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トランプ大統領は日米同盟を破壊するのか

細谷 雄一【Profile】

[2018.07.24]

トランプ米大統領と欧州諸国との対立が深まる中、国際社会における日本の存在感が増している。筆者は今後の日本の役割について、自由貿易体制強化へ主導的役割を果たす一方、アメリカとは粘り強く付き合っていくべきだと指摘する。

ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任して、1年半ほどが経過した。この間、国際情勢が大きく変動している。その多くは、トランプ氏個人の発言や行動によって引き起こされたものである。日本国内では、安倍晋三首相とトランプ大統領との親密な友好関係によって、当初は日米同盟の将来に関する楽観論が幅広く見られていた。ところが最近は、そのような楽観論が大きく後退している。トランプ大統領が日米同盟の根幹を破壊するのではないかという懸念が、次第に広がってきているのだ。

悲劇的なアメリカと欧州の対立

トランプ大統領の、予測困難で、従来のアメリカ政府の基本方針を逸脱する対外政策に関する発言や行動に対して懸念を示しているのは、日本だけではない。6月8日、9日にカナダのシャルルボワで開催されたG7サミットは、欧州諸国、カナダ、日本という「6カ国」と、トランプ大統領のアメリカとの間のあつれきがあまりにも顕著となり、「6対1」の構図が浮かび上がっていた。そのことを象徴するかのように、9日朝に撮影された写真では、腕を組んで不機嫌そうに座るトランプ大統領と、両手をテーブルについてトランプ大統領をにらみつけるドイツのアンゲラ・メルケル首相とが対峙(たいじ)する構図が示されている。

この写真は、ドイツ首相官邸がツイッターで拡散したことで、世界中で広く閲覧されることになった。写真では、中間に安倍首相が腕を組んで立っている様子が象徴的であった。あたかも、熾烈(しれつ)化する米欧対立を、日本が間に入って緩和させようとしているかのようである。しかしそれにも限界がある。「貿易で戦う」と、挑発的で攻撃的な姿勢を崩さないトランプ大統領は、貿易赤字が拡大する日本に対しても激しい批判を繰り返しているからだ。

その後、7月11日から12日にかけて開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会談では、欧州首脳とトランプ大統領との対立はよりいっそう激しくなり、悲劇的な結果となった。戦後秩序を支えてきた自由民主主義諸国の結束が、大きく後退していることは明らかであった。

トランプ大統領は、次第に貿易赤字と同盟関係を結びつけて考えるようになり、さらにアメリカが同盟国の防衛に対して多大な負担を負っていることに不満を募らせている。トランプ大統領は、米朝首脳会談や米ロ首脳会談で、アメリカへの攻撃的意図を示してきた北朝鮮やロシアの首脳の指導力を賞賛し、友好関係を生み出そうとする一方で、価値を共有する同盟国に対しては侮蔑と批判を繰り返すという奇妙な状況が生まれている。これは、戦後われわれが見たことのない光景である。

自由貿易強化へ役割増す日本

これに対して、日本政府は2つの方法で、賢明な対処を示してきた。第1には、このような困難な状況であるにもかかわらず、日米同盟を強化することである。安保関連法を2016年に導入してから、日米間での安全保障上の連携は確実に強化されている。また、昨年末のアメリカの新しい国家安全保障戦略で示されたように、「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、日米両国が共有する長期的な戦略的なビジョンとなっている。小野寺五典防衛相とジェームズ・マティス国防長官の間には深い信頼関係が育まれ、この1年間ほどで北朝鮮の軍事的脅威に対応するための緊密な連携が確立してきた。実務レベルでの日米同盟の緊密さは増しているのだ。

第2に、自由貿易に関しては、アメリカを疎外することがないように留意をしながら、日本が自由貿易体制の強化へ向けて主導的な役割を担っている。まず、日本国内では、6月29日に参議院本会議で環太平洋連携協定(TPP11)関連法が可決され、成立した。政府は年内の成立を目指しており、日本が主導するアジア太平洋11ヵ国が参加する巨大なFTA(自由貿易地帯)が確立することになる。この「TPP11」は、日本政府の忍耐強いリーダーシップによって、困難な交渉をまとめることができた。それを受けて、TPP11に参加するカナダのトルドー首相は、安倍首相の「並外れたリーダーシップ」を賞賛した。

7月17日には、首相官邸において安倍首相とドナルド・トゥスクEU欧州理事会常任議長(大統領)、そしてジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長という日EU双方の首脳が結集して、日欧EPAに署名した。これは、世界のGDPの約3割を占める、世界最大の自由貿易圏が誕生することを意味する。西日本における豪雨による自然災害への対応を優先するために、安倍首相が訪欧の予定をキャンセルするなかで、急きょトゥスク議長とユンケル委員長が東京で歴史的な協定に署名するために、訪日を決断した。これもまた異例の対応であり、EU側がこの協定の署名、さらには自由貿易の擁護をきわめて重視している象徴といえる。

トゥスク議長は、このような困難な状況の中での日欧協力の意義を、次のような情熱的なメッセージで記している。「この協定は、暗闇が拡大しつつある国際政治における光である。あなたがたは、欧州と日本を信頼することができる。そのような明確なメッセージを、われわれは送っているのだ。われわれは予測可能であり、責任があり、これからも、ルールと、自由民主主義的な価値と良識に基づいた世界秩序を擁護し続けていく」。そのような情熱は、おそらくは、安倍首相も共有していたことであろう。

困難を乗り越え、日米同盟の価値追及を

EUとは異なり、日本は攻撃的な意図を有する核保有国に囲まれており、また周辺国との領土問題をいくつも抱えている。日本の領域防衛に深く関与をして、東アジアの地域的安全保障の将来に大きな影響力を有する日本の同盟国は、アメリカ一国のみである。日本の地政学的な条件や、この地域のパワー・バランスが変わらないとすれば、日本にとっての日米同盟の価値が失われることはない。これは、欧州諸国間の安全保障協力を前進させているEU諸国との大きな違いである。したがって、ドイツやフランスのような形で、アメリカへの対決的な姿勢を明確に示すことは賢明ではない。むしろ、アメリカが自由主義諸国の盟主として、再び名誉ある責任ある役割に回帰することを促すことが重要だ。

日本外交は、これまでのアメリカ外交の伝統を大きく逸脱する異質なアメリカ大統領と向き合う中で、かつてない大きな困難に直面している。同時に、日本外交は、これまでにはない重要な使命と役割が期待されている。すなわち、EUとともに自由貿易を擁護して、NATOとともに国際秩序の平和と安定を維持していくことである。同時に、アメリカに過度な負担と責任が集中するようなこれまでの同盟関係のあり方を、より誠実に直視して、改めるべき点を適切な形で理解することが重要だ。

アメリカ国民が、自らに与えられた偉大な使命感を再確認して、さらには自らの国益に基づいたプラグマティックな外交路線に回帰することを信じることが重要だ。その時には、より役割が拡大した日本外交と、より公正な関係へと是正された同盟関係を基礎として、日米同盟はより強固な姿になっているであろう。

バナー写真:カナダでのG7サミットで、トランプ米大統領(右端)に対し、厳しい表情で向き合うドイツのメルケル首相(中央左)=2018年6月9日(ドイツ政府提供/UPI/アフロ)

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  • [2018.07.24]

nippon.com編集企画委員。慶應義塾大学法学部教授。1971年千葉県生まれ。立教大学法学部卒業。2000年慶大大学院政治学専攻博士課程修了。北海道大学法学部、慶大法学部などの専任講師を経て2006年慶大法学部助教授。2011年から現職。著書に『戦後国際秩序とイギリス外交——戦後ヨーロッパの形成、1945-51年』(創文社/2001年/サントリー学芸賞受賞)、『大英帝国の外交官』(筑摩書房/2005年)、『倫理的な戦争——トニー・ブレアの栄光と挫折』(慶應義塾大学出版会/2009年/読売・吉野作造賞受賞)など。

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