円を超え、47都道府県の中でも図抜けており、ニュージーランドなどと同規模。そうした一国並みの2014年度東京都予算を編成し、さらに来年2月までに東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会を立ち上げなければならないなどの課題が山積している。都議会などから厳しい追及を受ける中、都政を正常化させるため、政治的・道義的辞任に追い込まれた形だ。

東京都知事のポストには戦後の1947年に初代安井誠一郎知事が誕生して以降、66年間で7人が就いているが、就任1年での辞任は最短での退陣となる。

徳洲会の不透明な関係に疑念

猪瀬氏は作家で、『ミカドの肖像』(小学館刊)で1987年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。同じく作家の石原慎太郎前都知事から請われ、2007年副知事に就任。2012年12月16日に行われた東京都知事選で、国政転出のため任期半ばで辞任した石原氏から後継指名を受け立候補、過去最高の433万票を獲得して初当選した。特に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの招致活動に力を入れ、今年9月7日には招致を実現するなど、都政運営は順風満帆に見えた。

しかし、都知事選告示前の2012年11月20日、徳洲会グループ創設者の徳田虎雄氏の二男・徳田毅衆議院議員から5000万円を受け取った事実が今年11月に発覚。東京地方検察庁が2012年総選挙における徳田氏陣営の公職選挙法違反容疑で徳洲会に強制捜査を行った9月に猪瀬氏が5000万円を徳田氏側に返却していたことも判明し、資金提供をめぐる猪瀬氏と徳洲会の不透明な関係に注目が集まった。猪瀬氏は受け取った5000万円について選挙運動費用収支報告書に記載しておらず、「個人的な借入金」と繰り返し釈明、選挙資金に使うためではなかったとしてきた。

徳洲会グループは、東京都内にも病院・保健施設があり、猪瀬氏の副知事時代、徳洲会グループが開設した老人保健施設に対し、都が約7億5000万円の補助金を出したという経緯がある。さらに、東京電力福島第一原発事故の後、経営が悪化した東電に対し、2012年6月の株主総会の場で筆頭株主である都を代表して、東京・新宿区にある東電病院売却を迫った。これが、都内での病院施設拡大を図りたい徳洲会の東電病院取得に道を開くためだったのではないかとの疑惑が浮上し、5000万円受領が収賄にあたる可能性も取り沙汰されていた。

国際社会へのイメージダウン懸念で辞任圧力

徳洲会グループからの資金提供問題は、今年11月22日の報道で明るみに出た。それ以降、メディアによる真相追及報道が相次ぎ、都議会の場でも厳しい質疑が繰り返された。12月17日に新たに地方自治法に基づく強力な調査権を持つ調査特別委員会(百条委員会)設置が決まり、都庁内部や政府・与党首脳の間で、都の来年度予算編成を控えた都政運営の遅れや東京五輪準備の停滞を懸念する声が強まった。

都知事は“東京の顔”として五輪組織委員会にも積極的に加わっていく立場だが、18日には「国際社会に日本や東京が恥ずかしくない対応を取るべき」として、猪瀬氏の辞任論が与党内に急速に広がり、19日の辞職表明に至った。

(タイトル写真=2013年12月19日、東京都庁で知事辞任を表明する記者会見を開いた猪瀬直樹氏/撮影=Issei Kato/ロイター/アフロ)

<戦後の歴代都知事(公選)>

  氏名 在任期間 年数 当選回数
初代 安井 誠一郎 1947・4・14~1959・4・18 12年 3回
2代 東 龍太郎 1959・4・23~1967・4・22 8年 2回
3代 美濃部 亮吉 1967・4・23~1979・4・22 12年 3回
4代 鈴木 俊一 1979・4・23~1995・4・22 16年 4回
5代 青島 幸男 1995・4・23~1999・4・22 4年 1回
6代 石原 慎太郎 1999・4・23~2012・10・31 13年6カ月 4回
7代 猪瀬 直樹 2012・12・16~(2013・12・19 辞職表明) 1年 1回

 

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