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楽天は大手3社の「協調的寡占」を崩せるのか? 「第4の携帯事業者」誕生へのカギ

町田 徹【Profile】

[2018.02.21]

格安スマホ会社と呼ばれるMVNO(仮想移動体通信会社)から、MNO(移動体通信事業者)へ―。三木谷浩史社長のもくろみ通り、楽天は「第4の移動体通信会社」に昇格して大手3社の「協調的寡占」を崩す起爆剤になるのか。平たんな道とは言えない新規参入の課題を探ってみた。

実現すれば携帯料金が下がる可能性も

「カード事業と並ぶけん引役に育てていく」―2019年にも新規参入する方針を公表しているMNO事業について、三木谷楽天社長は2月13日に開いた決算発表でこう語り、自信を見せた。

グループ内にはすでに楽天モバイルという「格安スマホ会社」があり、安価な端末や通信サービスを提供しているのに、いったい三木谷社長は何を言っているのかと不思議に思う読者もいるかもしれない。一般的にはMVNOとMNOの違いが分かりにくいのは事実だろう。

現在の楽天モバイルは、MNOであるNTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクと違い、自前の通信網を持っていない。ドコモから通信網を借りてサービスを提供するMVNOなのだ。そこで三木谷社長は昨年12月、モバイル事業をバージョンアップし、自前通信網を持つMNOになる方針を発表していた。これにより、事業の規模や採算性、他の事業とのシナジー効果を高めるのが狙いとみられている。

楽天自身は周波数免許をまだ受けておらず、多くをコメントできる立場にないとしている。このため推測するしかないが、MNO各社に付与されている周波数には限りがあり、今後2年ぐらいで4G(第4世代携帯電話)の収容数が限界に近づくため、自前の通信網確保が必要と判断した可能性もある。

一企業の戦略にわれわれ消費者が関心を持たざるを得ないのは、日本の移動体通信市場では本格的な市場競争メカニズムが働かず、料金が高止まりしやすい上、サービスの多様化も進みにくいとされているからだ。この原因について、総務省は大手3社による「協調的寡占市場になっているからだ」と断じている。

それだけに、楽天のMNOへの転身が成功し、絶えて久しい「第4の移動体通信会社」が復活すれば、われわれが月々支払う携帯料金も下がる可能性があるので、消費者も強い関心を寄せる状況になっているのだ。

楽天ポイントとの相乗効果でさらなる成長狙う

一方、楽天の経営にとっても、新たな成長分野の開拓は大きな課題だ。2017年12月期連結決算(国際会計基準)を見ても、純利益が3期ぶりに増えて1105億円と過去最高益を更新したものの、創業ビジネスであり、グループの代名詞のように言われている国内EC(電子商取引)事業は、アマゾン・ドット・コムとの競合もあり、苦戦が続いているからだ。この部門の営業利益は前期比3.8%減の746億円にとどまった。これに対して、クレジットカードやデビットカード、ネット銀行などの金融事業で同11.0%増の728億円を稼ぎ出して、グループとしてEC部門の収益力不足を補っているのが実情なのである。

前述の三木谷社長の「携帯電話をカードと並ぶけん引役に育てる」という発言には、文字通り携帯ビジネスをカードと並ぶ収益源に育てる意図はもちろん、もうかるまではたとえ時間がかかっても、金融部門と同様に、ユーザーの膨大な消費行動のビッグデータを収集できる体制を構築して、ユーザーを囲い込み、消費ビジネスのプラットフォーマー(基盤提供者)としての地位を固めたいという狙いが透けてみえる。

特に、楽天が現在のMVNO事業でも、携帯ビジネスで高いシナジー効果を出しているとみられるのが、楽天ポイントとの相乗効果だ。若い消費者の間では、ポイントが付くかどうかでモノを買う店を決める人が増えており、現状でもネット通販でためたポイントを楽天モバイルの支払いに充てるユーザーが多いという。今後、自前の通信網構築によってポイント利用のインセンティブを高めることができれば、さらなる高成長が期待できるかもしれない。実際、楽天の広報部門は、こうしたポイント利用を絡めることで「他の携帯電話会社に比べて新規顧客獲得コストが安く、楽天ならではの強みを発揮しやすい」と強調している。

周波数付与に前向きな総務省、資金保証を要求

課題も少なくない。例えば、楽天が今後数年分の通信網構築のために、取りあえず6000億円を調達するとしていることへの評価だ。既存のMNOや通信機器メーカーの間では、「6000億円というのは桁違いに少ない。東京、名古屋、大阪の3大都市圏はおろか、首都圏の通信網も構築できないのではないか」と批判的なコメントが多い。

ただ、移動体通信サービスに不可欠な周波数を付与する立場の総務省幹部を筆者が直撃すると、この6000億円問題では、ちょっと違った問題意識を持っていることが明らかになった。

同省幹部は「協調的寡占に穴を開けてくれる第4の携帯事業者の復活は、総務省にとっても政策的悲願。当面は設備資金が6000億円しか用意できず、狭いエリアで自前の通信網を構築してサービスすることになっても、他社とローミングすれば全国でサービスを展開できるはず。最大20年程度かかってもよいから、着実に自前のネットワークを広げてくれればよい」と、今年3月に予定している周波数割り当てに新規事業者が応募することが重要で、新規参入者育成の観点から前向きに対応するという立場だ。

それどころか、3月の割り当てには、申請が予想されるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社分プラス新規参入事業者分の「4つの周波数帯域を用意しており、条件さえ満たせば、新規事業者には一番使いやすい周波数(いわばプラチナバンド)を割り当てたい」(同)としている。

以前、安倍晋三首相が国民に携帯料金引き下げを公約した経緯や、三木谷社長が官邸に周波数付与を再三陳情しているとされていることも背景にあるのだろう。忖度(そんたく)からか、総務省は楽天の最初の投資規模には柔軟な姿勢をみせている。

その一方で、同省は「当初の投資資金6000億円を確実に調達できる保証がほしい」(同)とくぎを刺すことも忘れていない。というのは2012年秋、当時第4の携帯事業者だったイー・アクセスにプラチナバンドと呼ばれた周波数を与えたのに、同社がほんの数カ月でソフトバンクに身売りしてしまう出来事があったからだ。身売りの原因は投資資金を調達できなかったためで、これが総務省のトラウマになっている。同省幹部は「資金計画のずさんな事業者には、国民の財産である周波数を渡せない」と強調する。その担保として、「例えば2月中に申請書を出す際には、6000億円の融資を銀行の役員にハンコ付きの証明書にしてもらって添付してほしい」(同)とも述べているのだ。

だが、銀行も投資計画の詳細が固まらないうちに、巨額の融資を確約することは難しいはずだ。試しに楽天が融資を依頼しそうな銀行に取材したところ、驚いて「そんな話になっているんですか!」(あるメガバンク)と言ったきり、絶句したことを付け加えておく。融資の保証問題の調整には意外な時間を要するかもしれない。

低収益では投資家から見放されかねない

他にも課題は山積みだ。技術的には、初めて無線通信網を構築する楽天が過不足ない基地局の設置プランを立案し、膨大な数の設置場所を確保できるのかという課題が立ちはだかる。

また、楽天はこれまで、MVNOとして大手3社が開拓しにくいユーザーを対象に独自ブランドのスマホを販売し、回線の賃貸料を払うことで大手が通信網構築に投下した資金の早期回収を手助けする立場だったが、MNOになれば大手の完全なライバルに転身するにもかかわらず、自前通信網では当初、全国をカバーできないという厄介な問題も生じるだろう。ローミングによって楽天が空白エリアの通信網を大手MNOから賃借する必要が出てくるが、今までのMVNO向け「卸料金」とは比較にならない高い料金を支払わない限り、大手が楽天とのローミングに応じるとは考えにくいからだ。

最後に、楽天自身がMVNOではなく、MNOでしかできないシナジー効果を出す戦略を編み出して、新ビジネスを高収益・高成長部門に育てられるかという問題がある。現在の国内最大のMVNOという立場を生かして、大手から借りるネットワーク料金の引き下げを目指す方が成長性も収益性も高いというような結果になれば、楽天は投資家から見放されかねない。

楽天グループは2019年中にMNOとしてのサービス開始を計画しているが、課題は多い。われわれ消費者としては、楽天が時間との闘いを制することを期待するばかりである。

【ワード解説】

楽天 日本興業銀行(現みずほ銀行)出身の三木谷浩史社長が1997年に、ネット通販の「楽天市場」運営会社として創業。その後、積極的にM&A(合併・買収)を行い、証券、銀行、クレジットカードといった金融業や、旅行予約などネットビジネス全般に業容を拡大してきた。プロ野球球団の経営やJリーグのサッカークラブ運営にも積極的で、スペインの強豪サッカークラブ「FCバルセロナ」と大型スポンサー契約(2017~18シーズンからの4年間。総額2億2000万ユーロ)を結び話題になった。

MVNOとMNO モバイル・バーチャル・ネットワーク・オペレーターの頭文字をとったのがMVNO。英ヴァージン・モバイルの例を参考に、通信ベンチャーの日本通信がDDIポケット(現在はソフトバンクのワイモバイル部門)のPHS(パーソナルハンディホン・システム)網を賃借して2001年にスタートしたのが、日本での第1号だ。近年、MNO(モバイル・ネットワーク・オペレーター)3社による「協調的寡占」の進展を憂えた総務省が振興策を採用し、NTTドコモが積極的に通信網開放に応じたため、MVNOが急成長した。

バナー写真:楽天とサッカースペイン1部リーグ・FCバルセロナとのパートナーシップ記念のパーティーで、会場に設置された看板=2017年7月13日(時事通信フォト)

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  • [2018.02.21]

経済ジャーナリスト。1960年大阪府生まれ。神戸商科大学商経学部経済学科卒業。日本経済新聞社に入社して金融、通信分野などを取材。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学し、ワシントン特派員も務めた。同社退職後、雑誌編集者を経て2004年からフリー。14年からゆうちょ銀行社外取締役。著書に『巨大独占 NTTの宿罪』(新潮社、2004年)、『日本郵政 解き放たれた「巨人」』(日本経済新聞社、2005年)、『電力と震災 東北「復興」電力物語』(日経BP、2014年)など。

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