採用する側、される側:上海と日本(上)

社会

日本の春はもともと卒業・就職の季節だが、最近では翌年に卒業する大学生の就職活動が3月に始まる。間もなく都心のオフィス街には、リクルートスーツに身を包んだ若者たちがスマートフォンの地図を見ながら、訪問先の会社を探す姿が見られるだろう。今回は、筆者がかつて銀行の上海支店で人材を採用する側だった頃、そしてさらにさかのぼって新入社員として採用される側だった頃の体験を書いてみたい。

中国の就職氷河期は続く

中国の2017年の大学(院)卒業生数は20年前の10倍(約800万人)、大学進学率も4倍(40%台)に激増しており、この傾向は続きそうだ。一方、大卒者が希望する就職先(IT企業、金融機関、政府機関など)は求人が限られ、今後も容易に増加しそうにない。従って中国の雇用需給ギャップは拡大するばかりであり、就職難は続くであろう。このような現状を見れば、20年前の上海は相対的に牧歌的であった。

採用段階では女性優位

1990年代後半、上海拠点で募集した十数名に対し、応募者は1000人を超えた。現在ならばエントリーシートをメール添付で送信するのかもしれないが、当時は応募者が自筆の書類を郵送または持参した。そこで履歴や志望動機を見てみる。誤字脱字の有無や筆跡などで人柄や性格も多少は想像できた。書類選考で合格した人を見ると、男女比率は4対6であった。次に1次面接で絞り込むと、同比率は3対7と女性の方が優位に立った。そして最終面接の結果、同比率は2対8と女性優位が顕著になった。

もちろん、これは優秀な人材を採用しようとした結果にすぎない。ちなみに日本でも小学生の段階で、すでに女子優位の兆候は明らかであろう。男子が宇宙との交信や虫の確保に夢中になっているとき、女子の多くは大人びた言動を示している。だが、それでも何も問題はない。それこそ金子みすゞ女史の詩にある通り「みんな違ってみんないい」のであり、必ずしも大人的な視点で優秀なことがよいというものではなく、それぞれの個性に従って各自成長すればよいのである。

仕事面でも安定感のあるのは女性

では、100倍の倍率を突破してきた新人ではあるが、実際の仕事においても有能さを発揮するかどうか。一般論として男性陣はプライドが高いためか、例えば取引先との交渉状況を聞くと、大抵「没問題(問題ない)」と応じるので、「そうか」としばらく様子を見ることにする。「社長と会えているのか?」「出張中でまだ会えていませんが、大丈夫です」

その後も同じようなやり取りが続くが、さすがにある程度が経過すると、ようやく実情を話し始める。「実は、まだ会えずにいます。今度同行訪問してもらえませんか」

一方、女性陣はどうか。取引先との交渉当初から男性とは動きが異なっていた。「社長が会ってくれないので、今度は同行訪問してください」と早々に訴えてくる。その後も、交渉経過を逐一報告してくれるし、折に触れて同行訪問を求めるので、半年後には相応の成果を収めることになる。要するに個人的な印象としては、女性の方が書類や面接だけでなく、業務推進面でも着実に成果を出す場合が多かったと思う。

少数ながら、抜群に有能な男性

さはさりながら、やはり絞り込まれて採用された男性陣には抜群に優れた人もいた。新人A君には取引先との交渉を担当させたが、英国人弁護士が作成した100ページほどの英文契約書をたたき台とし、われわれの要望を踏まえて取引先や弁護士と英語や中国語で協議を重ね、程なく案件を成就させた。大学卒業後半年足らずでこれほどの実績を残すとは大したものだ。若い頃の自分が同じ職場にいたならば、赤面して脱帽するしかなかったであろう。

新人B君には不良債権の回収業務を担当してもらった。ある日、彼は50歳代の取引先社長と激しく交渉したという。その後、彼は誰もいない社長室に行き、次のようなメモを残してきた。

「先ほどは人生の先輩である社長様に大変失礼な態度を取りましたこと、どうかお許しください。私も仕事としてなすべきことをなしたまでであり、恐縮ながらご理解いただければ幸いです。お仕事は大変なことと存じますが、なにとぞご自愛ください」

このやり取りがわかったのは、当の社長が感激してわれわれに電話をよこしてくれたからだ。日本の場合、大学卒業直後の新人社員でこれほど人情味のある交渉をできる人は、果たして何人いるだろうか。

優秀すぎて使いこなせない

何事もうれしいことがあれば悲しいこともある。数年後、有能なA君は英国系企業に引き抜かれていった。われわれの数倍に及ぶ報酬に加え、ロンドン本部研修2年間および研修終了後の香港勤務が約束されたという。われわれが研修やOJT(職場内訓練)を施し、大きく成長した青年が他社に引き抜かれてしまうのは、誠に口惜しいがどうしようもない。B君もわれわれがその才能を持て余し、彼もこの職場には自分をこれ以上成長させる余地はないと判断したためか、残念ながら他の会社に転じて行った。もったいないことだ。

もっともいくら有能とはいえ、20代前半の若者を中間管理職に抜てきするのは、人事政策上至難の業であろう。一般的な日本企業では、日本国内外の他の社員とのバランスを勘案すると、優秀ではあるがいつ転職してしまうか分からない人材に対し、何年も引き留めておけるほど魅力的な待遇や人事を考えるのは、なかなか難しいことに違いない。

<以下、(下)に続く>

バナー写真:中国・西安の大学で開かれた就職フェアで、自分の履歴書を見せて相談する学生(左)=2018年1月10日(Imaginechina/アフロ)

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