マイナンバー制度:導入の意義と今後の活用

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2016年1月の社会保障・税番号(マイナンバー)制度開始を前に、個人番号の通知が10月から始まった。世界各国の番号制度に詳しい筆者は、今回の制度導入に伴うオンライン情報連携を「経済活性化のための社会インフラとして積極活用すべきだ」と提言する。

制度開始は2016年1月から

2016年1月から社会保障・税番号(マイナンバー)制度が始まる。国民一人ひとりに、住民基本台帳に基づき生涯変わらない番号を振り、社会保障・税・災害対策、さらには地方公共団体が条例で定める事務などの分野で活用される。また、個人には申請に基づき、個人番号カード(マイナンバーカード)が交付され、これを活用してマイナポータルという個人用のホームページが設置される。

ポータルを通じて、①自己の番号に係る個人情報についてのアクセス記録の確認、②情報保有機関が保有する自己の番号に係る個人情報の確認、③電子申請、④行政機関等からのお知らせの確認を行うことができる。本人の申請を前提にしたこれまでの行政サービスのあり方が、行政が個人にお知らせをするプッシュ型行政に変わる。

使い道は、社会保障・税のほかにも

具体的に可能になるのは以下のようなことだ。(出所:政府・与党社会保障改革検討本部「社会保障・税番号大綱」)

  • 社会保障の給付や負担の状況を、国・地方公共団体等相互で、正確かつ効率的にやり取りすることで、給付漏れや給付過誤、二重給付等を防止し、個人や世帯の状況に応じたきめ細やかな社会保障給付の実現が可能になる。
  • 税務当局が取得する各種所得情報や扶養情報を、番号を用いて効率的にマッチングするにより正確な所得把握を行う。
  • 国民が、社会保障・税に関する自分の情報や、利用するサービスに関する情報を自宅のパソコン等から容易に閲覧可能となり、必要なサービスを受けやすくなる。
  • 国・地方公共団体等間で、申請等に必要な情報を適時やり取りすることで、所得証明書、住民票といった添付書類の削減など事務・手続きの簡素化が図られ、国民及び国・地方公共団体等の負担が軽減され、利便が高まる。
  • 保険証機能を券面に「番号」を記載したICカードを活用し、年金手帳、医療保険証、介護保険証等の一元化を行い利便性の向上を図る

17年から「官」と「民」とのオンライン情報連携

冒頭述べた、「マイナンバー」「マイナンバーカード」「マイナポータル」という3つの社会インフラを比較してみよう。

「マイナンバー」は、当面は税務と社会保障(さらには災害など)に用途が法律で制限され、不正使用などには厳しい刑事罰が用意されている。

一方、「マイナンバーカード」は本人確認のための身分証明に使えるだけでなく、カード搭載のICチップにより、公的個人認証用の符号を用いてさまざまな電子的な活用が可能である。マイナンバーそのものを使わないのでプライバシーなどの問題を克服でき、法律の規制もなく、民間の知恵によりその活用範囲を広げることができる。すでに、インターネットバンキング、オンラインショッピングなど、民間のオンラインとの連携が検討されている。

その利便性をさらに拡大するのが、17年から始まる「マイナポータル」である。個人ごとに設けられるマイナポータルは、マイナンバーカードをリーダーに読み込ませて、パスワードを入力して活用する、「官」と「民」とのオンライン情報連携の仕組みである。自らの特定個人情報の確認や、行政からのさまざまなお知らせを受け取るという機能だけでなく、電子私書箱機能や電子決済機能なども行われる予定で、「官」「民」のサービスの連携が可能となる。

つまり、マイナンバー制度のメリットを国民が実感するためには、マイナンバーカードの普及とマイナポータルの活用がカギを握っているといえる。

欧州諸国の番号制度と比べての特色

先進諸国で導入されている番号制度の活用法を見てみよう。最も番号を活用している国はスウェーデンで、1947年に住民登録番号(PIN)として利用し始めた。国税庁が付番機関となっており、番号をもとに行政機関間で広く住民登録情報が共有され、民間利用も含めて活用されている。例えば、行政が保有している住民の所得情報などは、有料で民間に情報提供が行われている。ある企業が、特定地域の住民にマーケティングしたいという場合、有料で特定地域の住民の住所・氏名・所得情報まで提供している。

この対極がドイツである。ドイツは第2次大戦中、ユダヤ人の体に番号を焼き付けて管理したという歴史があり、国民の番号に対する不信感は極めて根強いものがある。今日に至るまで、国民の番号に対する抵抗感は強く、複数の行政分野で利用できる統一番号は導入されておらず、税務目的に限定した納税者ID番号が導入されているだけである。

両国の中間がオランダである。活用されている市民サービス番号(Citizen Service Number)は、社会保障・税番号(SoFi Number)を置き換える形で2007年に導入され、毎年国民の議論を経て活用範囲が拡大されてきた。今ではほとんどの行政分野で活用されている。

このように、番号の活用法は、歴史や経緯により大きく異なっている。日本でも、法施行後3年を目処に、パスポートや戸籍、医療など5分野への拡大が検討されることになっている。すでに預貯金口座への付番を18年から始める法律改正が行われた。当面は預金者には番号の告知を義務付けないが、いずれ告知は義務付けられ、預金口座への付番は拡大していくだろう。

税の補足、預貯金口座には大きな効果

正確な税の捕捉にとってマイナンバーは有力なツールだが、オールマイティーではない。個人事業者の売り上げを番号で把握しようとすれば、消費者が、店で購入の都度、店の番号付きで税務当局に購入金額を報告し、それを店(小売事業者)の申告と付き合わせる(マッチング)必要があるが、このような制度は現実的ではない。

「経費」についても、正確に把握するには、小売事業者の支払いが、所得を得るために必要な支出(「経費」)であるか、個人的な消費(家事費)かを区分しなければならないが、番号を付けても区分は難しい。このように、事業所得などへの活用には限界があるが、預貯金口座への付番は適正な申告に向けての大きなけん制効果になろう。

納税者の申告は簡単に

一方、納税者にとって利便性の高いものにしていく必要があり、「記入済み申告制度」の導入が考えられる。

この制度は、税務当局が、源泉徴収票などの支払調書の記載内容である、給与収入や年金の金額や、その源泉徴収額などをあらかじめ申告書に記入して納税者に送付し、納税者はその内容を確認、必要に応じ修正して税務申告が終了するという制度で、欧州諸国で納税者サービスの一環として行われているものである。本来国税当局が行う行政サービスであるが、わが国では、マイナンバーカードとマイナポータルを活用しての検討が行われている。

具体的には、年金支給額や社会保険料の納付額、生命保険等の保険料控除証明、医療費支払情報などをマイナポータルで受け取り、税務申告書に自動転記してe-Taxする仕組みである。

医療分野の情報への付番は、個人情報保護やプライバシーへの配慮から慎重な意見が多いが、医療情報には、医療費支払い情報、レセプトデータ、カルテ等があり、情報の性質により機微性は異なる。医療費支払い情報には、機微な情報は少ない一方で、医療費控除が簡素になるという大きなメリットがある。国民が、番号制度の利便性を実感するためにも、医療費支払い情報をポータルに送付する仕組みが必要である。

経済活性化のための社会インフラとして

日本社会の高齢化は確実に進んでおり、労働人口の減少は経済にとって大きな負荷となっている。これを乗り切り経済社会を活力あるものにするには、経済社会全般にわたってICTの活用を進めていくことが不可欠である。その切り札となるのが、マイナンバー制度である。

マイナンバー、マイナンバーカード、マイナポータルという3つの新たな社会インフラを活用し、国民が利便性の高い国・自治体のサービスを受益するとともに、さまざまな民間利用を広げていく。そこに大きなビジネスチャンスも生まれる。マイナンバー制度の運用については、経済・社会の活力を保持するという観点から知恵を出し合うことが必要とされている。

バナー写真:社会保障・税番号(マイナンバー)制度導入後、希望者に配布されるICカード「個人番号カード」のイメージ見本。国民一人ひとりに12桁の番号が割り振られ、顔写真が付くので身分証として使えるほか、健康保険証と一体化することなどが検討されている(時事)

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