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日韓は本当に戦略的利益を共有しなくなったのか

浅羽 祐樹【Profile】

[2018.02.23]

安倍晋三首相は平昌五輪の開会式に出席し、韓国の文在寅大統領と会談した。慰安婦問題で揺れる日韓関係。筆者は、安全保障分野など具体的な目標を絞って両国のリーダーがうまく関係を築く意思があれば、未来志向に「動かす」ことは可能だと指摘する。

歴史問題に圧倒されてきた日韓関係

慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決」した日韓合意について、文在寅政権が「誠実に履行」する姿勢を示さない中、平昌五輪の開会式に安倍晋三首相が出席したのは、依然として「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」(外務省『外交青書』2017年度版)として韓国を位置づけているからである。開会式当日のレセプションの際に、米国のペンス副大統領とともに3人だけで立ち並ぶ「絵」を別途示す必要があった。

韓国の文在寅大統領主催レセプションに出席し、撮影に応じる(左から)安倍晋三首相、韓国の文在寅大統領、米国のマイク・ペンス副大統領=2018年2月9日、韓国・平昌(時事)

年初の施政方針演説において、韓国については「これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ね」「未来志向」の重要さを強調するだけで、2016年以降盛り込まれていた「戦略的利益の共有」という文言が落ちた。「ハイレベルの往来」による「戦略的互恵関係」の再構築に対する期待をにじませた日中関係と対比すると、「諦韓」ムードすら漂っている。「基本的価値」はともかく、「戦略的利益」の認識におけるほころびは、早い時点で「縫合」しておかないと重大な帰結を招きかねない。

奇しくも20年前、日韓パートナーシップ宣言で「普遍的理念に立脚した協力関係」を高らかにうたったが、相手は信頼できるパートナーなのか、と深い相互不信に陥っているのが日韓関係の現状である。特に日本でも近年、対韓認識の変化が著しく、世論の突き上げを受けてウィンセット(国内外で合意が可能な交渉の幅)が左右されるようになっている。国が異なる以上、国家戦略が完全に一致することはそもそもありえないが、対立を適切にマネージするだけでなく、協力の拡大を図ることも重要である。

安全保障分野はそのクリティカル・ケースで、朝鮮半島有事は日本の存立を脅かす事態になりかねないのと同時に、在日米軍との共同オペレーションやそれを担保する日米安保は韓国防衛に欠かせない。いま日韓双方のリーダーに問われているのは、こうした文脈において「日韓」を「日米韓」の枠組みの中で再定義する政治的意思と、もはや自明でなくなった二国間関係の意義を国内外で説得するための具体的な行動である。

南北対話に前のめりな文在寅大統領

平昌五輪をなんとか平和裏に開催したいあまり、韓国は南北対話だけに前のめりになり、北朝鮮の「微笑み攻勢」に取り込まれてしまったように映る。圧巻は、妹の与正を送り込んだ金正恩による南北首脳会談の提案を、文在寅大統領が条件付きとはいえ基本的には受け入れたことである。その「条件」の一つとして米朝対話を促したとはいえ、3日間で4回も同席したにもかかわらず、核ミサイル問題について一度も言及しなかったようでは、事の軽重を見失っているという批判が韓国内でも出るのは当然である。

もちろん、文在寅大統領も、これまでのような「対話のための対話」では意味がなく、「非核化」が「出口(最終目標)」であると認識している。とはいえ、対話(talk)と交渉(negotiation)はそもそも異なるし、米国が北朝鮮との交渉に「入る」ためには、まず北朝鮮が非核化に向けた具体的な措置を取ることが、それこそ必要条件である。だとすると、文大統領が訪朝に先だって特使を送り十分に協議・調整を行うべき相手は、むしろ米国(や日本)である。軍事行動も含まれるカードではプレーしようとしないようでは、ゲームが成り立たず、北朝鮮の行動を今度こそ改めさせる「切り札(トランプ)」も見つからない。

「最大限の圧力」で隊列を整える主眼もここにある。対北制裁レジームがようやく効いてきているのに、五輪参加への便宜供与という口実で韓国がなし崩しするようでは中露に対しても示しがつかないし、抜け穴になっている「瀬取り」への対処もままならない。パスカルの格言をもじれば、「対話を一切閉ざす圧力一辺倒も破局につながるかもしれないが、力(strength)によって裏打ちされない対話は無力(powerless)である」ということである。

五輪期間中だけ延期されていた米韓軍事演習をそのまま実施するのか。それとも、北朝鮮が南北首脳会談に向けて条件として打ち出してきた場合、なびくのか。民族と同盟の狭間に立っている文在寅大統領にとっての「正念場(the moment of truth)」はまもなく訪れる。

「一番弱い輪」で切らせない

「鎖は一番弱い輪で切れる(A chain is no stronger than its weakest link)」という警句があるが、「日米韓」のあり方を問い直す上で示唆的である。「一番弱い輪」とは、同盟よりも民族を優勢する「韓国」であると短絡しがちだが、「輪」である以上、「日米」「米韓」「日韓」の3つのうちでは「日韓」を指すと理解する必要がある。駐韓米国大使としての起用が撤回されたヴィクター・チャはかつて、共通の同盟国を有するもののフォーマルには安保上の取り決めをしていない日韓関係について「擬似同盟(quasi-alliance)」と形容したことがある(ヴィクター・D・チャ、船橋洋一監訳、倉田秀也訳『米日韓 反目を超えた提携』有斐閣、2003年)。その後、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)が結ばれたが、日韓関係は一体どこまで「実質的な同盟(virtual alliance)」に近づいたのか。

実際、グアムのアンダーセン空軍基地などに配備されている米太平洋軍のB1爆撃機やB52爆撃機は、朝鮮半島有事において死活的に重要な戦略資産であり、航空自衛隊や韓国空軍のそれぞれと合同で演習を重ねているが、全部で同時に編隊を組むことは未だない。米国からすれば、「米日」「米韓」のステップ・シークエンスでなんとか「米日韓」の演技構成点をつないでいるにすぎない。それに、「日米韓」はまだしも言及されるが、韓国で「韓米日」は「同盟にはしない」と中国に誓う文脈でしか出てこない。

「日米韓」安保連携が揺らいでいるように映るだけで、誤ったシグナルになりかねない。ディカップリング(切り崩し)を図る側からすると「一番弱い輪」をターゲットにするのは当然である。それでなくても別の問題で対立している間柄だと、関係の本質を見込み違いしてしまいがちである。「中韓『抗日』歴史共闘」というのも、そうした「カバー(擬装)」であると喝破すれば、対処の仕方も異なるはずである。

そもそも日韓は同じ同盟のジュニア・パートナーとして、チャが定式化した「見捨てられ懸念(fear of abandonment)」と「巻き込まれ懸念(fear of entrapment)」を共有している。

前者は、北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)がいよいよロサンゼルスやニューヨークに届くとなると、「東京やソウルを守る」というワシントンのコミットメントに対するクレディビリティ(信頼性)が(本音では)低下することと関連する。また、「ICBMの凍結」だけで米朝間でディール(取引)が成立してしまうと、日韓は核が搭載されたスカッドやノドンの脅威の下、独自で生存を図るしかなくなるかもしれない。

後者は逆に、事前協議や退避計画が十分でないうちに、「鼻血」だけで済むかどうかの見通しがはっきり立たないまま、米国が先制攻撃を開始してしまうシナリオと関連する。いずれも、トランプ大統領という「トリッキーな」リーダーにともなう不確実性が懸念を増幅させている。これもまた、日韓が共有している「戦略的利益」の一側面であるし、「日米韓」における「弱い輪」は「日韓」だけとは限らないということである。

切実な「一枚絵」と「大きな絵」

一枚の絵が百の言葉より力強く物語ることがある。例えば、オバマ大統領が広島を初めて訪問し、原爆ドームの前で被爆者を抱擁したシーンは、原爆投下に対する明確な「謝罪」の言葉(や補償の措置)がなくても大方「赦せる」ものだった。安倍首相の真珠湾訪問や連邦議会上下両院合同会議における演説と合わせて、「日米和解」を象徴する出来事として今後いつまでも両国民の心に残ることになるだろう。同盟国同士でも、「和解」の演出にはこれだけ心血を注ぐべきものなのである。

まして、そうでない国に対しては、細心の注意が求められるのにもかかわらず、日韓間では「言葉」だけが注目される一方で「グッとくる」絵(moving scenes)に欠けていたため、ゴールポストが何度も「動いた」(moving the goalposts)。日本がなにかと「謝罪する国(Sorry State)」ドイツと対比されてしまうのも、ワルシャワのゲットーの前でひざまずいたブラント元首相の写真に匹敵するものがないことで、第三者の「心と精神を勝ち取る」ことができていないからである(Jennifer Lind, Sorry States: Apologies in International Politics, Cornell University Press, 2008)。平昌五輪でも、スピードスケート女子500メートルで金銀メダルを分けた結果とは別に、小平奈緒と李相花の二人の選手が見せた姿はスポーツマンシップそのもので、広く感動を与えた。

「日米韓」安保連携においても、こうした「一枚絵」があるはずである。グアムから飛来した米国の戦略資産を航空自衛隊がまずエスコートし、日韓の防空識別圏の際で韓国空軍に引き継ぐことを米太平洋軍は「ハンドオフ」と形容している。これはアメフト用語で、味方のプレーヤーにボールを手渡すことを指す。米国にとって日韓はチームメイト(であるべき)なのである。日米韓がひとつのチームとしてともに韓国の領域で演習することは政治的に難しくても、せめてハンドオフの写真や動画がマスメディアを通じて公開されると、日韓関係を「より大きな絵」の中で再評価することが可能になる。

事実、筆者が多湖淳教授(神戸大学)や小林哲郎准教授(香港城市大学)らと行っている共同研究では、日韓安保協力に対して否定的なのは日本の右派と韓国の左派であるが、「米日」と「米韓」を合わせることでなんとか「米日韓」として北朝鮮の脅威に対峙しているというわずか38秒の動画(米太平洋軍作成)を見せるだけで、この層の見解が肯定的に転じるという知見を得ている。

日韓関係は硬直状態に陥っているのではなく、然るべき「ターゲット(public)」に絞って巧く「関係(relations)」を築こうとしさえすれば、未来志向に「動かす」ことができるのである。いま、日韓双方のリーダーに問われているのは、そうしたPR戦略である。

(2018年2月21日 記)

バナー写真:平昌五輪開会式に出席した安倍晋三首相(手前右から2人目)。左後方は北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長、同右は金正恩朝鮮労働党委員長の妹、与正氏、前列2人目は文在寅韓国大統領=2018年2月9日、韓国・平昌(時事)

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  • [2018.02.23]

新潟県立大学国際地域学部教授。北韓大学院大学校(韓国)招聘教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。専門は、比較政治学、韓国政治、司法政治論、国際関係論、日韓関係。1976年大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程修了。Ph.D(政治学)。九州大学韓国研究センター講師(研究機関研究員)、山口県立大学国際文化学部准教授などを経て現職。著書に『戦後日韓関係史』(有斐閣、2017年、共著)、『だまされないための「韓国」』(講談社、2017年、共著)、『日韓政治制度比較』(慶應義塾大学出版会、2015年、共編著)、Japanese and Korean Politics: Alone and Apart from Each Other(Palgrave Macmillan, 2015, 共著)など。https://twitter.com/yukiasaba

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