人手不足という「迷宮」―なぜ人と企業は出会えないのか?

経済・ビジネス 社会

「超人手不足時代」に向けて加速度を増す日本。企業の採用活動や求職者へのコンサルタントを務める筆者が、深刻化する人手不足の現状分析と、企業と人材の最適な「出会い」の創出について提言する。

生産年齢人口の減少が加速、人手不足は深刻の一途

日本の雇用・労働をめぐり、今、最も切実な問題は「人手不足」である。

メディアでもこの問題を頻繁に取り上げている。最近NHKは、討論番組『日本新生』で「“超人手不足時代”がやって来る」という特集(2014年7月19日放映)を組んだ。冒頭に、そもそも生産年齢人口(15歳〜64歳)が長期的な減少トレンドになっているという問題提起が行われた。

番組では、2013年10月時点で生産年齢人口が32年ぶりに8000万人を割り込んだという最近の政府発表や、2040年には6000万人を割り、不足する労働力は最大で800万人に達するという試算が紹介された。少子化・高齢化が進み、総人口の減少をはるかに上回るペースで生産年齢人口が減り続けるのである。業界、職種によっては既に深刻な人手不足が起きているという厳しい現実も伝えられた。

メディアなどが取り上げる、人手不足を象徴する事象は次のようなものだ。

  • 企業の新卒採用枠が拡大。一方で、もともと応募の少ない中堅・中小企業に、ますます人が集まらなくなっている。
  • 牛丼チェーンなどが、深夜時給1,500円という、最低賃金の2倍に近い時給を提示しても、アルバイトが集まらない。
  • ドライバー、倉庫スタッフの不足により、繁忙期の宅配便が時間どおりに届かない。

これらの現象は、景気が回復に向かい、求人も回復しているという短期的なトレンドと、中長期の人手不足という問題、および業界ごとの違い、企業規模の格差という構造的な問題が絡み合っているといえる。

私は、新卒採用市場の調査、中堅・中小企業の採用活動コンサルタント業務などを仕事としているが、最近増えているのが、官庁・自治体などから依頼される地方の中堅・中小企業の採用活動支援セミナーの実施だ。こうした企業の採用活動は、もともと難易度が高い。予算も少なければ、もともと応募数も多くない。その上、求人数が回復してますます競争が激化したため、地方企業の採用担当者は頭を抱えている。

3社に1社が採用人数を確保できていないという現実

リクルートワークス研究所は、2014年7月、「人手不足の影響と対策に関する調査」を発表した。2014年6月20日〜24日に従業員規模30人以上の全国の民間企業勤務者で、採用業務に直接あるいは間接的に関わっている人を対象に、インターネットリサーチにて実施され、1000人からデータを回収した。

同調査によると、2014年4月〜6月の採用で正社員の中途採用で人数を「確保できた」のは67.9%、「確保できなかった」のは32.1%である。従業員規模が大きくなるにつれ、「確保できた」の割合が高く、例えば30〜299人の企業では「確保できた」が62.2%だが、5000人以上の企業においては80.3%となっている。業種別でみると、卸売業(81.3%)、金融業(79.4%)などでは「確保できた」の割合が高いが、「確保できなかった」の割合は医療・福祉(46.3%)、運輸業(42.4%)などで高い。

同様にアルバイト・パートのデータを見ると、全体では「確保できた」のは69.4%、「確保できなかった」のは30.6%となっている。業種別では、小売業(43.8%)、飲食サービス業(42.4%)などにおいて人数を「確保できなかった」という割合が、他の業界よりも高い。

このように、正社員においても、アルバイトにおいても3社に1社は必要な採用人数を確保できていないことがわかる。また、業界別の充足度などについても、人手不足問題に関する報道の内容と極めて近いといえるだろう。

若者を使いつぶす「ブラック企業」「ブラックバイト」

もう一つの深刻な問題は「ブラック企業」だ。「ブラック企業」とは、簡単に言うと「若者を使いつぶす企業」である。長時間労働、達成困難な目標、慢性化するサービス残業、不当解雇の乱発、パワハラの横行などが特徴である。結果として、メンタルヘルスの問題などで倒れる者が続出するし、離職率も高くなる。2013年には「新語・流行語大賞」のベストテンにもノミネートされた。社会問題化しているといえる。

この人手不足という問題も、ブラック企業問題に拍車をかけている。人が集まらないが故に、その企業に勤めている人が、ますます忙しくなるという問題である。

最近では「ブラックバイト問題」も明るみに出ている。「ブラックバイト」とは何か。労働問題、労働法の専門家などが参画するブラック企業対策プロジェクトが発表した冊子『ブラックバイトへの対処法―大変すぎるバイトと学生生活の両立に困っていませんか?』の中で、中京大学国際教養学部教授の大内裕和氏は次のように定義している。

「学生であることを尊重しないアルバイトのこと。フリーターの増加や非正規雇用労働 の基幹化が進むなかで登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い」

具体的な問題としては、残業代が払われない、何かあったときに罰金を求められる、休憩時間がない、セクハラ、パワハラが横行している、辞めるように圧力をかけられる(あるいは辞めないように、仕事を続けることを強要される)、「バイトリーダー」として社員並みの仕事量と責任を負わされる…などである。

学生は勤務先に強く言えないこと、希望する条件に合うアルバイトが簡単に見つかるわけではないことなどから、このような問題が起こっている。バイトの学生には重圧がかかるし、もし彼らが辞めた場合、社員にはますます負担がかかるというわけである。

このように、人手不足による負の連鎖も発生しているのである。

雇用の多様化と「出会う手段」の最適化

人手不足問題は複合的な要因によるもので、解決は簡単ではない。問題が複合的に起こっていることに注目したい。

【中長期的要因】
・労働力人口の減少
・産業構造の変化(経済のソフト化、サービス業へのシフト)
【短期的要因】
・求人数の回復による、人材ニーズの増加
【構造的要因】
・従業員規模別、業界・職種別、地域別の求人倍率の格差

社会的、構造的要因は不可避な部分も大きいが、そもそものアクティブな労働者の絶対数を増やすための工夫、たとえば女性、高齢者、障害者などがより活躍できるような雇用のダイバーシティーの推進は必須だ。企業と求職者の出会う手段の最適化も必要だろう。具体的には、職業紹介事業の充実が望まれる。ネットや求人情報誌だけでは企業と求職者のマッチングは難しく、両者を結ぶエージェント的役割が必要だ。

最適人材との「出会い」に必要な創意工夫

もっとも、個社レベルでの創意工夫が必要であることは言うまでもない。

島国で資源も限られた日本の企業が国際競争で勝ち抜くためには、優秀な人材が命なのだ。日本を代表する企業も、採用活動に力を入れるとともに、創意工夫を重ねてきた。トヨタ自動車、本田技研工業、ソニーといった日本を代表する企業を始め、リクルート、ヤマダ電機、ファーストリテイリング、ソフトバンク、GREE…。名前を挙げたらきりがないが、これらの企業が急成長した要因のひとつは、人材マネジメントである。特に人材の採用において創意工夫を行っていた。

中でもソニーは、1960年代からユニークかつ挑発的な求人広告を掲載するなどの取り組みをして注目を集めていた。学歴不問の採用手法を打ち出したりもした。普通の履歴書よりも項目数を増やしたエントリーシートと呼ばれるものを最初に導入したのもソニーである。他にも入社時期を自由に選ぶことができる採用手法などを2000年代になった頃には導入していた。すべて、優秀な人材、多様な人材を採用するためである。

最近ではソニーの業績の凋落が話題になるが、それと連動してか以前ほど採用活動でユニークな取り組みが見られなくなった。業績同様、採用活動も輝きを取り戻してもらいたいものだ。

国や自治体が担うべき部分もあり、それは私たちが声をあげて要求していくべきだが、その動きはいつも遅い。まずは個社、個人レベルでの創意工夫が必要だ。

(2014年8月11日 記)

タイトル写真=就職活動の学生たちで混雑する合同企業説明会場(写真提供:時事)

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