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忍び寄る金融危機:警戒強める当局

桑原 稔【Profile】

[2018.01.15]

金融庁が、金融システム安定化の強化にかじを切り始めている。銀行の経営環境は厳しく、貸し出しによる収益増への期待が見込めない状況。今後の金利上昇リスクを考慮すると、生き残れない金融機関が出ることもあり得ると懸念しての動きだ。

リーマンショック後、日本の銀行は構造不況業種化しつつある。長く続く低金利政策により総資金利ザヤはほとんどゼロ、あるいはマイナスとなっており、貸し出しによる収益増加が期待することができない状況に陥っている。残された道は経費の削減だが、すでに店舗や従業員の削減は急ピッチで進んでおり、これ以上深掘りすれば顧客基盤を失いかねない。預貸主体のビジネスモデルを転換しない限り、生き残りは厳しい。今後の金利上昇のリスクに耐えきれなくなる事態に備え、金融当局は金融破たん時のセーフティネットの再整備に取り組み始めている。

限界に達した経費削減

メガバンク3社が昨年秋にそろって大規模な店舗の統廃合や人員のスリム化方針を公表した。みずほフィナンシャルグループ(FG)が1万9000人、三菱UFJFGは9500人、そして三井住友FGも4000人削減し、合計で3万2500人の銀行員を数年かけて削減する。メガバンクだけに規模の大きさに目を奪われがちだが、実はすでに銀行界全体として大幅なリストラが続いてきた。

図表1を見てほしい。リーマンショック時と比べると、店舗数は20%以上の減少、従業員数は40%近くも減少している。直近の10年をみると従業員数が横ばいとなっているが、これは正規職員から給与の低い非正規職員や専門職への代替を進めた結果である。

こうした経費削減の努力にもかかわらず、メガバンクも地銀の経営者も「今後の収益回復は厳しい」と口をそろえる。また、金融庁も「多くの地銀で顧客向けサービス業務の収益低下が続くといった収益性の問題を抱えている」(2017年度金融レポート)と懸念を示す。金融庁の森信親長官は昨年、地方銀行経営者との意見交換会で「ありきたりの経費削減には限りがあり、やり方によっては顧客基盤を失いかねない」「ビジネスモデルを再構築するためにダウンサイジングも一つの方途」と踏み込んだ発言をした。

銀行の調達原資の預金はほぼゼロ金利。それでも貸し出しの利ザヤが取れないということは、資産のリターンがほぼゼロだということを意味する。銀行は不稼働資産の塊と化しているのである。この不稼働資産は不良債権と紙一重。わずかな環境の変化で不良債権化する恐れがある。

最大の環境変化は金利の上昇である。金利が上昇すれば利回りの低い資産の価格は一気に下落する。保有国債の時価は大幅に下落し、評価損により巨額の赤字を計上することになるだろう。貸出資産は調達金利との乖離(かいり)拡大により、逆ザヤが大きくなり、これまた赤字を生み出すだけの資産と化す。とりわけ地銀の円金利リスクはメガバンクの3倍もあり、金利が上昇に転じた時のダメージは甚大である。

店舗削減を促す異例の日銀レポート

では、こうした金利リスクを内包した金融界に対して、金融当局はどのようなモニタリングを検討しているのだろうか。日銀は金融システムレポート(10月)で「収益力の低迷が続き、損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融仲介機能が低下し、実体経済に悪影響を及ぼす可能性もある」と金融システム不安が再燃する恐れを指摘した。

ある日銀の幹部は「金融政策は全てやり切った。焦点は金融システム政策に移っている」と語る。過剰な金融緩和政策がもたらしたとも言える金融システムの不安定化への対応が次のテーマと言われても釈然としない面もあるが、現状、長期金利コントロールという市場調節を除けば、日銀はやるべきことがないというのは本音だろう。

このシステムレポートで特筆すべきは、銀行の店舗が多過ぎると詳細に分析している点にある。前述のように店舗数は減少しているが、それでも国際比較すると「日本の店舗数は郵便局まで含めると、オーバーバンキングとされるドイツとほぼ同水準」であり、「狭い国土に銀行店舗が密集すれば、店舗間の競争も激しくなりやすい」と指摘する。さらに店舗を減らせというわけだ。加えて、人口減少と企業の減少が進んでおり、従業員数を減らしてもまだオーバーキャパシティだとしている。これまで日銀が経費削減のための店舗削減について、これほどまで深く言及したことはない。

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  • [2018.01.15]

ニッポンドットコム・シニアエディター。1952年、東京都生まれ。中央大学法学部卒業後、社団法人金融財政事情研究会に入り、事務局次長、週刊「金融財政事情」編集長、編集主幹を歴任し、2017年から現職。

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