東京五輪へ「5G」商用化の金メダル目指す! 暮らしを変える、NTTドコモの戦略とは?

町田 徹【Profile】

[2018.01.26] 他の言語で読む : ENGLISH |

2020年の東京五輪を前に、世界中で「5G」(第5世代移動通信)のサービス開始一番乗りを争う“競技”が始まった。“金メダル”を目指しているのが、国内携帯最大手のNTTドコモだ。5Gはライフスタイルを変える可能性を秘めている。

変わる競技場でのスポーツ観戦

サッカー好きの1人として、2020年の夏のイベントを夢想してみよう――。

数カ月前に東京都新宿区霞ヶ丘に完成したばかりの「オリンピックスタジアム(新国立競技場)」は、五輪サッカー史上初めて決勝戦に駒を進めたU-23日本代表を応援する観客で満員だ。

観戦風景は見慣れたものと違い、観客の目がグラウンドにくぎ付けになることはない。一人一人が手元にタブレットやスマートフォンを持ち、グラウンドと手元の端末を目まぐるしく見比べているのだ。高精細の端末画面―よりきめ細やかな液晶の商用化やコストダウンが進み、タブレットやスマホへの搭載が実現すれば4K・8K映像の視聴も可能だ―には、目の前で繰り広げられている競技がリアルタイムで映し出されるが、映像の視点や映し出される選手は端末ごとに異なる。ユーザーの好みに合わせて、いくつもの種類の動画が送信されているのだ。ある人はシュートを放った選手を追う動画を、隣の人はシュートを防いだゴールキーパーの勇姿を、前の人は上空からの映像を、といった具合に、思い思いの映像を楽しんでいる。

さらに驚くべきことに、その瞬間、多様な映像を楽しんでいるのは、スタジアムに詰めかけた観客だけではなかった。都心のあちこちに設置されたパブリックビューイング会場の超大型パネルの前に集まった人々も、やはりタブレットやスマホでパブリックビューイングに映し出される映像とは別の視点のものを受信し、両方を見比べて大きな歓声を上げている。

NTTドコモが5G時代を想定して開発を進める「AR(拡張現実)ライブ映像システム」。2017年12月のラグビートップリーグの試合で体験イベントが行われた

話を現実に戻すと、5Gの特色のひとつは、このように、これまで多チャンネルを誇る衛星放送でしか送受信できなかったような何種類もの高精細な動画を、ユーザーが出先で気軽に楽しめる携帯電話網で送受信できるようになることである。

5Gの国際標準は20年の完成を目指しており、そのスペックが細かく固まったわけではないが、これまでの携帯電話とは比較にならない超高速で大容量のデータをほとんど遅延なく送受信できるようにすることがコンセンサスになっている。10~100倍の高速通信が可能で、高精細の動画だけでなく、さまざまなビッグデータを瞬時に処理するものを目指している。しかも、人混みに入るとつながりにくい、これまでの携帯電話と違い、1キロ平方メートル当たり100万台の同時接続が可能な収容能力を持つようになるという。

このイノベーション(技術革新)は、同じように周波数を使いながら、規定する法律や必要な免許、取り扱う事業者の違いで明確に区分されてきた「放送と通信の強固な壁」を取り払う可能性を秘めている。放送局の中には5Gサービスの開始が存亡の危機につながりかねないとみて、新たなビジネスモデルの模索に躍起のところもある。

韓国KTと世界初を競うNTTドコモ

そんな5Gサービスの商用化を巡って、東京五輪を念頭に置くNTTドコモだけでなく、世界の有力携帯電話会社が、それぞれのホームグラウンドで「世界最初の商用サービス開始」という金メダルを目指し、水面下でしのぎを削っている。

現在のところ、トップ集団を形成しているとみられるのは、米国のAT&T、ベライゾン、韓国のコリア・テレコム(KT)、中国のチャイナモバイル、チャイナテレコム、チャイナユニコム、そして日本のNTTドコモの7社だ。

このうち米国勢2社は、時期的に最も早い2018年中に全米各地で5Gサービスの提供を開始するとしている。が、これらは5Gであるが、モバイルではない。事業所や家庭に設置した固定無線機を介して通信網と結ぶサービスだ。日本では多くの家庭のWi-Fiアクセスポイントを光ファイバーで結んでいるが、米国は国土が広く日本のような有線の光ファイバー網が普及しなかったため、代わりに無線を使うという。モバイルではないため、関係者は別の“種目”と捉えている。

一方、早くからモバイルで、20年の東京五輪開催に合わせて商用サービスを開始するとしていたのが、NTTドコモだ。中国勢3社も20年までに5Gサービス用の設備投資を5兆円前後行う計画で、その頃に商用化するとみられる。

「世界初」に強い拘(こだわ)りを見せているのは韓国のKTだ。同社は当初、NTTドコモと足並みをそろえていたが、昨年初めに突然、方針を転換し、1年前倒しして19年から始めると発表した。当時の韓国経済新聞によると、「日本や中国との5G競争で後れを取ることはできないという判断が作用した」。

さらにここへきて、NTTドコモから見ると5Gで世界初の商用化を目指すライバルは、海外勢だけではなくなりつつある。国内2、3位のKDDIとソフトバンクも意欲を見せ始めたからだ。

本稿の取材でも、NTTドコモは依然として、「2020年、高速・大容量化を最も必要とするエリアから導入する」(中村武宏5G推進室室長)という表向きの姿勢を崩していない。サービスエリアも「五輪・パラリンピックの施設付近や地方創生に不可欠な県庁所在地」(同)と漠然としている。だが、1月19日にはフィンランドの通信機器大手ノキアが5G用インフラ機器の納入でNTTドコモと合意したと発表、準備が佳境に入ったことを伺わせた。NTTドコモはライバルに後れをとるまいと、いつ戦略を転換して開始時期を繰り上げてもおかしくないし、その際にサービスエリアを狭く限定しても不思議のない状況が生まれつつある。

なぜドコモは3G以来の世界初を狙うのか

いったいなぜ、NTTドコモは世界で最初に5Gを開始することに執念を燃やすのだろうか。

歴史的に見ると、NTTドコモは電電公社時代から誇る高い技術力を武器に、1G(アナログ携帯電話)、2G(デジタル携帯電話)、3G(W-CDMA/HSPA方式)の各世代で、国際標準作りをリード、常にトップランナーとして商用サービスを実現してきた。その戦略に迷いが出たのが、4G(LTE/LTE-Advanced)だ。中国、インドなど人口の大きな新興国で巨大な携帯電話市場が立ち上がり、インフラ、端末の両面で日本メーカーの競争力が落ちる中で、あえてコンセンサスが形成される前に標準方式から外れるリスクをとってまで、新サービスを立ち上げる必要はないと判断、先頭集団に入れば十分だと妥協した。

5Gでは再びトップを目指している。現行サービスの周波数のひっ迫が予想されるうえ、最先端のサービスを好む日本のユーザーのニーズに応えようと競争への復帰を決めたという。

NTTドコモは17年11月、データを低遅延で伝送できる5Gなどの技術を使って、人気女性グループ「Perfume」(パフューム)の3人が東京、ロンドン、ニューヨークで別々に披露したダンスパフォーマンスの映像を同期させ、インターネットのストリーミングで全世界に向け生中継した(写真提供:NTTドコモ)

広がる5Gの世界

確かに、本格的なAI(人工知能)・IoT(あらゆるものをインターネットで結ぶ技術)時代の到来と同じタイミングで登場することになった、5Gの大容量の超高速通信、多数同時接続機能は、暮らしやビジネスを大きく変える可能性がある。

ここで全ての可能性を紹介する紙幅はないが、一つ代表例を挙げるとすれば、ガソリンを使う内燃機関の誕生から数えて130年ぶりの大変革期を迎えた自動車分野だろう。

第一に、クルマの運転支援に必要な情報を供給する手段として、5G技術が幅広く使われるのは確実だろう。この中には、天災や事故の状況を含む最新の道路地図(状況)情報や、高速道路の落下物、周辺の歩行者などの周辺情報もあれば、高速道路で前を走る車両を自動的に追尾して走る隊列走行や、車庫入れに必要なレーダー役として5G技術が利用されることもあるだろう。

第二に、盗難車の追跡やライドシェア(自家用車などで乗客を運ぶ相乗りサービス)の高度化も、5G技術で可能性が広がるはずだ。

第三に、移動中のクルマの中での過ごし方も変わるだろう。5Gの通信技術を使えば、何百カ所もつないだ鮮明な画像のテレビ電話会議が容易に開催できるようになる。

第四は、複雑な操作を遠隔地から行える可能性だ。クルマの運転だけでなく、建設現場や鉱山の事故処理でも有望とされ、関係業界を巻き込んだ周辺機器やアプリの開発も本格化している。

このように、利用形態が多種多様に広がる可能性がある5Gだけに、急成長が予想されるトラフィックを囲い込むため、他社に先駆けて商用サービスを開始することに躍起にならざるを得ないのだ。そして、始まる新しいサービス・利用形態は五輪観戦の在り方だけでなく、われわれの暮らしやビジネスを大きく変える起爆剤になるかもしれない。目が離せない動きが続くことになりそうだ。

5Gを用いた遠隔監視による自動運転バス「ロボットシャトル」(写真・画像提供:NTTドコモ)

【ワード解説】

NTTドコモ 国内シェアで首位(46%、2017年9月末)の携帯電話会社。最近3年間は新規契約数も大手3社中トップ。前身は電信電話公社で、1985年に民営化した後、92年に固定通信事業と分離、独立。公社時代の79年に日本最初の自動車・携帯電話事業を開始、99年に世界初の携帯ネットサービス「iモード」を投入するなど、モバイルの普及をリードしてきた。

バナー写真:2017年5月に行われた新製品発表会で5Gへの取り組みを紹介するNTTドコモの吉沢和弘社長(撮影=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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  • [2018.01.26]

経済ジャーナリスト。1960年大阪府生まれ。神戸商科大学商経学部経済学科卒業。日本経済新聞社に入社して金融、通信分野などを取材。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学し、ワシントン特派員も務めた。同社退職後、雑誌編集者を経て2004年からフリー。14年からゆうちょ銀行社外取締役。著書に『巨大独占 NTTの宿罪』(新潮社、2004年)、『日本郵政 解き放たれた「巨人」』(日本経済新聞社、2005年)、『電力と震災 東北「復興」電力物語』(日経BP、2014年)など。

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