日本の家族よ、どこへ行く——「多様化」 それとも「バーチャル化」?

社会 文化

家族には、二つの側面がある。一つは、①経済的に豊かな生活を築くという側面、もう一つは、②好きな人と一緒に暮らして愛情欲求を満足させるという側面である。

近年まで、先進諸国では、「夫は主に仕事、妻は主に家事」という形をとることによって、家族の二つの側面を満足させてきた。しかし、ここ30年ほどに起こった世界経済の構造転換によって、この「性別役割分業型家族」は、その限界を迎えつつある。

成長経済の終えん、経済格差の拡大が背景に

近代社会成立以降、1975年ごろまでは、欧米、日本などの先進工業国においては、「性別役割分業型家族」がその標準的モデルとしてあった。人々は、そのような家族形態を理想とし、現実に多くの若者がこのタイプの家族を築いていった。

その背景には、先進国の工業による成長経済があった。先進国では、企業に勤める男性労働者の雇用と収入が安定していたからである。ほとんどの男性は家族を経済的に扶養する収入を得ることができたし、ほとんどの女性は、結婚して家事育児に専念する専業主婦となることができ、豊かな生活を築くことができた。恋愛結婚も普及し、多くの人が、好きな人と結婚し、経済的に豊かで愛情溢れる家族生活を築くことができたのである。

1973年のオイルショック(Gulf Oil Crisis)以降、先進国の経済成長率は鈍化する。工業による成長は限界を迎え、「脱工業化(post-industrialization)」と言われるようにサービス業中心の経済が出現する。グローバル化が進行し、工場の発展途上国移転が進み、オートメーション化、IT化が進む。その結果、高収入が得られる専門的な職も増える一方で、安定した職は減少し、失業や低収入のパートタイムの職が増える。いわゆる、「ニュー・エコノミー」の時代が到来し、ロバート・ライシュ(Robert Reich)やトマ・ピケティ(Thomas Piketty)の言うように経済格差が拡大する。その結果、妻子を養うに足る収入を得られる男性の割合が減少に向かう。これが、先進諸国で「性別役割分業型家族」が限界を迎えた理由である。

欧米で進むライフスタイル革命

しかし、同時期の1970年代以降、米国や北西ヨーロッパ諸国、オセアニアでは、ライフスタイル革命というべきものが進展する。それは、フェミニズム運動の浸透、そして、性の解放によって、多様なライフスタイルが試みられるようになる。女性の職場進出が加速し、経済的に自立することが可能になる。若者が結婚以前に性関係を持ち、同棲することが一般化し、未婚での出産が増える。離婚が認められるようになり、嫌いになった配偶者と別れる自由を手にする。

「性別役割分業型家族」は減少したが、その代わり、家族の多様化が進んだのである。これは、若者の家族形成において、「親密なパートナー」と愛情溢れた生活を築くことが優先課題となり、経済的な生活は、共働き、そして、社会福祉によって乗り切るという方向が示されたのだ。

そして、21世紀に入ると、オランダやフランス、英国など同性間での結婚を認める国も増えている。そして、従来「性別役割分業型家族」へのこだわりが強かったイタリアやスペインなど南欧諸国(ギリシアを除く)でも同棲や未婚での出産が急増するなどライフスタイルの更なる多様化が進んでいる。

表1 欧米各国と日本の婚外出生率 (%)

1970年 1990年 2012年
スウェーデン 18.6 47.0 54.5
フランス 6.8 30.1 56.7
英国 8.0 27.9 47.6
米国 10.0 28.0 40.7
ドイツ 7.2 15.3 34.5
スペイン 1.4 9.6 39.0
イタリア 2.2 6.5 25.7
日本 0.9 1.1 2.2

資料:Eurostat、厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」、米国商務省 「Statistical Abstract of the United States」

「性別役割分業型家族」から抜け出せない日本

日本では、戦後から経済の高度成長期にかけての工業化の時期に、「性別役割分業型家族」が普及する。そして、オイルショックを乗り切り、1992年のバブル経済崩壊までは、男性の雇用は大変安定しており、多くの若者は、「夫が主に仕事、妻は主に家事」型の家族を作ることができた。

しかし、日本でも、1990年代後半から、グローバル化の進展と共に、男性の雇用が不安定になる。男女とも若者の非正規雇用者が増大し、正社員の給料の伸びも小さくなった。妻子を養って豊かな生活を築くことができる男性の割合は、欧米と同じように低下しているのである。

しかし、日本では、ライフスタイル革命の影響は限定的であり、家族の多様化は他の先進国のようには進展していない。

まず、女性の職場進出を見てみよう。確かに、女性雇用者は増えているが、子育て期の女性の専業主婦率は、先進国の中では高水準である。更に、働く既婚女性の3分の2はパート雇用である。その結果、結婚した夫婦の大部分は、夫の収入に頼って生活しており、「性別役割分業型家族」の基本は崩れていない。

恋人もあまり欲しくない

性革命に関しても、その効果は限定的である。未婚者の同棲率は、2010年でわずか1.6%、未婚の出生率も2.4%(2014年)と欧米に比べて著しく低い。その代わり、妊娠先行型結婚(いわゆる“できちゃった婚” [shotgun marriage])が結婚の約20%(未婚出生の約10倍)と多くなってくる。これは、未婚者の性関係は自由になったが、子どもは結婚して育てるという伝統的な家族規範が強いことを意味している。

更に、21世紀に入り、若者の恋愛行動自体が消極化している。未婚者で恋人がいる未婚者の割合は低下し、恋人をもちたいという人も減っている。そして、セクシュアリティに関心がない若者が増加しているという調査結果も出ている。

表2 恋人との交際について

独身者の交際実態 (20-39歳の独身者) 恋人有り 恋人なし
交際経験有り 交際経験無し
2010年調査 36.2% 37.9% 25.8%
2015年調査 35.6% 40.8% 23.3%
恋人がいない独身者の交際意欲=恋人が欲しいか *()内は2010年の数値 男性 61.5% (67.3%) 20代 58.1% 30代 66.1% 年収400万以上 79.7% 400万未満 59.9%
女性    60.1% (70.3%) 20代 57.6% 30代 64.8% 年収200万以上 70.7% 200万未満 52.1%

資料:内閣府「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書

その結果、日本では、結婚して「性別役割分業型家族」を形成することができる若者が減少する一方で、恋人もいない未婚の若者が増大している。これが、日本の少子化、未婚化の実態である。2010年で30~34歳の未婚率は、男性47.3%、女性34.5%に達した(2010年国勢調査)。

先に述べたように同棲率は極めて低く、恋人がいる割合も30%程度である。そして、未婚者の多く(20~34歳の未婚者の8割)は、親と同居している。経済的に親に支えてもらっている人も多く、親が亡くなった後は、経済的困難に直面し、孤立する独身者が今後急増すると考えられる。

家族の多様化を妨げる同調圧力

なぜ、日本では「性別役割分業型家族」へのこだわりが強く、家族の多様化が進まないのだろうか。

一つは、制度的、慣習的、意識的に、「性別役割分業型家族」への同調圧力が強いことが挙げられる。日本の正社員の労働慣行は、「専業主婦がいる男性」を前提に作られている。会社に献身し、長時間労働を甘受して家庭を運営するためには、労働者の裏側に家事・育児を全て引き受ける主婦がいることが当然視されている。年金や健康保険など、社会保障制度も「性別役割分業型家族」をモデルとして作られているので、それ以外の形態をとることは大変不利になるのである。

そして、日本社会は、「世間体」を重んじる意識が強い。大多数の人と違う家族形態をとると、「変わった人と思われる」ことを覚悟しなくてはならない。例えば「専業主夫」は好奇の目に晒される。また、家事や育児を他人に任せることは未だ非難の対象になる。夫婦同姓を強制している民法に対して合憲判決(2015年12月最高裁)が出され、夫婦別姓を選択することを認めなかったことは、日本の固定した家族のあり方への同調圧力が強いことが背景にある。

最後に指摘したい理由は、「カップル」よりも「親子」関係を重視する意識である。これが、私のいうパラサイトシングル(親同居未婚者)の背景にあり、また、「どんな形でもよいから、性的なパートナーを求めたい」という欧米で家族の多様化の原動力となったカップル形成意欲を削いでいるのである。

パートナーなしで「親密欲求」を満たすには

現代日本では、結婚する人が減り、恋人がいる人も減少している。つまり、パートナーがいない独身者が増大している。では、彼らは、親密欲求をどのようにして満たしているのだろうか。親密欲求は、「コミュニケーション」「ロマンティックな感情」「性欲」の3つに分けることができる。現代日本では、これらの欲求を「バーチャルな家族」で満たす傾向が強まっている。

親と同居して関係がよければ、親がコミュニケーションの対象となる。そして、同性の友人とのコミュニケーションも活発である。SNSの発達が、たとえ日常的に会えなくても、気心の知れた友人との交流を可能にしている。さらに、私が「家族ペット」と呼んだように、ペットを家族であるかのようにみなして生活し、親密感情を満足させている独身者も多い。

次に、ロマンティックな感情は、いわゆる、アイドルやスター、更には、ゲームやマンガのキャラクターなどに「はまる」ことで満たす人が多い。いわゆる、2次元、2.5次元と呼ばれる世界で、疑似恋愛を体験するのである。更に、男性は、キャバクラ、メイドカフェ、ナイトクラブ、“JK産業”(女子高生とお金を払って散歩するなど)など、女性に対するロマンティックな感情を満足させる商業的な場が整備されている。つまり、一時的なロマンティックな気分をお金で買うことができるのである。そのような場では、まるで、恋愛関係があるようなコミュニケーションが展開される。

性欲に関しては、男性の場合は、ポルノがAV機器やネットの普及で簡単に見て楽しめるようになった。そして、風俗産業と呼ばれる「性的サービス」を利用する男性も多いのである。

バーチャル家族、バーチャル恋愛の拡散

このように、恋人がいない独身者の増大に伴って、性的なパートナーがいなくても、親密欲求を満足させる「装置」、つまり、バーチャル家族・バーチャル恋愛が大発展を遂げているのが、今の日本の姿なのである(恋人のいない若年未婚者は約1000万人、うち400万人は恋人が欲しくないと思っている独身者である)。

香港のメイドカフェを訪れた際の筆者(左)

もちろん、恋人がいる人、既婚者でもこのようなバーチャルな関係を楽しむ人々もいる。夫婦でペットを飼ったり、宝塚にはまる既婚女性、ナイトクラブに通う既婚男性たちは、従来から存在していた。彼らは、リアルな関係にプラスアルファするものとして、このようなバーチャルな関係を楽しむ人が多かった。しかし、今増えているのは、リアルな関係が欠如したまま、バーチャル家族・恋愛のみで満足する人々なのである。

そして、バーチャルな家族や恋愛を提供する装置は、アジアを中心として全世界に輸出されている。いわゆる「ネコ・カフェ」は全世界に広まっている。そして、アジアを中心に、日本のアニメやアイドル、そして、メイドカフェといったものが受け入れられている。

多様化は起きるのだろうか

ただ、日本でも、多様な形の家族の試みは始まっている。2015年、東京都渋谷区でパートナーシップ条例が制定され、同性カップルの公的な登録の道が開けた。シェアハウスなど血縁がない人同士の共同生活も珍しいことではなくなっている。妻が働き、夫が主に家事をするという「専業主夫家庭」も注目されるようになった。さまざまな家族の形が社会で受け入れられるようになれば、リアルに「好きな人と一緒に生活したい」という気持ちを優先したいという若者が増えるかもしれない。

このままバーチャル家族化が進むのか、あるいは、ライフスタイル革命が進み多様でリアルな家族関係が復活するのか。今、日本の家族のあり方は転換期を迎えている。

(2016年2月8日 記)
▼あわせて読みたい
「家族形成格差」の時代——“パラサイト・シングル”の末路 山田 昌弘 増加する「孤立無業」を直視せよ 玄田 有史

家族・家庭