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地方政治の危機—議員の仕事はなぜ魅力ないものになったのか

中村 健【Profile】

[2018.06.21]

数多くの地方自治体が、議員のなり手不足に直面している。特に町村議会では若者や女性が立候補するケースは極めて少ない。こうした状況を打破するためには、地方議員の仕事をやりがいのあるものにしていくことが必要だ。

「なり手不足」をどうする:嵐山町の意見交換会

2018年5月27日、筆者は埼玉県嵐山町にいた。「議員定数・報酬について町民の意見を聞く会」のファシリテーターを任されたからだ。

嵐山町は、埼玉県中部に位置する人口約1万8000人の町だ。東京都心まで電車で1時間半ほどなので、田園地帯の中に新興住宅が点在している。数年前まで居住者が増加していたが、現在は空き家も目立ち、人口減少が始まっている。

町議会は定数14名。40〜50歳代の議員が3名いるが、60~70歳代の議員が11名で平均年齢は63.9歳(2018年1月1日現在)だ。女性議員は3名。議員報酬は月額22万4000円である。近年、若い世代が立候補しない傾向にあったが、ついに15年の町議員選挙では無投票選挙となった。政治や議会への無関心、議員のなり手不足を危惧した議会が今回の会を開催し、参加者からは次のような意見が出た。

定数について

  • そのままで、女性議員の比率が高まるような環境整備が必要。
  • 減らしてその分で議員報酬を上げたらどうか。
  • もっと活発な議論をするために増やした方がいい。

報酬について

  • 現状維持とし、議会を土日や夜間開催にするなど仕事をしながら議員になれる環境整備が必要。
  • これほど議員報酬が少ないとは知らなかった。生活を考えると家族が選挙に出ると言ったら反対する。もっと増額しないと若者は議員になろうとしない。

その他

  • どのような議会活動をするのか。そのためには議員が何名必要で、十分な活動をするためには報酬がいくらになるかなど具体的に体系立てて考える必要がある。

全国的に「議員が何をしているか分からない」、「議会という単位になるともっと分かりづらい」などの意見が多い。また政務活動費の不正受給問題などもあり、住民の地方議会に対する視線は厳しい。嵐山町でもネガティブな意見が大半を占めると予想していたが、議会の重要性を認識し、その活動や組織体制の見直しについて前向きな発言が多かったことに議員からは驚きの声があがった。

これは、会の冒頭に筆者が地方自治の制度や仕組み、地方議会の在り方などを説明したため参加者がある程度の知識を得たこと、第三者がファシリテーターを務めたので感情的にならずに話し合えたからだ。通常、議会が主催する住民との意見交換会では議員が説明・進行役を務めるため、批判的な意見が出るとつい反論してしまい、感情的になって炎上するケースがよくみられる。

議員になっても「生活できない」

全国の町村議会の現状は、男性90.1%、女性9.9%と圧倒的な男性組織である。年齢構成は、60歳以上70歳未満が52.1%、70歳以上80歳未満が22%と、60歳以上が4分の3を占める。また職業別でみると、男性議員は農業が29.5%、無職が21.9%という構成になっている(いずれも全国町村議会議長会調べ)。このことから、日本の町村議会は「農家か年金生活者である高齢男性」という非常に偏ったメンバーによって運営されているのが分かる。

議員のなり手不足、とりわけ30〜40歳代が少ないのは、選挙に出るのを躊躇(ちゅうちょ)するいくつかの理由があるからだ。具体的に言うと、「家のローン返済や子供の教育費などを捻出し、生活していくためには議員報酬が低すぎる」、「議員活動のために会社を休めない」、「会社を辞めてまで議員になるメリットが見いだせない」などだ。

町村議員の年間報酬額は期末手当も入れて全国平均363万5478円であり、ここから税金を引き月額平均にすると30万円に届かない。また年金や退職金制度もないため、議員報酬の中から自分で積み立てなければならない。さらに選挙は4年ごとに行われるが、4年後の身分保障は何もない。会社に勤めながら続けるのも大変だ。最低でも議会開会日には出席が求められるので勤務を休まなければならず、勤務先からの人事評価を気にしながら議員活動を行うことになる。それを回避するためには退職するしかないが、所得は下がるし、身分保障はないという高リスクを選択する若者は少ないだろう。

「御用聞き」と冠婚葬祭:魅力感じられぬ仕事

議員のなり手不足を解消するためには、報酬額など議員の身分保障や民間企業側の理解といった社会全体の制度設計を見直していくことが必要である。しかし、筆者は問題の本質は別にあると考える。それは、突き詰めて言えば「地方議員の仕事に議員自身が魅力を感じない」ということだ。

日本の地方自治は、住民が首長と議員をそれぞれ直接に選ぶ二元代表制である。首長(執行部)は自治体の執行権を持ち、議会が議決権により執行部をチェックする仕組みだ。嵐山町を例にすると、平成30年度の予算規模は約112億円。地方自治法上その配分や使途は議会が決定権を持っており、議会がノーと言えば町長も執行することができない。議員は巨額な予算を適切かつ効果的に活用する方策を議論し、決定する。町の課題を解決し未来を創造していけるのであるから、非常にやりがいを感じる仕事だと言える。

しかし、全国的に見てほとんどの議員がこう思っていない。「道路に関する住民からの苦情を役場に届け、補修するように働きかけるのが議員の仕事」、「議員だから冠婚葬祭に出席するのは当たり前、欠席したら次の選挙で票を入れない」と考える住民が多いからだ。こうした声が今なお多数を占める地域では議員は自分の選挙対策に4年間を費やし、町全体の政策より目先の1票につながる事象に力を注ぐようになる。議員と距離の近い特定の住民とのみ関わりを持つようになるため、他の多くの住民は「議員の仕事とはこんなものか」と思ってしまう。議員にとって「御用聞き」は重要な活動の一つであるが、個々の案件を優先し町全体の政策がいびつになってしまっては本末転倒である。これでは議員への尊敬や信頼は生まれない。議員へ個別利益を求める住民と、選挙の事ばかり意識する議員。選挙での選択基準が変わらなければ、本質的な問題は解決されない。

社会の変化に対応し、地域経営に貢献する活動を

こうした中、さまざまな課題に取り組む議会も登場している。

長野県飯綱町議会は、議員の平均年齢が66.8歳。なり手不足解消が喫緊の課題だ。2010年から住民に実際の政策立案の議論に参加してもらう「政策サポーター制度」を導入し、住民と議論を繰り返してきた。その結果、17年の選挙では新人議員が5人当選し、そのうち4人が同制度の経験者だった。さらにこの制度に参加した子育て世代のママたちの意見から、保育料の一部無料化も始まった。

岐阜県可児市議会は子育て支援拠点施設の建設計画が持ち上がった際、議会がママたちとワークショップを開催し、彼女たちから出た意見を政策提言として市長に提出。市長は提言書を参考に建設図面を作成した。「自分たちの意見を議会が聞いてくれた」、「言ったことが形になった」と喜んだママたちは自らNPO法人を設立。新設された同施設の運営を任されるようになった。議会が住民自治を醸成した好例といえる。

福島県会津若松市議会も市民の声に積極的に耳を傾けている。議会との意見交換会に参加した高齢女性から「体力的に雪かきができなくなった。間口除雪が行われないと、買い物や病院にも行けない」という意見が出た。よく聞くと「市役所にはお願いしているが、『私道は自分でやってもらっています。あなたの所を市が除雪すると、他の人の所もやらなくてはならない。それは市としてはできない』と言われた」という。この声を聞いた議会が地域住民と話し合い、間口除雪を手伝うボランティア組織を立ち上げた。同組織は市内全域をカバーするようになり、その活動に対して市から補助金が出るようになった。議会が市政では解決されない現場の課題を吸い上げ、解決した好事例である。

社会の急速な変化に対応し、地域経営に貢献する活動が議会には求められている。こうした役割を果たし、二元代表制の一翼を担う本来の機能が発揮されたとき、議会は住民自治の要となり、議員は誇りと信頼を取り戻すだろう。すなわち、それは議員自らが選挙で自分が選ばれる基準を変え、住民に示すことから始まる。

バナー写真:嵐山町議会が開催した「議員定数・報酬について町民の意見を聞く会」=2018年5月27日(嵐山町議会提供)

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  • [2018.06.21]

早稲田大学マニフェスト研究所事務局長。1971年生まれ。JR四国社員を経て1999年、27歳で徳島県川島町長に初当選。全国最年少の首長となり、2期務める。2004年、川島町を含む4町村が合併し吉野川市が発足するにあたり、地方自治を研究するため早稲田大学大学院公共経営研究科に入学。10年より現職。14年より一般社団法人地域経営推進センター代表理事。17年度より熊本市政策参与。

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