日産新型リーフ発売:EVは自動車メーカーの勢力図を変えるのか?

経済・ビジネス

130年前、ドイツ人ベンツとダイムラーが生み出したエンジン車。不動と思われたその地位が今、環境問題などの影響で大きく揺らいでいる。特に電気自動車(EV)の本格的な参入により、自動車産業界の勢力図が塗り替えられつつある。日本の自動車メーカーはどのように対応していくのだろうか。

日産自動車が電気自動車(EV)の「リーフ」をほぼ7年ぶりにフルモデルチェンジして10月2日に国内で発売する。海外でも来年1月以降、欧州や米国で売り出す。欧州ではEVシフトの動きが速まり、米テスラは量産EV「モデル3」を売り出した。EV量販車が日米欧の主要市場に投入され、EVが自動車業界を熱くしている。

日産が9月6日に発表した新型リーフの航続距離(JCO8モード)は400キロメートル。この航続距離は初代2010年モデルの2倍、15年モデル比で42%伸びた。モーター出力は10年モデル比38%増の110kWとなり加速力は増した。

日産の西川廣人(さいかわ・ひろと)社長は「EVはもう特別な存在ではなく、普通のクルマとしていかに魅力的な価値を提供できるかが大きなカギとなる存在となった」と語った。自動で車庫入れなどができる機能を付けたが、初代リーフ並みの価格(315~399万円)に抑えた。

国内販売台数は月間2000~3000台を見込む。初代リーフの2~3倍の水準だ。初代の販売台数はほぼ7年間で約28万台。世界で最も売れたEVではあったが、日産トップのカルロス・ゴーン氏にとっては期待外れの結果だったという。それをEVブームに乗って、新型リーフで巻き返しを図ろうとしている。

自動車が家電製品になる日はこない!?

EVがここにきて俄然(がぜん)、注目され始めたのは独フォルクスワーゲン(VW)が引き起こしたディーゼル車の排ガス不正がきっかけだ。ディーゼル車は二酸化炭素(CO2)をあまり出さないクリーンなクルマだと受け止められて欧州で広まったが、体に直接影響を与える窒素酸化物(NOx)などの排ガスは出し続けていたことが分かったのだ。一気に欧州ではゼロエミッションのEVに舵(かじ)が切られ、英、仏政府が2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売禁止を打ち出した。

米国ではイーロン・マスク率いるテスラがプレミアムブランドのEVを出し、ベンツやポルシェから客を奪ってきた。今年から「モデル3」を発売し、量販車市場にEVを投入し、EV市場の拡大が加速し始めた。

モーターと電池が中核部品のEVは一般的にはパソコンやIT家電製品のように中核部品を調達し、組み合わせれば製造できるのではないかと見られている。そのため従来の自動車産業以外からもEV市場に参入する新興企業が相次ぎ、産業構造が大転換するのではないかという見方が多い。またクルマがコモディティー(はんよう品)になるという見方も出始めている。

トヨタ自動車の豊田章男(とよだ・あきお)社長は8月4日のマツダとの資本提携発表の席で「未来のクルマを決してコモディティーにしたくない」と話した。その背景にはクルマの電動化が進めば性能面で差別化が難しくなり、トヨタの強みが発揮できないのではないかという危惧があるからだ。

6日の日産リーフの発表会で西川廣人社長にクルマはコモディティー化するかと聞いてみた。西川社長の答えは「コモディティーにはならない」だった。

開発担当の坂本秀行(さかもと・ひでゆき)副社長も「EVはガソリン車などよりも自動化技術などやれることが多くなり、そうした技術を実現できるかどうかでむしろメーカーごとに違いが出てくる」と言った。ガソリン車がEVに変わっても、性能に差がなくなるわけではないという主張だ。既存の自動車メーカーが新興勢力に対して「クルマの世界は甘くないぞ」とけん制球を投げた形だ。

「すり合わせ技術」が鍵

例えば新型リーフと先代リーフを比べると航続距離が大きく伸びたが、リチウム電池の体積はほぼ同じだ。なぜ電池の量が大幅に増えていないのに航続距離が伸びたのか。

電池材料の進化や電池とモーターとを効率よく連携させる制御技術の改善、空力性能アップのための車体設計、車体の軽量化と足回りの工夫といった機械工学や制御工学、材料工学など多数のエンジニアの知恵の集大成だった。

クルマづくりが難しいのはハードからソフトまでの技術を総動員しなければいけないからだ。しかも乗り心地や加減速のテイストを微妙に調整する匠(たくみ)の技術もクルマの魅力を左右する。同じエンジンを載せても、車体や足回り部品などが変われば走りに差が出るのがクルマという商品である。多様な部品を微妙に組み合わせて最適解を作る「すり合わせ型」の典型的な製品なのだ。EVになれば約3万個の部品点数は4割ほど減るといい、その分、簡単に作れるように思えるが、現実はそうではない。

リーフが航続距離を伸ばしたのもさまざまな技術集積の結果だったが、もちろんリチウム電池の量を倍に増やせば、航続距離は2倍近くにはなる。だがそれではコストも車体重量も大幅に増え、商品価値は減じる。単純に部品を組み立てるだけでは最善の価値を達成できるわけではない。

しかも排ガス規制をクリアしなければならないガソリン車などに比べ制約が少なくなった分、新しい挑戦分野が増える。新型リーフにはアクセル操作だけで「発進」「加速」「減速」「停止」「停止保持」ができる「e-Pedal」を標準装備した。普通のクルマで使われている摩擦ブレーキとハイブリッド車やEVで使われている回生ブレーキをスピードなどに応じて精緻に組み合わせて生まれたテクノロジーだ。自動車開発に長く携わっていたからこそできた、これもまた「すり合わせ技術」である。

やがて淘汰の時代が始まる

EVが進化しつつあるとは言え、EVにはまだ限界もある。新型リーフの航続距離400キロメートルは日本の一般的なクルマユーザーを考えれば十分な距離かもしれないが、ドイツのようにアウトバーンを時速180キロで走り続けられるクルマが必要な国では不十分。EVは高速で走り続けると電池の減りが早くなり、400キロメートルも走れないからだ。

電池の充電時間の短縮も大きな課題。新型リーフの場合、充電時間は急速充電で40分、普通充電で8時間~16時間だ。充電時間の短縮は長期的な課題だと言われ、そう簡単には短くはならない。

こうしたEVの欠点を補うためにモーターの他にエンジンを積み、電池切れの際にはエンジンを発電機として活用するレンジエクステンダー型のEVが発売されている。つまりクルマが電動化するとしても、その欠点を補うためには既存のエンジン技術が必要な面もあるのだ。

ドイツで約130年前に生まれた自動車産業が、それ以来の大きな大転換期を迎えているのは確かである。だが、クルマは1トンを超す鉄でつくった車内空間に人を乗せ、地上を時速100キロ以上の高速で走る機械である。クルマに求められる安全性や信頼性はパソコンやスマホなどのIT機器のレベルをはるかに超える。そう考えれば今しばらくはEV時代になったとしても既存の自動車メーカーは競争優位性を保持し続けるだろう。

だが西川社長は言う。「EVは2019年、20年、21年と新規参入は増えテークオフするだろう。だが、20年から25年の5年間でどれだけのメーカーがついていくのか、という段階になる」。これから5年ほどは新規参入者が増えるだろうが、その次の5年間で早くも淘汰(とうた)の時代が来るとの見立てである。淘汰されるのが既存勢力なのか新興勢力なのかはまだ分からない。

バナー写真=日産自動車が発表した電気自動車の新型「リーフ」(LEAF)とEV発電器。フル充電での走行距離を400キロにした=6日、千葉市の幕張メッセ(時事)

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