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老いるニュータウン:目立つ単身者の孤立化

平山 洋介【Profile】

[2018.02.16]

高度経済成長期に都市部に集中する人口の受け皿として、郊外に「ニュータウン」が誕生して半世紀余り。かつては「理想のすみか」と呼ばれたが、今や高齢単身者が目立つ。子どもが独立し、夫婦のいずれかが他界すると待っているのは孤立だ。住民たちを孤立させないためには何が必要なのか。

子どもたちが巣立ち、高齢者ばかりに

高度成長期にたくさんの若い人たちが農村から都市に移動した。その受け皿をつくるために、政府は、ニュータウン建設を促進した。1963年に制定された新住宅市街地開発法(新住法)は、住宅・宅地だけではなく、道路、公園、学校、病院、商業施設などの整備を伴うニュータウン開発を支えた。同法に基づき、自治体などが丘陵地などの郊外に建造したニュータウンは、全国で46カ所に及んだ。国土交通省が作成した「全国ニュータウンリスト」(※1)によると、16ヘクタール以上で、1000戸以上または計画人口3000人以上の住宅地開発は、1955年以降、約2000カ所に達する。都市が拡大し、ニュータウンが次々と開発され、そこに若い人口が大量に流れ込む様相は、高度成長の時代を象徴した。

このニュータウンに今、高齢単身者が増えている。開発当初、入居した人たちは概して均質で、たいていの場合、若い核家族をつくっていた。多くの子どもたちがニュータウンで育ち、小中学校・高校に通い、卒業して若者となり、大学入学・就職・結婚をきっかけに、転出していった。ニュータウンに残った親たちは、次第に加齢する。住人の多くが同じ年齢層に属しているため、高齢化は一挙に進んだ。高齢になった夫婦のみの世帯は、片方の死去によって、単身化する。

朝日新聞は、新住法による46カ所のニュータウンを調査した。そのうち31カ所で、65歳以上人口率が全国平均の26.6%(2015年国勢調査)を上回った。高齢単身者の比率をみると、全国平均は11.1%で、それより高いニュータウンが27カ所に及ぶ。仙台市の鶴ヶ谷住宅団地では37.6%、神戸・明石市の明石舞子団地では25.3%、札幌市のもみじ台団地では24.0%に達し、7カ所で20%を超えた(17年12月3日付朝日新聞朝刊)。

プライバシー重視の設計思想が「閉じこもり」生む

ニュータウンに住む人たちは、高齢・単身化によって、孤立するリスクを持つ。社会関係からの断絶は、経済上の困窮、健康維持の困難、生活情報の不足、疎外感と抑うつ気分などをしばしばもたらし、人間の尊厳さえ傷つける。高齢単身者が増える住宅地では、孤立化の防止は、特に切実な課題になる。

ニュータウン開発は、近代以降に発展した独特の住宅・都市設計理論に基づいている。その空間の在り方が孤立の原因となった。住宅設計の理論と実践は、核家族を標準とみなし、そのプライバシーの確保を特に重視した。人間は、生きていくために、他者と触れあい、おしゃべりを楽しむ、といった関係を必要とする。この人間交流の関係は、それぞれの世帯を単位とし、その中で生成し、完結すると想定された。世帯内での夫婦・親子関係の形成とそのプライバシーが大切にされ、他の世帯との関係をどのようにつくるのかはほとんど問われなかった。核家族向けの密閉度の高い住宅の中に高齢化していく人たちが住み、世帯内に話し相手がいなくなってしまえば、プライバシー確保のための空間は、孤立促進の装置と化す。

自宅に閉じこもる高齢者が増えている。高度成長期に建設された集合住宅団地では、エレベーターを備えない階段室型の5階建て住棟が多い。この最上階に住む高齢者は、階段の昇降に困難を来し、自宅からだんだん出なくなる。一戸建て住宅団地でも、大きな住宅に高齢者がひっそりと独居し、その外出頻度が減少するケースが増えた。家の中の様子は、外からでは分からない。丘陵地を開発したプロジェクトでは、坂道が多く、それが高齢者の外出をさらに妨げる要因になった。

近代都市計画は、空間の機能を分離・純化するゾーニングの手法に立脚する。職住分離が進み、ニュータウンの機能は住宅と生活関連施設に特化した。男性の稼ぎ手は都心のオフィスに通い、ニュータウンは母子のための空間として設計された。その多くは、近隣住区理論を踏まえ、小学校を中心とするコミュニティーを単位として構成された。それぞれのコミュニティーは、幹線道路に囲まれ、内部を通過する道路を排除し、公園、集会所、店舗などを備える。この「母子コミュニティー」向け機能に純化した空間に高齢単身者が増えるとき、その居場所がほとんどないという実態に気付かされる。特に男性は、定年退職によって、オフィスという居場所を失い、住宅地の中では、新たな居場所を見つけられない。女性は、「母子コミュニティー」に長く住むことで、近隣で友人関係をつくってきたのに対し、男性には、話し相手さえいない。居場所が見つからない高齢者は、自宅に引きこもる傾向をいっそう強める。

住民の交流増やす工夫を

高齢・単身化が進むニュータウンをどのようにつくり変えるべきか。孤立を防ぐ試みは、すでにさまざまな形ではじまっている。まず、若い世代をニュータウンに呼び入れ、コミュニティーの年齢バランスを改善する工夫が必要とされる。ある団地では、住戸のリノベーションによって、若年世帯の入居を促す事業が実施された。別の団地では、空き部屋がシェアハウスに転換され、学生に低家賃で供給された。これらの工夫でコミュニティーの年齢構成が大幅に変わることはない。しかし、若者が少しでも増えることは、多数の高齢者が暮らすエリアに活気をもたらす。エレベーターのない住棟の5階住戸は、高齢者には適さない。しかし、それを若者に低家賃で供給するプログラムがあり得る。

若い世帯を呼び入れると同時に、増大する高齢層の中で助け合いの関係をつくっていくことも重要な課題になる。高齢者の割合が増えるにつれて、そのグループは、「相対的に若く、身体の調子がよい高齢者」から、「年齢がより高く、足腰の弱った高齢者」まで、より多様になる。自治会が中心となって、65歳の「若い高齢者」が85歳の住人のゴミ出し、電球の取り換え、買い物を手伝う、といった関係をつくり出した団地の事例もある。

さらに、高齢者、単身者の居場所を増やすことが、住民交流を促進し、閉じこもりを防止する効果を生む。大切なのは、世帯外の人たちとの接触を増やす工夫である。単身者は、そもそも自分以外に世帯員を持っていない。住人の交流を促すには、空間用途の純化ではなく、むしろ複合化を積極的に進める方向性が期待される。

あるニュータウンでは、住棟の1階にNPOが喫茶店を開設し、コーヒー・紅茶の値段を低く抑えることで、多数の高齢者が集まる場をつくった。住民交流のための施設として、集会所がある。しかし、そこでの集会とは、日時と目的がはっきり定まったフォーマルなものに限られる。たまたま出会った人たちが気楽におしゃべりを楽しむための、多様な小空間を用意することが、住人のインフォーマルな交流を増大させる。例えば、道沿いに良質なデザインのベンチを置き、簡単な屋根を設ける。空き住戸を住人が自由に出入りできるサロンに改築する。ピロティを暖かみのある空間に改造し、そこにテーブルとベンチを設置する。こうした工夫が幅広く試されてよい。

ニュータウン開発は、地方から都市に移る若い人々を受け入れ、高度成長を支えた。その彼方(かなた)に超高齢社会が出現し、現在ニュータウンでは、より複合的な機能を持ち、日常的な住人接触を促し、穏やかに生きられる空間の用意が求められている。ニュータウンだけではなく、孤立リスクをもつ住宅地は数多い。バブル期に開発された住宅地の多くは、都心から遠い場所に立地し、そこでは、転出に必要な資力を持たない、低収入の高齢者の割合が上がり始めている。急増中のタワーマンションは、そもそも周辺地域からの切断を商品価値とし、セキュリティーとプライバシーを重視する「要塞(ようさい)」のような空間をつくっている。その住人が数十年後に高齢・単身化し、住戸に閉じこもるケースが増える可能性がある。超高齢社会では、人々の孤立を防ぎ、住宅地をどのように持続するのかが問われている。

バナー写真=建て替え工事が始まる東京・多摩ニュータウンの諏訪2丁目住宅でお別れ会が開かれ、集まった住民が思い出を語りながら、しばし別れを惜しんだ(2011年7月23日、時事通信フォト)

(※1)^ 新住宅市街地開発法以外の区画整理などの手法を使った民間デベロッパーのプロジェクトも含めたニュータウンのリスト。2013年に作成。

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  • [2018.02.16]

神戸大学大学院人間発達環境学研究科・教授。住宅政策・都市計画を専攻。著書に『都市の条件』(NTT出版)、『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書)ほか。最新刊にHousing in Post-Growth Society (with M. Izuhara, Routledge)

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