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当世留学生事情:なぜ日本の若者は海外を目指さないのか

小林 明【Profile】

[2018.05.11]

日本人の海外留学者数が減り続けている。それは、よく言われているような「若者の内向き志向」だけが理由ではないようだ。グローバル化に対応できない日本社会の制度や意識、そして教育環境も、学生たちが外国で学ぶことに消極的な要因となっている。

7年間で3割超も減少

日本人の海外留学者数は、経済協力開発機構(OECD)などの統計によると、ピークであった2004年(8万2945人)から11年(5万7501人)までの7年間で3割超も減少している。13年の総務省人口統計によると同期間における18歳人口の減少は約2割であることから、日本の若者が海外で学ぼうとしなくなっている傾向がはっきりと分かる。この傾向がさらに続くと、バブル経済崩壊後の「失われた20年」に匹敵するか、あるいはそれ以上の国家的な危機を招く恐れすらある。ますます国際化やグローバル化が進む国際社会の中で発言力や存在感を失うと、世界中の人々から存在を認識されない「失われた日本人」になる危険性さえ感じさせる。産官学界を挙げて憂慮の念を示しさまざまな対応を打ち出しているにも関わらず、なぜ減少傾向が続くのか。その要因や今後の展望について考える。

日本は、第2次世界大戦直後の約7年間の連合国占領期を除いて、外国の占領下にあったことは一度もない。独立を維持し、島国の中で独自の文化社会を築いてきたが、過去3回ほど「外向き志向」に舵(かじ)を切ったことがある。それは、未曽有の国難に直面するか大きな社会変革を迫られた時期で、新しい社会制度や先進技術の習得を目的とした若者の派遣留学が求められたのである。7世紀から9世紀にさかのぼる遣隋使や遣唐使、幕末から明治期にかけての遣欧使節、そして大戦後の占領地域統治救済資金やフルブライト奨学金による米国留学である。今風に言えば日本人の大量海外留学である。戦後の米国留学は日本独自の政策ではないが、いずれの時代の留学生も命を懸けて渡航し、帰国後はさまざまな分野で国の復興や発展の一翼を担ったのである。

留学生が減った4つの理由

今日の海外留学の中心は国策ではなく、個人の興味関心に基づく個人留学である。1980年代後半のバブル経済の影響を受けて日本人の海外留学者数は2004年のピークに向けて上昇を続けたが、05年以降漸減傾向を示している。マスコミなどでは、多くの場合日本人の海外留学を阻害しているのは「若者の内向き志向」であると指摘しているが、海外留学の主な阻害要因はおおむね次の4点に集約されると考える。それは、「経済的な理由」、「就職活動とのバッティング」、「語学力の不安」、「教育関係者の留学に対する固定観念」である。

まず、「経済的な理由」である。年間200~500万円程度の授業料や生活費が必要とされる米国などへの留学費用は、年々高騰している。そのためここ20年近く可処分所得の減少傾向が続く日本では、留学費用の家計への負担がかなり大きくなっている。大学においては授業料免除の交換留学には希望者が多く留学意欲を感じるが、授業料負担型留学には二の足を踏む傾向が強い。留学先だけでなく国内の大学にも授業料を支払わなければならないからである。文部科学省や日本学生支援機構の調査によると、近年は主にアジア諸国への短期語学研修や文化研修が増加傾向にある。それらを正規の科目履修を目的とする留学と同等に扱うことには異論もあるが、短期とはいえ海外研修に参加する学生数が増加しているにもかかわらず、より長い留学の減少傾向に歯止めがかからないのは、経済的な理由が強く影響していると思われる。

2番目に「就職活動とのバッティング」である。日本では新卒の採用が一般的である。企業の採用情報公開の時期と選考開始の時期が経済情勢などにより変動し、学生の就学事情にまで影響を与えてきた。海外留学は元来、専門課程における知識習得を目的とする3年次から4年次が理想的と考えられてきたが、就活時期とバッティングし、特に高学年での留学を阻害してきた。2018年度からは、3年次3月の採用情報公開、4年次6月からの選考開始となったことで、3年次での海外留学もできそうに見える。しかし、実際は早めに採用情報を流す企業や3年次の夏季休暇中にインターンシップを提供する企業があるなど、依然として就活と海外留学とのバッティングは解消されていない。

3番目は「語学力の不安」である。学生は、中等教育までに最低でも6年間の英語授業を受け、厳しい受験競争を勝ち抜いてくるが、語学力の不安を挙げる。正規科目の受講、単位取得もさることながら外国での日常生活にも、自信を持てないのである。実践的に英語を使ったことがなく、客観テストのスコアに関わらず運用能力に不安を抱えている。

4番目は、教育関係者の「留学はエリートのすること」という潜在意識である。優秀な学生は学位授与権を有する4年制大学で単位認定の対象となる正規科目を履修するものという考えや、留学はエリートに与えられる特権的な機会であるといったアナクロニスティックな思い込みである。こうした教職員が多ければ多いほど、希望学生が多いにもかかわらず留学者数が伸びないという矛盾を抱えることになる。教育関係者の潜在意識を変えることは、何にもまして難しいと言える。

海外で多文化共生体験を

さまざまな阻害要因はあるが、海外留学は日本人の国際化やグローバル化に必要であり、最も効果的かつ効率的な手段である。阻害要因として挙げた語学力の不安は、同時に異文化適応への不安でもある。日本人の多くは日本で生まれ育っており、文化的孤立状態にある。異文化という言葉は理解できても、異文化出身者との交流が難しいことはあまり実感できていない。経済のグローバル化や少子高齢化の進行により、移民政策を採用するなど、多文化社会への変容を余儀なくされる可能性は排除できない。変化が大きければ大きいほど、また急激であれば急激であるほど適応は困難である。マジョリティーの一員として自国にいながら不適応で淘汰(とうた)されないためには、多文化社会に耐性を持つように変化していかなければならない。従って、そうした時代をリードする多くの若者に異文化適応や多文化共生を体験できる海外留学は不可欠であり、今こそ産官学の協力体制が求められている。

ディズニー・ワールドでの有給インターシップを導入

近年学生ニーズは多様化し、大学のさまざまな対応が見られる。短期語学研修が衰退する一方、伝統的な知識吸収型の留学に加え、多文化環境下における就労体験などを含むプログラムが関心の的である。学生は、頻繁な人物交流を通じて異文化理解力や異文化間コミュニケーション力を高め、グローバル人材として社会の期待に応えようとし、大学はそうした要望に応えようとしている。

筆者の所属する明治大学国際日本学部の対応も例外ではない。フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドでの5カ月間の有給インターンシップに加え、新たにハワイやバリ島での6~8カ月の企業インターンシップを追加導入したり、授業料の安価なコミュニティー・カレッジへの留学を推進したり、外部の国際教育交流団体と提携して約800種類の海外ボランティア活動を単位化したりするなど、留学種類の拡充や留学経費縮減の努力で年々、学生の留学率を高めている。多くの大学で固定観念に捉われない柔軟な発想によるプログラムの提供が始まっている。

ただでさえ、少子高齢化(人口減少)の進展に伴い、グローバル社会における日本人のプレゼンスが希薄化する流れにある。まして若者が多様な文化に触れないまま日本国内に閉じこもっていては、世界の人々から存在感の薄い「失われた日本人」と揶揄(やゆ)される日が来るかもしれない。今こそ海外留学による国際化教育を推進すべき時期にあると言える。

バナー写真=ディズニー・インターンシップに参加した大学生のオリエンテーション(写真提供:明治大学国際日本学部)

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  • [2018.05.11]

明治大学国際日本学部准教授。同大学国際教育副センター長、学部国際交流委員長。専門は国際教育交流。フロリダ州立大学、ウォルト・ディズニー・ワールドとの提携によるディズニー・インターンシップなど、同大学の学生が海外で学ぶ各種の留学プログラムを企画・運営。米国務省傘下EducationUSAの留学アドバイザーや国際教育交流協議会副会長を歴任。著書に『大学の国際化と日本人学生の国際志向性』(共著)

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