独裁国の意外な情報発信

佐藤 優【Profile】

[2017.12.29] 他の言語で読む : العربية | Русский |

イランや北朝鮮といった独裁国家が今、なんと日本語で頻繁に情報を発信している。インターネットという武器を駆使して、多言語で自国の主張を国際社会に伝えて、価値観を異にする陣営に影響を与え、あおっているとも読み取れる。外務省の元主任分析官・佐藤優氏が、独裁国家の特異な情報発信の実態を分析し、インテリジェンスの視点から強権国家群の狙いを読み解く。「ニッポンドットコム」の編集部が佐藤氏に聞いた。

イランがあおる中東危機

「エルサレムをイスラエルの首都に」。アメリカのトランプ大統領の「12月6日宣言」は、中東だけでなく東アジアにも大きな衝撃をもたらしました。イラン政府が実施している一種の「プロパガンダ活動」を通して見ても、「トランプ宣言」のインパクトの大きさが伝わってきます。実はイランには「Pars Today」という、イランの国営放送のサイトがあるのですが、その報道内容が実に興味深い。まずそのいくつかを紹介しましょう。12月7日付の日本語サイトでは「イラン軍統合参謀本部の報道官、イスラエルの消滅は確実」という物騒なタイトルで特異な情報を発信しています。少し長いのですが、重要な内容が含まれていますので、そのまま引用してみましょう。

「イラン軍統合参謀本部のジャザーイェリー報道官が、アメリカの統治者とパレスチナの占領者の誤った分析は、シオニスト政権イスラエルの救済につながらず、同政権は消滅するだろう、としました。

イルナー通信によりますと、ジャザーイェリー報道官は、7日木曜、『シオニスト政権は、パレスチナの占領者であり、この癌細胞のような政権に対するパレスチナ国民の闘争の継続は、戦略者は決して平穏を感じることはなく、この地を置き去るか、消滅を選ぶかのどちらかひとつを選択する以外に道がないことを示していると語りました。

さらに、パレスチナに関するアメリカの統治者や占領政権イスラエルの誤った分析は、イラク、シリア、イエメンに関する彼らの推測と同様、失敗に終わるだろう』と述べました。

アメリカのトランプ大統領は、6日水曜、地域や世界の大規模な反対にも拘らず、ベイトルモガッダス・エルサレムを偽りの政権であるイスラエルの首都として正式に認めました」(原文のまま)

トランプ大統領の今回の決定が、中東全域の安全保障に及ぼす影響の大きさについて、イラン政府は日本語で事細かに発信しています。こうした一連のコメントを読むと、「トランプ宣言」を極めて重く受け止めていることがお分かりいただけるでしょう。中東地域の重要なプレーヤーであるイランは中東地域の危機をむしろあおっていると私は見ています。

北朝鮮の本音は対米ラブコール

ではトランプ政権が「悪の枢軸」とみるもう一つの独裁国家、北朝鮮の情報発信を見てみましょう。北朝鮮も「ネナラ通信」という政府系の日本語情報発信サイトを持っています。「ネナラ」とは朝鮮語で「わが国」という意味です。そこには日本に対するさまざまな「脅迫文」が数多く掲載されています。北朝鮮は、核・ミサイルという武器を持っているだけでなく、日本語という手段を手にして日本向けにメッセージを発信しています。

まずトップページには「ネナラへようこそ」と題して「朝鮮民主主義人民共和国の政治、経済、文化など全般に対する有益な情報の発信拠点」だとアピールしています。11月30日付のサイトでは「米国という地を地球上で跡形もなくぶっ飛ばすであろう」という物騒なタイトルで、次のような情報を発信しています。これもそのまま引用してみましょう。

「朝鮮労働党の政治的決断と戦略的決心に従って成功させた大陸間弾道ロケット『火星(ファソン)―15』型の試射を通じて、わが共和国は超大型の重量級核弾頭装着が可能な大陸間弾道ロケットで米本土全域を思い通りに打撃できるということを全世界にあまねく誇示した。

再び、この地球を震撼させたチュチェ朝鮮の大陸間弾道ロケットの厳かな爆音は、敢えてわが国家の『完全破壊』という気違いじみた発言を行い核戦争挑発騒動に狂奔している白昼強盗さながらのアメリカ帝国主義に下す断固たる懲罰であり、容赦のない鉄槌である。

名実相伴うチュチェの核強国であるわが共和国の戦略的地位を無視し傲慢に振舞っている愚鈍なヤンキーをこっぴどくやっつけた今日の大勝利は、わが人民軍将兵の胸々に無敵の力と勇気を奮い起こしている。

アメリカ帝国主義が自分らの本土全域が最精鋭強兵のせん滅的、かつ容赦のない核打撃圏内に入っているという厳然たる現実を忘却し、ついにこの地に核戦争の暗雲を招くならば、われわれの革命的武力は偉大な並進の旗印を高く掲げて打ち固めてきた核戦略武力をもって侵略と悪の巣窟である米国という地をこの地球上から跡形もなくぶっ飛ばすであろう。朝鮮人民軍軍官 パク・ナムチョル 」(原文のまま)

北朝鮮は情報公開が進んでいると思います。実は彼らの本音は「跡形もないほどぶっ飛ばしたいくらいアメリカと仲良くしたい」というメッセージをワシントン、東京に向けて出しているのでしょう。米朝首脳会談に向けた「ラブコール」でもあります。

トランプ訪日でメッセージ

11月21日付の発信も面白い。「論評:自滅のどん底に深く陥る軍事的妄動」とのタイトルで、次のように発信しています。

「わが共和国に対する日本反動層の軍事的挑発妄動が、日増しに甚だしくなっている。

11月11、12の両日、日本の海上『自衛隊』が米空母打撃団と共にわれわれを狙った大規模な合同軍事演習を強行した。

米原子力空母のロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ニミッツと海上『自衛隊』護衛艦のいせ、まきなみ、いなづまなどの参加の下に行われた合同軍事演習について日本防衛相の小野寺は、日本と米国の決意をより確固と示したきわめて効果的な訓練だったと強弁を張った。

一方、日本はわれわれの弾道ミサイルに対処するという美名の下、新型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の秋田、山口の両県への配備を急いでいる。

先日、トランプと安倍の共同記者会見で日本が米国からSM3とF35A追撃機、イージス戦闘システムを装備した軍艦を購入することにしたと発表された事実も黙過することができない。

諸般の事実は、海外侵略野望の実現に狂った日本反動層の危険な軍事的妄動が度を超えているということを如実に示している。

われわれの『脅威』を口実にして朝鮮半島に日本の『自衛隊』武力を主動的に投入するための名分を立て、ひいてはアジア太平洋地域に対する再侵略を正当化して『大東亜共栄圏』の昔の夢をなんとしても実現してみようとするのは、日本反動層の変わらぬ野望である。

敗北後70余年の歳月が流れたが、日本の軍国主義野望は決して変わっておらず、その後えいによって甚だしく復活している。

現日本支配層は、2016年3月、『安全保障関連法』を発効させて『自衛隊』に『集団的自衛権』行使を付与し、『自衛隊』の海外活動範囲を大幅に拡大した。

特定機密保護法、組織犯罪処罰法をはじめとする悪法を次々とつくり上げて、国内のファッショ化を急速に進め、最近は海外侵略野望実現の最終の段階と言える現行憲法の改悪にヒステリックに執着している。

今、日本がわれわれの自衛的正当防衛措置にいわゆる『脅威』と言い掛かりをつけて有事の際、朝鮮戦争に投入される米帝侵略軍の基本武力を駐屯させて合同軍事演習に熱を上げているのは、米国と共に新たな朝鮮戦争を起こそうとする戦争狂気である。

しかし、誇大妄想症に浮ついた日本は無分別にのさばらない方がよかろう。

いったん、朝鮮半島で戦争が起これば日本も絶対に無事ではない。

日本にある米国の侵略基地と共に戦争に動員される日本の全てのものがこっぱみじんになりかねない。

日本が軍国主義の馬車に乗って暴走するほど、自滅のどん底にいっそう深く陥る結果しか得られない。朝鮮中央通信」(原文のまま)

日本も多言語で情報発信を

彼らの言わんとする行間を読んでみると、トランプ大統領がアジア歴訪を始めるにあたって、在日米軍基地が置かれている横田に乗り込んでいったことに対するメッセージなのです。実に興味深い。彼らも彼らなりに、ちゃんと情報を出しているのです。このような平壌からのシグナルを日本の外務省は的確に拾っているのかと言いたいですね。

これからは、独裁国家が発信する情報を丁寧に拾い、それに対する論評を加えて日本からも逆に情報を発信することが重要になると思います。イランの主張に対しても、日本の立場をはっきりと示し、テヘランに向けてペルシャ語で情報を発信していく。こうした仕事は、日本では数少ない多言語発信サイトである「nippon.com」の重要な責務になるのではないでしょうか。このような形でイランや北朝鮮に日本が反応することは、真の意味で日本の国益に沿うと考えます。そうしなければ、日本は彼ら独裁国家が発している重要なメッセージに気付いていないと勘違いされる恐れがあります。世界第3の経済大国ニッポンには、軍備の増強だけでなく、やるべきことはたくさんあるのです。

バナー写真:人工衛星の打ち上げ成功を関係者らと喜ぶ金正恩朝鮮労働党委員長(KCNA/新華社/アフロ)

この記事につけられたタグ:
  • [2017.12.29]

1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。日本外務省切っての情報分析のプロフェッショナルとして各国のインテリジェンス専門家から高い評価を得た。イギリスの陸軍語学学校でロシア語を学んだあと、モスクワの日本大使館に勤務し、クレムリンの中枢に情報網を築きあげた。著書に『国家の罠』『自壊する帝国』(いずれも新潮文庫)など多数。

関連記事
最新コンテンツ

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告