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「特別養子縁組」が広がるために—子どもの命を救い、実親・養親が幸せになる制度づくりを

三浦 直美【Profile】

[2018.03.01]

児童虐待問題を背景に、政府は「実子」として戸籍に記載される「特別養子縁組」の利用促進に動いている。4月には「あっせん法」を施行、さらなる法整備を検討中だが、理想的な制度運用にはソーシャルワークが欠かせない。

「実子」と同様の特別養子

“養子後進国”といわれる日本。何らかの事情で生みの親の下で暮らせない子どもを養子や里親制度を使って家庭で養育することはいまや世界の常識だが、日本では施設で暮らす子が圧倒的に多い。そうした中で注目されるのが、施行30年となる「特別養子縁組」制度。利用促進に向けて、初の制度改正に向けた議論がまさに大詰めを迎えている。

特別養子制度は1987年の改正民法成立を受け、88年に施行された。よく知られている普通養子は戸籍に「養子」「養女」と記されるのに対し、特別養子の場合は実子と同様に記載され、実親との関係は切れる。子どもに法律上も安定した永続的な家庭を与えるのが目的なのだ。一時的な養育を担う里親制度とはさらに異なる。幼少時から親子関係を築くことの重要性を考慮し、特別養子となる子どもの年齢は原則6歳未満と定められている。6カ月以上の監護期間と家庭裁判所の審判を経て縁組が成立する。

厚生労働省家庭局によると、2016年度の特別養子縁組成立件数は538件。ここ数年増加傾向にあるとはいえ、乳児院に毎年約3000人が預けられ、児童養護施設に暮らす子が約2万6000人いる現状からみれば、非常に少ないといえる。欧米諸国では、年間数千件、数万件単位で成立している。

親権を手放したがらない実親

なぜ利用が進まないのか。制度そのものがあまり一般に知られていないというのもあるが、行政が積極的に関わってこられなかったことも大きな要因だ。子どもの問題を扱うのは児童相談所(児相)だが、増え続ける虐待などの対応で手いっぱいという現状がある。さらに、児童福祉は実親の下での養育が基本のため、実親との縁を切る特別養子縁組は勧めづらい。実際、「自分で育てられなくても親権を手放したがらない親は多い」(関係者)という。

また、実親の同意が必要であり、縁組成立まではいつでも同意を撤回できる点もハードルが高い。所在不明など実親の同意を取るのが困難な場合もある上に、同意があっても後に翻される恐れがあれば、養父母が縁組の申し立てを躊躇 (ちゅうちょ)してしまう。児相を対象とした厚労省の調査によると、特別養子縁組を検討すべき事案のうち、この同意要件が障壁となったケースが約7割あった。

養子縁組倍増を目指し初の制度改正へ

国や行政も手をこまねいているわけではない。2016年には児童福祉法が改正され、児相の機能強化、児童虐待の発生予防などと合わせ、養子縁組に関する相談・支援が児相の業務として明確に位置付けられた。厚労省が昨夏発表した「新しい社会的養育ビジョン」には、特別養子をおおむね5年以内に現状の倍の1000件以上にするとの数値目標が盛り込まれている。

厚労省の有識者検討会は17年6月、報告書「特別養子縁組制度の利用促進の在り方について」をまとめた。それに基づき、法務省の検討会が年齢要件(原則6歳未満)の引き上げ、実親の同意撤回の制限など、具体的な民法改正の議論に着手。実現すれば、制度創設以来の大改訂となる。

しかし年齢要件1つ取ってみても、本来の趣旨との兼ね合いや普通養子との区別など複雑な論点があり、やみくもにハードルを下げればいいわけではないため、議論は慎重を要する。制度が改訂されて一定の成果を上げるには、まだ当分時間がかかりそうだ。

「0歳」児の虐待死防ぐ「赤ちゃん縁組」

特別養子縁組制度の利用促進が求められる背景には、深刻化する児童虐待問題がある。

虐待によって死亡する子どもの年齢で一番多いのは「0歳」で、全体の約半数を占める。その多くは、生後すぐに母親によって命を奪われるケースだ。自宅での出産、若い母親、未婚の母親が典型的。予期せぬ妊娠を誰にも相談できず、中絶できる時期も過ぎ、追い詰められた結果の悲劇であることが浮かび上がる。

妊娠中からこのような女性の相談に乗り、自分で育てるのが困難な場合に養子縁組などをあっせんする体制があれば、母親も赤ちゃんも救済できる可能性がある。ここで重要な役割を果たしてきたのが民間団体だ。

病児保育など、社会と子どもを巡るさまざまな問題に取り組んでいる認定NPO法人「フローレンス」(東京)もその1つ。予期せぬ妊娠に悩む女性の相談に乗り、その女性と赤ちゃんにとって最善の選択肢が特別養子縁組だとなった場合、養親をあっせんする。養親の候補者は、書類審査、面談、家庭調査などを経て登録し、必要な研修を受けてもらう。「施設に入ってから家庭に戻すのはハードルが高く、生まれた時の縁組が大事。出産前から相談に乗ることで、意思確認もスムーズにできる」と担当者は話す。

「赤ちゃん縁組」と呼ばれるこうした取り組みは、実は30年以上前から愛知県の児相や産婦人科医会が行ってきたもので、「愛知方式」として知られる。なかなか全国の児相には広まらなかったが、最近では病院やNPOなど23の民間団体が取り組んでおり、成立件数の約3分の1は民間団体があっせんしたものだ。

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  • [2018.03.01]

ジャーナリスト。1991年時事通信社入社。社会部科学班(医療担当)、専門情報誌『厚生福祉』編集長、編集委員などを経て、2017年4月よりフリー。医療、介護、福祉、女性問題が主な取材テーマ。昭和音楽大学音楽療法コース在学中。

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