「死後離婚」—女たちの 最終 “独立宣言”

旦木 瑞穂【Profile】

[2017.11.17] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | العربية | Русский |

夫の死後に妻が姻族関係を法的に解消する「死後離婚」が増えている。嫁として「家に入る」という意識の希薄化や、義理の親の介護まで担いたくないと考える女性たちの決断がその背景にある。

「姻族関係終了届」の提出のみで成立

今、日本で「死後離婚」が増えている。本来離婚は互いの同意なくしては成立しないが、死後は別である。配偶者の死後に、どうしても配偶者の両親、兄弟姉妹などとの関係を断ちたい場合は、「姻族関係終了届」という書類を役所の戸籍課や市民課に提出することで、法的に関係を解消することができる。

本人だと確認できる書類と、配偶者の死亡を証明する戸籍謄本などを持参し、「姻族関係終了届」に自分の氏名、住所、本籍、死亡した配偶者の名前を記載し、押印するだけで手続きは完了。誰の同意も許可も必要ない。提出期限もなく、配偶者が亡くなった後であればいつでも出せる。親族側に拒否する権利はなく、通知もされない。

このように、簡単な手続きで「死後離婚」は公的に成立する。しかし、「死後離婚」が増加してきたのはここ数年のことだ。それまでは「死後離婚」という言葉もなく、「姻族関係終了届」は、役所の戸籍課の人間ですら知らないほどマイナーな存在だった。

法務省の戸籍統計によると、同届の提出数は、2013年度に2167件となるまでは微増傾向だった。しかし、14年度に2202件となって以降、15年度には2783件と600件近く増加。さらに16年度には4032件と、前年度に比べ約1.5倍に。13年度から3年で2倍近くに増えている。しかも、提出者の大半は女性とされる。

「家に入る」という意識に見る世代間ギャップ

「死後離婚」が急増している背景の1つにあるのが、「家制度」に関する「世代間ギャップ」だ。

農耕民族である日本人の「家制度」の典型は、戦前の農村家族に見ることができる。小作農ではない農家は、数百年前から田畑を所有し、家族や親族で農業を営み生活をしてきた。生活の糧となる土地や財産は、細分化による家の衰退を防ぐため、その家の長男が継承。一族を統率するために、家の構成員には長男を筆頭とした序列ができていた。そこへさらに、明治時代には政府が民法で「家父長制」を基にする「家制度」を規定。代々長男が家長を務め、土地や財産を受け継ぎ、女性はその家に嫁ぐという構図が固定化された。

「家制度」は戦後の民法改正によって廃止されたが、その考え方は戦前教育を受けた人や、その子ども世代(70歳代後半~)の日本人に深く根付いている。その多くは、嫁は結婚相手の「家に入る」という意識が強く、義理の両親との同居や家業の手伝い、親戚付き合いや介護などを当然のように受け入れてきた。そのため、「自分の子ども世代も自分たちと同じようにやってくれる」という “期待” があり、自分たちがかつて担ってきた役割を、当然のように嫁に求めてしまうのである。

一方、戦前には約5割を占めていた農業や漁業を中心とした第1次産業従事者の割合は、1955年以降減少が続き、85年頃には1割を切った。また、戦後の高度経済成長期以降、地方の若者たちが就職や進学のために都市部へ移動。親世代と離れ、夫婦と子どものみで暮らす核家族という生活形態が中心となり、「家」という概念も「家に入る」という意識も、受け継がれることなく薄れていった。

女性の社会進出が進んだ現在では、家事や育児をしながら男性と同じように働き続けている既婚女性も少なくない。嫁として期待される昔ながらの役割を、義理の親に対して果たし続けることは、精神的にも経済的にも難しくなっている。

「姻族関係終了届」は法的な切り札

法律上、3親等以内の姻族は民法上の親族であるため、扶養義務が生じる。つまり、配偶者の両親や祖父母、配偶者の兄弟とその子までが扶養義務の生じ得る対象となる。しかし「姻族関係終了届」を提出すれば、離婚と同様、親族関係が解消されるため扶養義務はなくなる。

だが実は、わざわざ「姻族関係終了届」を提出する必要はほとんどない。扶養の義務が生じるのは、義理の両親から審判の申し立てがあり、家庭裁判所が「特別の事情」を認めて嫁に扶養義務を負わせる旨の審判を下した場合のみだからだ。その「特別の事情」とは、嫁が義理の両親に長年養ってもらっていた場合などに限られ、仮に審判で扶養義務を負わされたとしても、あくまでも「生活扶助義務」であり、嫁に余力がある場合に限って、義理の両親が最低限度の生活を送れる程度まで扶助すればよいとされている。

それでもきっぱりと、「関係を断ちたい」と考える人が増加したのはなぜだろう。それは、少子高齢化の影響により若い世代に経済的・精神的負担が増えたことで、義理の両親の老後の面倒まで見られないという人が増えたことが大きいかもしれない。

これまでに幾つかの媒体で紹介された実例を見てみよう。義理の母との同居を約30年続けてきた50代の女性は、夫に先立たれた後も住宅ローンを払い続ける。しかし義母は、自分の年金から一切生活費を負担しようとしない。そんな生活から抜け出すために、「姻族関係終了届」を提出した。

また、結婚後に夫が実家の家業を継ぎ、夫の両親と同居をしてきたという女性は、夫の死後、家事や2人の子育てをしながら、家業を継ぐことになった。すると義理の母親から、度々仕事の進め方について指摘を受けるようになる。次第に女性は夫の死についても責められていると感じるようになり、2年間悩んだ末に「姻族関係終了届」を出した。

一方、結婚後も20年以上にわたって続けてきた仕事を、義理の両親の介護のために辞めなければならなかったという50代の女性は、女性の社会進出が進む現在も、親の世代が嫁に対して抱く “期待” に不満を募らせているという。

まだ夫が健在だった頃には、家庭を守るために我慢ができた彼女たちだが、夫の死後までも義理の両親に縛られるのは納得がいかない。現在50歳から60歳までの嫁世代は、前述のように「嫁は家に入るもの」という意識を持つ夫の親(70代後半~)からの「扶養」や「介護」にかかる “期待” に耐えきれず、「籍を抜きたい」という強い衝動にかられる。そして、「姻族関係終了届」の存在を知り、最終手段に出るのである。

夫と同じお墓でなくてもいい

「家に入る」という意識が薄れた日本では、近年、お墓に対する考え方も大きく変わってきている。「家に入る」という意識が強かった頃は、嫁は夫の家の「先祖代々の墓」に入るのが当たり前だった。しかし最近では、夫や義理の両親との不仲や、後を継ぐ子どもに維持・管理などの負担をかけたくないとの理由で、夫やその先祖の墓に入らない選択をする女性が増えている。そうした思いから「死後離婚」を考える人もいるようだ。

第一生命経済研究所が2009年に実施した墓に関する意識調査では、誰と一緒のお墓に入りたいかという質問に対し、男性は「先祖代々のお墓」が最多で48.6%だったが、女性は29.9%と大きな差があった。

さらに、14年に同研究所が60代、70代の既婚男女に対して実施した調査では、一般論として「夫婦は同じお墓に入るべきか」という問いに対して、「あまりそう思わない」「そう思わない」を選んだ男性が12.6%に対し、女性は23.1%。また、現在の配偶者と同じ墓に「入りたい」と回答した男性が64.7%に対し、女性は43.7%と半数を下回っていた。「夫婦は同じお墓に入るべきだ」という考えにとらわれているのは、男性の方が多いようだ。

「死後離婚」と直接関連はないが、女性の意識の変化や、経済的にも精神的にも自立する女性が増えたことで、女性専用のお墓の需要が高まっている。また、ここ10年ほどの間に、永代供養墓や樹木葬、自動搬送式納骨堂など、後継者を必要としないお墓の選択肢も増えた。「墓友(はかとも)」という言葉も聞かれるようになり、「同じお墓に埋葬できるのは親族のみ」という規定のない霊園も年々増加している。

今、世界で最も早く少子高齢化が進む日本には、高齢者の介護問題をはじめ、解決すべき問題が山積している。しかし、近年増加している「死後離婚」やお墓に対する考え方の変化が、家に縛られてきた日本人の、特に女性たちの独立宣言のように思えるのは私だけだろうか。

(2017年11月8日 記 /写真:PIXTA)

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  • [2017.11.17]

フリーライター、デザイナー。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメやイベント、葬儀や介護など終活に関する記事の執筆、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行なう。月刊『仏事』(鎌倉新書)、「エルダリープレス」(高齢者住宅新聞社)などで連載中。 

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