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官僚人事、誰が決める:官邸主導で何が変わったか

軽部 謙介【Profile】

[2018.09.03]

「内閣人事局」が2014年に創設されて以降、昇格を人質にとられた官僚側が政治家の顔色をうかがう傾向が出てきたと言われる。

日本の官僚人事は誰が決めているのか。その答えを探していくと、戦後ずっと問題になってきた政治と官僚の関係が見えてくる。「政治主導」というスローガンを人事面でも実現しようとする閣僚。彼らの意向を推し量りながら自分たちの思惑を通そうとする役人たち。外部から見れば決定のプロセスは不透明極まりない。第2次安倍晋三内閣の下、2014年に「内閣人事局」が創設されて以降、昇格を人質にとられた官僚側に政治家の顔色をうかがう傾向が出てきたとの指摘もある。

族議員や有力OBに「人事権」

中央官庁の幹部人事は通常国会の閉幕後に実施されるケースが多い。6月か7月というタイミングだ。多くの省庁では事務次官や各局長といった幹部から、課長、係長まで一斉に異動する。1つのポストには長くて3年、短ければ1年程度の在籍が普通だ。局長のすぐ下のポストである審議官以上の約600人については、内閣人事局の承認が必要になる。

各省の人事部局が一般職員の異動原案を作り、局長以上の幹部は事務次官や官房長が決めていく。各省に不文律があり、例えば財務省なら「主計局長が事務次官に昇格する」と決まっていた。戦後、主計局長から次官になれなかったのは、わずかな例外があるだけだ。

今年の人事では、麻生太郎財務相が国際金融部門トップの浅川雅嗣財務官を次官に横滑りさせようとしたが、官僚たちの強い抵抗に遭い、最終的に主計局長だった岡本薫明氏が順当に昇格した。結果的に不文律が生きていることを証明した形だ。

ただ、省によってはこの暗黙のルールに変化が見られる。例えば経済産業省。かつては事務次官には筆頭局長である産業政策局長(現経済産業政策局長)が昇格するケースが大半だった。しかし、現在の嶋田隆次官は官房長から国際問題を担当する通商政策局長を経て次官に就任した。周囲は「能力的には順当な人事」と評価したが、「次官へのルート」が一様ではないことを印象付けた。

内閣人事局ができる前は、「部外者」が関与する事例が少なくなかった。

まず政治家だ。「族議員」と呼ばれ特定の分野に精通する議員集団が省庁人事に介入することは、農水省、建設省(現国土交通省)、運輸省(同)で多かった。政策決定や予算獲得をスムーズに進めるため、力の強い族議員に人事内容を最終決定前に伝えるのも通例だった。

有力OBの介入もあった。多くの場合は「ご意見拝聴」と称して官房長や次官がOBに話を聞いて参考にするという形式をとるが、相談に乗ってもらう、あるいは指示を受けるのが実態だったと言える。彼らは「○○省のドン」などと呼ばれる実力者で、これらのOBの同意なしに幹部人事を決めることは難しかった。

内閣人事局ができて以降、族議員の介入や有力OBの露骨な介入は影を潜めている。しかし、これも政治の力関係だ。内閣が弱体化すれば、再び部外者の関与が激しくなる可能性がある。

モリカケ問題招いた忖度

このような実態の人事決定だが、問題も多い。

まず、大臣の位置付けだ。国家公務員法では、官僚の任命権者は大臣にあると明確に書いてある。従って、人事面でも政治主導は当たり前なのだが、実際は「まだら模様」だ。

実力者が大臣に就任した場合、各省の人事当局は最初の段階からある程度相談しつつ話を詰めていくが、この場合、大臣も官僚の意見を尊重するのが一種の「作法」だった。大臣に就く政治家がそれほどの実力者でないとみなされた場合、すでに族議員やOBなど関係者の意向を盛り込んだ人事案を「原案」として報告し、了承を得るというのが一般的だ。

今年の財務省人事の場合、麻生氏は有力大臣なので人事当局は最初から相談して話を進めたが、結果的に「浅川財務官を次官に」という麻生氏の意向は官僚側の抵抗で阻止された。一方、1990年代には通産省(現経産省)で、大臣が次官候補だった官房長を勝手に退官させて大騒ぎになったこともあった。任命権については、法律と実態にずれがあるのだ。

また、内閣人事局の存在が官僚の行動を左右しているという弊害も、指摘されている。昨年、ある省庁の人事が官邸の意向でひっくり返されたという情報が霞が関を駆け抜けた。真偽のほどははっきりしないが、このようなうわさを聞くだけで官僚たちは影響を受ける。週刊誌などが「安倍政権では首相の知り合いが出世する」という趣旨の記事を繰り返し掲載したことも、官僚に少なからぬ影響を与えた。

そして、それは「忖度(そんたく)」という形で表れる。明確な指示がなくとも、官僚の側で勝手に官邸の意思を推測して先取りする形で政策や人事をまとめていくのだ。「安倍政権で官僚側の忖度が多いと言われる背景には、人事決定過程への官邸の関与がある」との批判は根強いし、実際に森友学園や加計学園を巡る問題の背景には、官邸への配慮があったとの見方が一般的だ。

とはいっても、首相と官房長官がどのように動くかはケースによるようだ。関係者によると、今年の財務省人事に、安倍首相と菅義偉官房長官は、ほとんど関与していないという。

「首相夫人が絡んだ森友問題で迷惑を掛けたという思いが安倍さんにはある。しかも、9月の総裁選挙で麻生さんの協力が不可欠であることを考えれば、とても人事に介入することはできなかったのだろう」と関係者は指摘する。

内閣人事局の存在が、全ての官僚人事に影響を与えているわけでもなさそうだ。

政治任命は日本では無理?

役所の人事にはいくつかやり方がある。例えば、大統領や閣僚が自分の気に入った人々を主に外部から登用し高官ポストを埋めていく「政治任命」制度。米国はこのシステムで運用されている。議院内閣制の日本はこの制度をとっていないが、内閣人事局の力が強まると政治任命と同じ効果が生じる可能性がある。経産省の幹部はこう話す。

「どのポストに行くのかは役人にとって死活的に重要な問題。政策を考えるとき、内閣人事局の存在が頭の片隅をよぎったとしても不思議ではない。ただ、それが高じれば、事実上の政治任命制度になってしまう」

官僚は選挙で選ばれたわけではない。彼らが決める政策を政治がチェックするのは必要だ。そこで唱えられたのが政治主導。安倍政権は、内閣人事局を新設し、人事面でも政治がイニシアチブを握れるような仕組みを築いた。

しかし、それが行き過ぎれば忖度の山が築かれることも明らかになった。同時に今回の財務省人事のように、政治のイニシアチブが貫徹しているわけでもない。

いっそのこと政治任命の方が分かりやすいが、任期が4年と決まっている米国と異なり、日本の政権はいつどのような形でひっくり返るか予想できない。1年前後で首相が交代する短命政権も多い。そのたびごとに高官が入れ替われば、政策は混乱必至だ。

「官僚の人事を誰が決めているのか」を考えていくことは、「誰が決めるべきなのか」という問いに直結する。内閣人事局が新設されて4年以上経過し、その功罪も明らかになった。しかし、あるべき官僚人事の姿は、依然として見えてこない。

バナー写真 : 首相に対する「忖度」が取り沙汰された森友学園への国有地売却問題で、衆院予算委員会での質問に答える財務官僚=2018年5月28日(時事)

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  • [2018.09.03]

時事通信社解説委員。1955年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、79年時事通信社に入り、主に経済部で取材、執筆。ワシントン支局長、ニューヨーク総局長、編集局次長、解説委員長などを歴任し、2016年7月から現職。著書に『日米コメ交渉』(中公新書、農業ジャーナリスト賞受賞)『検証 バブル失政』(岩波書店)など

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