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ジャポニスム2018:パリで日本映画に脚光

佐藤 久理子【Profile】

[2018.08.17]

日仏友好160年を記念した、フランスで日本の文化を紹介するイベント「ジャポニスム2018:響きあう魂」が、7月12日に開幕した。一昨年、当時のオランド大統領と安倍晋三首相との間で合意され、現マクロン大統領に引き継がれて実現したものだ。展覧会、舞台公演、映像、生活文化の4つのカテゴリーに分かれ、パリを中心におよそ100カ所でさまざまなイベントが行われる。

映画については、シネマテーク・フランセーズ(映画博物館)とパリ日本文化会館において、9月から来年3月まで、日本映画のレトロスペクティブ(回顧上映)を開催。1920年代から現代に至る日本映画を3つの時代に分け、総ざらいで紹介する。そのオープニングを記念して、日本国外でのプレミア上映となる河瀬直美監督の新作『Vision』が、シネマテークで披露された。日本からは河瀬監督と、西日本豪雨で外遊をキャンセルした安倍首相に代わり河野太郎外相が出席した他、映画の舞台となった奈良県吉野の北岡篤町長らが顔を揃えた。

吉野の自然に捧ぐ

山伏たちがほら貝を演奏しながら登壇すると、その姿と厳かな音色に約400席の会場を満たす観客たちが息を飲んだ。演奏の後、吉野・金峯山寺(きんぷせんじ)の五條良知管長が、日本人に共通する自然を愛し、畏れ敬う姿勢について語り、『Vision』は吉野の山を舞台に、日本人の心を育んだ大自然の営みを描いていると紹介した。

河瀬直美監督(中央)とともに登壇した吉野・金峯山寺の僧侶たち。同寺の五條良知管長が山伏について説明した。

それを受けて河瀬監督が挨拶すると、大きな拍手が会場に鳴り響いた。

「私の作品にもこれまで自然とともに生きる人々の姿が描かれてきました。皆さんの記憶にも新しい2011年東日本大震災をはじめ、いまなお豪雨による災害で、たくさんの方の命が奪われてしまいました。それでもなぜ私たちが危険な場所に暮らし続けるのかというと、その答えには、私たちの先祖から育まれた“生かされてきた”という意識、命の大切さを思う気持ちが、心の中にあるのだろうと思います。私たち人間がこの先どのような道を歩いて行くのかを考える中で、私がこのように生かされて『Vision』という作品を吉野山で撮影させていただいたことは何かのご縁だと思いますし、感謝の気持ちでいっぱいです」

関係者による鏡開き。シネマテークのホールではこの日限定で奈良の物産展も開かれた

河瀬監督自ら脚本を書き下ろした『Vision』は、フランスの大女優ジュリエット・ビノシュと永瀬正敏の主演で、吉野で撮影された。1000年に一度出現するVisionという植物を求めて、フランスからエッセイスト、ジャンヌ(ビノシュ)が吉野の森にやってくる。山間に住む山守、智(永瀬)と出会った彼女は、そこに身を寄せるうちに、智に惹(ひ)かれていく。一方、智の知人である盲目の女性アキ(夏木マリ)から予言されていた通り、山の様子に次第に変化が訪れる中、智はある日、若い青年(岩田剛典)が森に倒れているのを発見する。

ジュリエット・ビノシュ(左)と河瀬監督

上映に先駆けた舞台挨拶では、河瀬監督と主演のジュリエット・ビノシュが撮影を振り返った。

「ビノシュさんが吉野の山奥に初めていらっしゃって、トンネルを通って吉野の山を、その緑を目にされたとき、とても美しいと連呼されていました。その思いが『Vision』の中に刻まれて、とても美しい映画が完成しました」(河瀬)

「確かに私は奈良、吉野の森にとても感激しました。その世界、慣習、伝統にも触れることができました。河瀬監督とそのチームの仕事ぶりにも深い感銘を受けました。河瀬監督はとても自立した女性で、ご自身の仕事のやり方を持っている。とくにカメラが回る前に沈黙の瞬間があり、それが聖なる瞬間のようで、吉野の森の風景とともにとても心に残るものでした」(ビノシュ)

ビノシュはさらに、「フランスの皆さんにはぜひこの山、木々に出会いに行くことをお勧めします。樹齢百年、千年といった木々と出会えるでしょう。その素晴らしさと恋に落ちると思いますよ」と、吉野の美しさをフランスの観客にアピールした。

彼女の言葉通り、本作はスピリチュアルで寓話的なストーリーが、自然の美しさと奥深さをすくいとる映像美によって、一層神秘性を増している。あえて謎を謎として残し、異なるキャラクターを意図的にオーバーラップさせる撮り方は、やや混乱を招いたようだったが(日本の俳優に対する予備知識のないフランスの観客にとっては区別がつきにくかったせいもある)、「自然の美しさが本当に素晴らしく表現されていた」、「雰囲気に酔った」、「まるで吉野の森を訪れたような気持ちにさせられた」という意見が聞かれた。

日本映画とフランス

「ジャポニスム」という言葉から想起されるように、フランスは日本文化に対して早くから大きな理解を示してきた国である。それは映画においても同様だ。カンヌ国際映画祭では、1954年に衣笠貞之助監督の『地獄門』が最高賞(当時はパルムドールではなくグランプリの名称)に輝いた。

シネマテークでは、創始者のアンリ・ラングロワが63年にフランス初の日本映画の特集上映を開催し、小津安ニ郎、溝口健二、成瀬巳喜男、黒澤明など、140本の作品を紹介した。続いて71年に、日本における初の映画上映から75年を記念した特集を行い、さらに84年には、500本もの作品を紹介する大レトロスペクティブを敢行した。シネマテークの現ディレクターであるフレデリック・ボノーは、「今回のジャポニスムのイベントは、シネマテークにとってこうした伝統を継承し、日本とフランスの絆をさらに強めるような記念碑的行事です」と語った。

パリ12区にあるシネマテーク・フランセーズ

90年代以降、是枝裕和、黒沢清、青山真治、河瀬直美といった新世代の活躍により日本映画に新たな注目が集まったが、その中でも初長編の『萌の朱雀』(1997)でカンヌのカメラドール(初長編作品賞)に輝いた河瀬は、初期から一貫してフランスで注目を浴びている監督である。海外に出る日本映画の中では珍しく女性監督であるという点も、より話題を集めている。

『Vision』は『Voyage à Yoshino』(吉野への旅)という題名で11月28日にフランスで公開される他、11月23日からはポンピドゥー・センターで、河瀬監督とスペインの映画作家イサキ・ラクエスタの共同展覧会が開催され、その全作品が上映される予定である。

写真=新村 真理

バナー写真:「ジャポニスム2018」の映画部門オープニング記念イベントに登壇したジュリエット・ビノシュ、河瀬監督、河野外相、シネマテーク・フランセーズのボノー館長=フランス・パリ、2018年7月12日

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  • [2018.08.17]

文化ジャーナリスト。慶応大学で美学美術史を学んだ後、出版社に入社し、映画雑誌の編集に携わる。その後渡仏し、フリーのジャーナリストとして映画をはじめ文化一般の取材を手掛ける。雑誌ふらんす(白水社)、映画サイトeiga.comで連載コラムを担当。著書に『映画で歩くパリ』(スペースシャワーネットワーク刊)。

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