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2018年度税制改正:デフレ経済脱却への後押し狙う

森信 茂樹【Profile】

[2017.12.19]

自民党、公明両党が決めた2018年度税制改正の方針について、主要なポイントを解説する。

2018年度税制改正は所得税や法人税、さらには事業承継税制(相続税)に踏み込むとともに、国際観光旅客税(仮称)などの新税を作るという盛りだくさんの内容であった。

所得再配分機能を強化

所得税では、「働き方改革への対応」と「所得再分配機能の強化」の2つを見据え、給与所得者の経費控除である給与所得控除の上限の引き下げ(増税)と合わせて、あらゆる納税者に適用される基礎控除の引き上げ(減税)が決まった。

給与所得控除は、給与所得者の経費の概算控除であるが、幾度の減税などにより諸外国と比較しても過大な水準にあり、ここ数年、高所得者の所得控除に上限を設定しつつその額を縮小してきており、今回も同様の縮減措置が取られた。ただし、子育て世帯や介護世帯には、負担増が生じないよう手当てが行われた。これにより、年収850万円超のサラリーマンの税負担は増加するが、その数はおよそ200万人、全体の4%程度といわれている。一方で、基礎控除の引き上げにより、働き方改革で増加すると予想されるフリーランスなどの個人事業者は減税となる。

年金の税制も強化された。年金収入が1000万円超の受給者や、給与所得などが1000万円超ある年金受給者に対しては、負担増を求める。対象となるのは20万人程度で、年金受給者全体の0.5%程度である。

安倍政権の下では国民負担の議論が長らく途絶えていたが、今回は久々に国民の負担の在り方が議論され、所得再分配機能が強化され、格差拡大の防止という大きな方向感の出た税制改正となった。この背景には、直前の総選挙で大勝し政権基盤が安定したという政治的な理由や、19年10月から予定されている消費税率の引上げにより、低所得者の負担が相対的に増えるという逆進性をにらんでの思惑、つまり高所得者からは一層の所得税負担を求めるので消費増税を理解してほしいという考え方がある。

企業に賃上げ、設備投資促す

次に法人税である。先進諸国における法人税率の引き下げ競争は依然続いている。とりわけ米トランプ政権が20%程度へと大幅に税率を引下げることもあり、競争力を確保していくためには、現行の法人税負担である29.7%をさらに軽減していくことが必要であるという認識があった。

一方で、日本企業は、2016年度末で過去最高の400兆円を超える内部留保をため込んでおり、これを伸び悩んでいる賃金の上昇や設備投資に振り向けるよう企業行動を変えていくことが大きな課題となっていた。

そこで、企業行動を後押しし、内部留保を賃上げや設備投資に振り向けさせる政策として、大企業に対して、前年度比3%以上従業員給与を増加し、設備投資を当期の減価償却費の9割以上行った場合には、20%を限度とする税額控除を与え、実効税率が25%程度になるような租税特別措置を導入する。また中小企業についても、賃金を前年度比1.5%以上増加した場合には実効税率を同様に引き下げる軽減措置を導入する。

本来は「課税ベースを拡大して税率を引き下げる」ということが法人税改革の理念で、それと逆行する流れであるが、現下の日本の経済情勢にかんがみて、内部留保を賃上げや設備投資に回すことの重要性が極めて高いとして導入された3年間の時限的な租税特別措置である。

中小企業の事業承継に配慮

もう一つ注目すべきは、中小企業の経営者が高齢化するとともに、その後継者を見つけることが難しいという事情に配慮して、事業承継税制(非上場株式に対する贈与税・相続税の納税猶予の特例)を大幅に緩和することが決まったことである。今後10年間の贈与・相続に対する特例として、中小企業の経営者が子供など親族の後継者に事業を承継させる場合には、一定の要件を満たす事業を続けている限り総株式の全額について納税猶予が行われることとなる。これまでは承継後5年間は平均8割の雇用維持が条件づけられていたが、今回この部分が弾力化され、より使いやすい制度になった。

「出国税」1000円を新設、具体的な使途は?

特筆すべきは、国際観光旅客税(仮称)が創設されたことである。急増する訪日観光客の需要に対して、観光分野のさまざまな環境整備を行う必要が出てきた。この需要に活用する財源として、日本から出国する旅客に対して、1回につき1000円の課税が行われることとなった。2019年1月7日以降の出国者に対して適用される。これに対しては、具体的にどのような分野に税収が使われるのか、今後十分監視していく必要がある。

免税となる外国人旅行者向けの消費税については、現行制度では最低購入金額が「一般物品」と「消耗品」でそれぞれ5000円以上となっているが、両者を合算して5000円以上とし、利便性の向上が図られた。

国際課税の分野では、外国企業が日本で事業を行う場合、支店など一定の場所であるpermanent establishment(PE)がなければ課税されないが、国境を超えたオンラインサービスを活用してPE認定を逃れる企業が増加したことから、PEの定義を厳しく見直すこととした。これは、OECDのBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源侵食と利益移転)プロジェクトで議論されてきた国際スタンダードに合わせる改正である。もっとも、わが国と租税条約を結んでいる国の場合には、租税条約も合わせ改定を行うことが必要となる。

このように、今回はさまざまな分野での税制改正が行われた。安倍政権が発足して5年が経過し、当初は円安・輸出拡大を通じてわが国経済の拡大に大きな効果を及ぼしたアベノミクスであるが、最近では、わが国中間層の二極分化・格差の拡大が生じ、デフレ経済からの完全脱却もいまだ成功していない。今回の税制改正は、デフレ経済脱却の最終ステージにあるわが国経済を後押しすることを狙ったものである。

バナー写真:中国圏の旧正月「春節」を日本で過ごした外国人観光客の出国ラッシュ=2016年2月、関西国際空港(時事)。今回の税制改正では、2019年1月に「出国税」(1回1000円)の導入が決まった。

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  • [2017.12.19]

中央大学法科大学院教授。東京財団上席研究員。1950年広島生まれ。京都大学卒業後、大蔵省入省。主税局総務課長、東京税関長、財務総合政策研究所長などを歴任。法学博士(租税法)。『日本の税制―何が問題か』(岩波書店、2010年)『消費税、常識のウソ』(朝日新書)など著書多数。

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