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新幹線、次世代へGO!

梅原 淳【Profile】

[2018.09.11]

次世代新幹線の開発が本格化している。JR東日本は世界最速となる時速360キロ運転に向けて試験車両の開発に着手。JR東海も現行車両のフルモデルチェンジに向け、走行試験を開始した。

日本の新幹線は1964年の開業以来、北は北海道から南は九州まで3280 キロメートル(※1)に及ぶネットワークを築いてきた。列車は東北新幹線の時速320キロメートルを筆頭に、ミニ新幹線を除いて時速200キロメートル以上で運行。現在、年間約4億2000万人、1日平均約115万人(2016年度)の乗客が新幹線による快適な高速移動を享受している。

スタートした次世代車両の開発

新幹線という輸送システムを成り立たせる上で、車両は重要な要素の一つだ。車両には、高速性能や安全性、快適性、省エネルギー性や環境への配慮が欠かせない。こうした厳しい条件をクリアした新幹線の車両は大きく2つのグループに分けられる。一つは「東海道」「山陽」「九州」など温暖地向けグループ。もう一つは「東北」「上越」「北陸」「山形」「秋田」など寒冷地・積雪地向けグループだ。主力を占める車両は、前者が東海道・山陽新幹線で用いられるN700A、後者は東北・北海道新幹線で用いられるE5系・H5系である。

N700Aのデビューは2013年だが、N700系のデビューが07年であるからすでに11年がたっている。E5系・H5系も、E5系が11年のデビューとこちらも7年にわたって活躍してきた。N700A、E5系・H5系とも主力の座を長期間占めていることから見て、新幹線の車両としてほぼ完成の域に達したと言えるであろう。

こうした中でN700Aの開発者であるJR東海、E5系・H5系の開発者であるJR東日本の両社は、16年から17年にかけて次世代車両の開発に取り組むと発表した。JR東海はN700S確認試験車(以下N700S)、JR東日本はE956形式、愛称「ALFA-X」(以下ALFA-X」)とどちらもテスト用の車両をまず製造するという。N700Sは18年3月にすでに登場し、ALFA-Xは19年春に完成する予定だ。N700S、ALFA-Xに採用された新機軸や開発目標を知ることで20年代の新幹線の姿が見えてくるはずだ。

徹底的に行われた軽量化・小型化

N700Sは一見すると従来のN700Aとほとんど変わりがない。車体をはじめとする基本的な構造はそのままに、新たな機器、システムを搭載することでさらなるブラッシュアップを目指すというコンセプトで開発が進められたからだ。派手さはないものの、N700Sに採用された新機軸は充実している。最大の特徴は車両の床下に搭載される機器の軽量化、小型化を徹底的に行ったことだ。

東海道・山陽新幹線の車両の変遷

系列 最高速度
0系 1964 東海道新幹線210km/h
(1986年から220km/h)
山陽新幹線210km/h
(1972年から)
220km/h(1986年から)
100系 1985 東海道新幹線210km/h
(1986年から220km/h)
山陽新幹線210km/h
(1986年から220km/h)
100N系* 1989 東海道新幹線220km/h
山陽新幹線230km/h
300系 1992 東海道新幹線270km/h
山陽新幹線270km/h
(1993年から)
500系* 1997 東海道新幹線270km/h
山陽新幹線300km/h
700系 1999 東海道新幹線270km/h
山陽新幹線285km/h
N700系 2007 東海道新幹線270km/h
山陽新幹線300km/h
N700A 2013 東海道新幹線270km/h
(2015年から285km/h)
山陽新幹線300km/h
N700S 2021(予定) 東海道新幹線285km/h
山陽新幹線300km/h

*はJR西日本所有の車両。他はJR東海、JR西日本両社が所有。

軽量化から述べると、モーター付きの電動車ではモーター部分で約140キログラム、台車フレームで約75キログラム、合計で215キログラム軽くなるという。電動車の台車1基当たりの重さは約7トンで3パーセントの軽量化にすぎないが、新幹線の車両の場合は1グラム単位での軽量化に腐心しているので大幅な軽量化が達成されると言ってよい。

機器の軽量化によって、従来と同程度の出力でより高速での走行が実現可能だ。消費電力もより少なくて済むので省エネルギー性も向上する。軽い車両は走行中の騒音や振動が軽減されるので、車内の快適性が増すとともに、沿線へもたらす影響も緩和されるだろう。

小型化によるメリットも多い。車両の床下に装着される変圧器などの電気機器が小さくなり、これまでは3車両分のスペースが必要だった機器類を1車両に収めることができるようになった。

空きスペースに大容量の蓄電池を搭載

注目すべきは、機器の小型化によって生み出された空きスペースの活用法だ。JR東海は車両が自走できるほどの容量をもつリチウムイオン蓄電池を搭載し、今後試験を実施するという。実用化された場合、架線からの電力供給が絶たれても自力で走行できるため、トンネル内や橋梁(きょうりょう)上での立ち往生といった事態は避けられるに違いない。

JR東海は何も触れていないが、大容量の蓄電池の搭載にはさらなるメリットがあると筆者は考える。電力回生ブレーキ(regenerative brake)で生み出された電力を蓄電池にためられるようになれば、このブレーキを通常時だけでなく非常時にも使用できるようになるからだ。

モーターを発電機としてその抵抗力で車軸の回転を弱める電力回生ブレーキ(※2)は自動車でいうとエンジンブレーキに相当し、特に高速では安定した制御力が得られる。しかし、現在すべての新幹線の車両は非常時に電力回生ブレーキを使用せず、摩擦力で停止させるディスクブレーキに頼っている。その最大の理由は、電力回生ブレーキは生み出された回生電力を架線に戻さなくてはならず、大地震など架線の停電時には使えないからだ。しかし回生電力を蓄電池に流すことができれば大地震時でも電力回生ブレーキを作動させ、停止距離や制御時間の短縮が可能となるだろう。

時速360キロを目指す

一方、JR東日本の次世代車両ALFA-Xの開発コンセプトは、安全性、安定性、快適性、環境性能、メンテナンス性の向上と多岐に渡る。最大の開発目標は最高速度の引き上げで、時速360キロメートルでの営業運転の可能性をこの車両で検証するという。

東北・北海道新幹線の車両の変遷

系列 最高速度
200系 1982 東北新幹線 210km/h
200系
1000番台以降製造分
1985 東北新幹線 240km/h
E1系 1994 東北新幹線 240km/h
E2系 1997 東北新幹線 275km/h
E4系 1997 東北新幹線 240km/h
E5系 2011 東北新幹線300km/h
(2013年から320km/h)
北海道新幹線260km/h(2016年から)
H5系* 2016 東北新幹線320km/h
北海道新幹線260km/h
E956系(ALFA-X) 2019(予定) 東北新幹線400km/h(予定。試験時)、
360km/h(予定。営業用の系列に反映)
北海道新幹線260km/h

*はJR北海道所有の車両。他はJR東日本所有の車両。
E956系(ALFA-X)は試験車両。営業用の系列名は未定。

時速360キロメートルでの営業運転はE5系・H5系を開発する際にも検討された。しかし、消費電力の増加による運転コストの上昇、さらに騒音や振動を低減させるための環境対策に課題があり、実現には至っていない。

ALFA-Xの開発に当たり、JR東日本は省エネルギー性の向上を表明しており、詳細は明らかにされていないものの、機器や装置の軽量化を図るものと思われる。同時にディスクブレーキや、架線から電力を取り入れるためのパンタグラフの形状を改良し、車両が走行時に発する騒音で大きなウエートを占める空力音を低減させるという。

また、乗り心地の向上をうたって新たに採用となる上下方向の制振装置にも注目したい。この装置は車両が上下方向の振動を感知すると即座に揺れを和らげる。これまでの車両でも左右方向の制振装置は搭載されていたが、この制振装置によって速度が向上してもさらに乗り心地が良くなるかもしれない。

ALFA-Xの試験車両のイメージ(提供:JR東日本)

過去に大地震によって上越新幹線で営業中の列車が脱線した経験をもつJR東日本は今回、ALFA-Xに新たな地震対策を盛り込んだ。新搭載の「地震対策ダンパ」は地震の強い力を受けた時にだけ作動して、車体の揺れを抑え、地震によって線路から飛び出そうとする車両の挙動を安定させるという。

さらに、車体と台車との間は通常は頑丈なピンによってほとんどすき間なく接続されているが、新搭載の「クラッシャブルストッパ」によってピンの周囲に一時的にすき間を設ける試みも採用される。大地震の際には、衝撃を受けたストッパが押し潰されて間隔が広がることで衝撃を緩和し、車体の揺れが台車に伝わりにくくなる。その結果、車輪とレールとの間生じる強い力を抑えて脱線しにくくなる効果が期待される。

派手さはないが堅実な新車両開発

N700S、ALFA-Xに共通する改良点も見られる。車両に搭載した機器類、装置類の作動状況をよりきめ細かく記録したデータ、さらには大幅に増設された車内防犯カメラの映像データを瞬時に地上の管制施設である総合指令所に送信するというものだ。目立たないながらも、新幹線の安全性や安定性の向上に大いに貢献するであろう。筆者としてはさらに一歩進め、車内のトラブルであるとか機器の故障といった突発的な事態が発生した際に、総合指令所から遠隔操作で措置を施すことも目指すべきだと考える。

N700S、ALFA-Xが実現しようとしているイメージを一言で言うと、「当たり前のことを当たり前に行える新幹線」だ。速度の向上を除けば派手な点は見当たらない。しかし、それで良い。新幹線は他の何かと競うものではない。いつも通りに走りながら、以前よりも速く、静かで揺れが少なく、省エネであれば何ら問題ないからだ。

バナー写真=JR東京駅で公開された東海道新幹線の新型車両「N700S」=2018年6月23日(時事)

(※1)^ ミニ新幹線の山形・秋田両新幹線を含む。フル規格の新幹線は営業キロをもとに積算(2018年4月現在)。

(※2)^ 「モーター(電動機)」は「発電機」と同じ構造なので、発電機としても使える。車両に搭載したモーターを逆に発電機として働かせ、「運動エネルギー」を「電気エネルギー」に変えることで、「運動エネルギー」をゼロにして停止させる仕組み。発生した電気エネルギーは架線に戻す。

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  • [2018.09.11]

鉄道ジャーナリスト。1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部を経て、2000年に独立。主な著書に『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『日本の鉄道の歴史 全3巻』(ゆまに書房)、『定時運行を支える技術』(秀和システム)など。福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員。

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