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ジャーナリスト徐静波が見たトランプ大統領
[2017.12.20]

トランプ米大統領は、就任後、初めてアジアを歴訪した。北朝鮮の核・ミサイル危機で東アジア情勢が緊迫する中、今回の日・中・韓との首脳会談で、朝鮮半島情勢はどこに向かうのか。現地で取材に当たったアジア通信社の在日中国人ジャーナリスト、徐静波さんに聞いた。

徐静波

徐静波XU Jingbo1963年中国浙江省生まれ、ジャーナリスト。92年私費留学で来日。東海大学大学院で文学を専攻後、2000年、アジア通信社を設立。01年、日本語の中国経済専門紙「中国経済新聞」を創刊。中国共産党全国代表大会および全国人民代表大会の取材を、中国側からも高く評価されている高名な在日中国人ジャーナリスト。中国政治や経済に精通し、特に中国の流通業や製造業について詳しい。著書に『株式会社中華人民共和国』(PHP研究所、2009年)、『2023年の中国』(作品社、2015年)など多数。若い中国人に支持されている。

——トランプ大統領が日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンを歴訪しました。徐さんは大統領と共に現地を回り、何を感じ取り、どんなことを最も伝えたかったのでしょうか。

徐静波 トランプ大統領を東京、ソウル、北京と追いかけて取材しましたが、彼が各国で話したことは全て異なっていました。それぞれの国の反応も違っていたのは当然です。韓国では、米軍は韓国の人々を守ってくれる保護者であるはずですが、トランプ訪韓に反対するデモをやっていました。不思議なことでした。しかし取材して分かったのですが、韓国人の中には、北朝鮮が元々の故郷でいまだに親戚が北朝鮮にいる人も多いため、血を分けた人たちと戦うことは絶対にあってはならないと考えているのでしょう。そして、もう一つ。ソウル市内には漢江という川が流れています。この川を挟んで北側と南側では不動産価格に倍の差があるのです。北側が安く、南側が高い。なぜなら、北側の不動産は北朝鮮に近いため、買いたくないという人が多いのです。韓国人が持つ北朝鮮への恐怖感、平和に対しての思いが現地取材を通じてよく分かりました。

トランプ歴訪はビジネスの旅

——トランプ歴訪を日本の視点から解説してみましょう。トランプ大統領は、ハワイの太平洋軍司令部を経て在日米軍司令部がある横田基地で、米空軍のジャケットを着てスピーチをしました。朝鮮半島に有事があれば、前線の指揮をとる司令部で、独裁者と独裁国家にメッセージを発したのです。北朝鮮が米国を甘く見れば、大変な惨事が起きるという一種の警告とも取れる発言でした。これを受けた日米首脳会談では、北朝鮮に対して最大限の圧力を掛けていくことで両首脳は完全に一致したとしています。続く韓国では、トランプ大統領は、北に一族のルーツをもつ文在寅大統領と会談し、核・ミサイルの廃棄を目指すことで一応見解を共有したものの、東京とはトーンが明らかに違っていました。その後、北京では国連決議を順守して、北朝鮮の非核化を目指すことで一致しましたが、武力で事態を解決することには中国側は全く歩み寄りませんでした。その大きな背景としては、中国側から日本円で28兆円という立ちくらみをするほどの巨額な「買い物リスト」が示されたことがありました。これらは、トランプ支持派の基盤である「プアーホワイト」の懐を潤し、雇用を確保することに直接役立つため、中国ペースになったのでしょう。

 トランプ大統領が日本、韓国、中国で言ったことは「本音」ではありませんよ。彼はあくまでも「商売人」です。日本にも中国にも思い切った買い物をしてほしいのです。今回のアジア歴訪で私が感じたのは、トランプ大統領は武力を使ってまで北朝鮮と戦う気持ちは全くないということです。北京で習近平国家主席と北の核ミサイルについて意見は交わしましたが、結果として中国に任せましょうということになったと思います。その証拠にトランプ大統領は中国に北朝鮮問題への対応を強く求めることはありませんでした。彼の狙いはあくまで「ビジネスの旅」だったのです。横田基地での「自由で開かれたインド太平洋」発言も、中国が第19回党大会で海洋大国を目指すという戦略を打ち出したことへの対抗策だったと思います。トランプ大統領は訪中期間中、南シナ海問題や、安倍晋三首相が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」について、全く触れませんでした。

——中国は今や世界第2位の経済大国になりました。2030年までに第1位になる可能性もあります。経済大国としてどんな責務を果たすのでしょうか。

 第二次世界大戦が終わって中国はずっと社会主義で経済的にも弱かったわけです。しかし、今は力をつけて経済もどんどん発展し、世界第2位の経済大国になりました。世界の経済に対する貢献率は30%までになった。だから今後、中国はその利益で世界に貢献していくでしょう。でも、中国の世界に対する貢献度は上がっているのに、得られる権利や利益はそのままなんです。これはちょっと不公平ですよね。中国が世界第1位の経済大国になったとすると、国連の分担金も多く負担するように言われるでしょう。さらに国際的な紛争に対しても協力するように求められる。中国の責任はますます重くなります。「もっと牛乳を出してください。でも草は食べさせません」。こんなことわざが中国にあります。いまの中国が置かれている立場はまさにこれなのです。

日本もAIIBに参加を

——確かに超大国アメリカは、基軸通貨ドルを握っていますから存分に草を食べています。でも、日本は、5大戦勝国に国連の安全保障理事会の常任理事国の椅子を独占され、拒否権まで握られている。日本とドイツは常任理事国ですらありませんが、膨大な国連負担金を担っていますよ。中国が草を食べていないとすれば、日本は雑草すら与えられていない(笑)。日中両国は今や世界経済のけん引車ですからこうした現状は変えるべきでしょう。

 日米同盟も理解できますが、戦後70年が過ぎ、日本はもっと独立した国として発展してほしいと思います。中国が提案する一帯一路構想は、中国が全世界をコントロールする野望ではありません。世界の人々に「一緒に参加し、winwinの関係になりましょう」と呼び掛けているのです。ヨーロッパを含めて今、アジアインフラ投資銀行(AIIB)には80カ国が参加していますが、日本とアメリカは参加していません。中国の提案に世界の大部分の国が賛同し、参加している。日本の一部の企業もすでに参加していますよ。ですから、日本の皆さんには「一帯一路」構想を誤解しないでほしいのです。

——私も先日上海に行ってきました。日本企業の方々も実質的に「一帯一路」構想にさまざまな形で参加している実態を見てきました。新しい潮流になりつつあります。

 私が取材した重慶では日本の企業が12社入っています。全て物流会社です。中国の日本企業の電子部品などさまざまな貨物を重慶発の長距離列車に載せてヨーロッパまで運んでいるのです。日本政府は自分がアジア開発銀行(ADB)を主導しているからAIIBに多少、遠慮があるかもしれませんが、中国はADBに6.4%を出資しています。出資比率ではアメリカ、日本に続いて中国は3番目です。中国は日本が主導するADBにも参加しているのですから、日本もAIIBに参加してもよいのではないでしょうか。

日中の協力は最強コンビ

——徐さんは中国にはこれだけ実力があって、いろいろと貢献しているのに、中国という名の巨牛は、お乳だけは搾り取られ、草を食べてないと指摘しました。そんなことはないと思います。その代わり“中国牛”は最近、首に光輝く真珠の首飾りをしているではありませんか。確かに、中国と日本が今、中東の石油に最も依存しています。その原油供給のシーレーンに沿って、パキスタン、スリランカ、ミャンマーの港湾設備、つまりこれらの真珠に中国は着々と投資をしています。シーレーンを守るため、外洋海軍の建設も急ピッチです。真珠の首飾りをしながら草も十分に食べ始めていると思いますが、どうですか。

 今回、ベトナムで安倍首相と習国家主席が友好的な会談をし、安倍首相は日本と中国が第三国で経済協力体制を作りましょうという提案をしました。私は中国と日本が力を合わせれば、世界のどの市場でも勝てるのではないかと思います。1997年の中国共産党の第15回党大会から20年間、私はずっと党大会の取材をしています。今回の第19回党大会のように、アフリカや中東地域から多くの報道陣が来ていたのは初めてです。私はアフリカの記者に中国に何を期待しているのかと聞きました。答えは2つ。金とノウハウです。40年近くかけていかにして経済大国になったのか教えてほしいというのです。中東の記者に聞くと、中東地域には、一党が独裁的に統治している中国と同じような社会体制の国がある。にもかかわらず、中国だけがうまくいって、なぜ自分たちはうまくいかないのか、それを学びたいと言われました。アフリカや中東の人たちも「一帯一路」構想に参加したがっています。日本の技術力と中国の労働力や製造力が力を合わせれば、アフリカや中東でも必ずやうまくいくと確信しています。

——世界のために日本と中国が連携する。とても前向きな未来を見据えたよい提案だと思います。今日はありがとうございました。

聞き手=手嶋 龍一(ニッポンドットコム理事長)

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