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人口減社会が招く水道事業の危機

浦上 拓也【Profile】

[2018.10.04]

全国どこでも、安くて安全な水を飲むことができる——そんな日本の水道神話が、人口減や施設の老朽化によって崩れつつある。

100%に近い水道普及率を達成

1889年、横浜市において、水道管を用いた圧力給水による、いわゆる「近代水道」の供給が開始された。当時、日本では港湾都市を中心に水系伝染病による人的被害が甚大だった。また、木造建築が多かったため、いったん火災が発生すると瞬く間に延焼を引き起こし、幾度となく大惨事をもたらしていた。こうした事態を防ぐため、日本政府は「公衆衛生の確保」と「防火対策」を主な目的として、日本全国に近代水道を普及させるため市町村営を原則とした水道事業を創設したのである。

水道の普及が急激に進展したのは1950年代後半から80年代にかけての高度経済成長期であった。図1で示したように、50年に26.9%だった普及率は80年には90%を超え、2016年には97.9%となっている。

おいしくて安い日本の水

経済が発展すると、産業排水・廃棄物が急増し、さまざまな環境問題が発生した。水道事業では水源水質の悪化から水道水の異臭問題が深刻となり、厚生省(現・厚生労働省)は「おいしい水の供給」をスローガンに、高度浄水処理の導入によってこの問題を解決してきた。日本の水道は世界最高の水質基準を実現するとともに、水道料金に関しても海外と比較して十分に低い水準を達成している。図2は海外の主要都市の家庭用水道料金を示したものである。日本の水道料金がいかに安いかが理解できるだろう。

危機に直面する水道事業 

高度経済成長およびそれに伴う急激な人口増加に十分対応し、世界最高水準のサービス供給を実現した日本の水道事業は、21世紀に入りさまざまな危機に直面することになった。図3は2016年度の水道事業者(上水道)の料金回収率を示したものである。全体の約3分の1(414事業者)は、料金回収率が100%を下回っている。

新日本有限監査法人および水の安全保障戦略機構事務局が18年3月にまとめ「水道料金の将来推計」によれば、40年までに水道事業者の約90%が料金値上げをしなければならず、その平均の値上げ率は36%にも達するとされている。

このほか厚生労働省の調査で、老朽化した管路の更新率は16年度末の時点で0.75%に過ぎず、本来必要とされる更新率1.14%には遠く及ばないことが指摘されている。さらに近年日本では最大震度7を超える地震が複数回発生しており、この影響により断水戸数が100万世帯を超え、最大断水日数も数カ月に及んだ事例が報告されている。

このような事態に陥った原因として挙げられるのは、第1が人口減少、第2が施設の老朽化、第3が頻発する自然災害である。

日本の人口は08年の1億2800万人をピークに減少し始めている。国立社会保障・人口問題研究所の17年推計によれば、63年には総人口が9000万人を、2100年には6000万人を下回ると予測されている。日本の水需要は、節水機器の普及などによりすでに2000年以前より減少傾向にある。今後、人口減が進めばさら水需要の減少は加速していくことになる。水需要の減少は料金収入の減少をもたらし、今後多くの事業体が経営危機に直面することが予想される。加えて、これまでも若手職員の減少により技術継承の問題が指摘されてきたが、人口減により職員の確保自体も困難になると言われている。

水道事業において、その資産の大部分は地下に埋設されている水道管である。水道管路は法律により耐用年数が40年と定められており、水道事業者は水道管を40年で減価償却しなければならない。減価償却費を計上している間は、その費用を料金収入によって回収し続けなければならないが、償却期間が過ぎれば費用計上する必要はなく、結果として水道料金を低くすることが可能となる。水道は日常生活に不可欠なサービスであり、低料金に対する強い社会的要請がある。料金を低く抑えるために、水道管の更新が先送りされるケースが多く起こっている。

高度経済成長期に大量に敷設された水道管は、すでに法定耐用年数を超えて老朽化が進行している。耐用年数を過ぎたからといって、すぐに更新しなければならないわけではないが、老朽化した管路ほど災害に対して脆弱(ぜいじゃく)であり、発災時には重大な被害が起こりやすい。計画的な更新には莫大(ばくだい)な更新投資が必要であり、事業遂行のために技術職員の確保も必要となる。

日本は地震や台風、大雨による災害も多い。こうした自然災害にも耐えうるような強靭(きょうじん)な水道施設の建設が求められるが、これにも莫大な投資が必要である。

求められる広域化、官民連携の推進

このような困難な状況に立ち向かうには、広域化および官民連携を推進するほかない。日本の水道事業者数(上水道)は1263(2017年3月現在)で、このうち給水人口5万人未満のものが818と64.8%を占めている。これとは別に、計画給水人口が5000人を下回る簡易水道と呼ばれる水道事業者が707あり、結果として非常に多くの小規模零細事業体が存在している。水道事業は施設集約型の産業であり、規模の拡大に伴ってコストが下がり、効率が上昇する。人口減少が進む日本では、近隣の事業者同士で事業統合し、組織力を強化するしか生き残る方法はない。

事業統合=広域化の方向性は、近隣事業者との統合だけとは限らない。図4は水道事業および下水道事業のサービスの流れおよび事業の範囲を示したものである。水道事業の広域化には近隣事業者との統合以外に、水道用水供給と上水道の垂直統合、水道事業と他事業とのマルチユーティリティー化、水道事業と下水道事業との統合が考えられる。実際、日本では全国的に上下水道化が進められており、水道用水供給と上水道の垂直統合の事例もいくつか存在し、費用削減効果に大きな効果を上げた例も見られる。

一方、官民連携は人口減少とともに削減が続く水道事業の職員数を補完するだけではなく、事業に必要なマネジメント力を補うという意味がある。日本の水道事業は市町村によって運営されているため、そもそも事業者に人事権が与えられていない。また、市町村一般部局との人事ローテーションにより、水道事業の経営上の知識やノウハウが蓄積されにくい。民間企業のスピード感ある経営力、絶えず新しい技術を生み出す開発力は、将来の水道事業にとって欠かせない重要な経営資源である。官と民による対等なパートナーシップ関係の構築こそが、水道事業の危機に対する最善の解決策となりうるのである。

バナー写真=交換工事で取り出された老朽水道管(2016年12月24日、読売新聞/アフロ)

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  • [2018.10.04]

近畿大学経営学部教授。博士(経営学)。熊本県天草市出身。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。大阪府立産業開発研究所で嘱託研究員、近畿大学商経学部講師を経て13年4月より現職。専門は公益事業論。厚生労働省、国土交通省、多数の地方自治体で審議会委員を務めている。

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