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相次ぐスポーツ不祥事:東京五輪に向けてハラスメントの根絶を

高峰 修【Profile】

[2018.10.24]

日本ボクシング連盟の助成金不正使用、女子体操選手へのパワハラ、バスケットボール日本代表の買春など、アマチュアスポーツ界で不祥事が相次いでいる。体質改善を図るためにはどうしたらいいのか。

高まるハラスメントのリスク

2020年東京五輪パラリンピック(以下、東京2020)の開催を2年後に控えた現在、日本のスポーツ界は不祥事の嵐に襲われている。オリンピックやパラリンピックへの出場を視野に入れた強化選手指定や代表選手団への選考が始まっており、選考する側とされる側の権力関係はこれまで以上に強まっている。指導者は何としてでも競技者のパフォーマンスを高めたいであろうし、そこに倫理的な問題があっても競技者は拒否できない立場に追い込まれる。

また一般論として、さまざまなハラスメントは加害者と被害者の権力関係を背景に生じる。今後2年間、日本のスポーツ界においては暴力やパワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメントなどの問題が生じるリスクがこれまで以上に高まるだろう。

他方、一般社会におけるハラスメントに対する価値観、あるいは性的少数者など多様性をめぐる価値観は急激に変化している。しかし、各種競技団体の体制はそうした社会の変化に対応できる状況にはないようである。

アマ競技団体は「小規模事業者」

笹川スポーツ財団が2016年に行った中央競技団体現況調査によれば、調査に回答した中央競技団体62団体のうち正規雇用者数が0人の団体が11団体、5人未満が22団体、10人未満が14団体ある。75%は正規雇用者10人未満の組織ということになり、一般的な企業分類によれば中小企業者、あるいは小規模事業者に該当する。

また組織の年間収入に関しては、収入が1億円未満の団体が14団体と最も多く、全62団体の収入の中央値は3億5300万円である。中央競技団体が、国内業務にとどまらず国際競技会への選手団派遣など国際的な業務を分掌することも考えれば、組織としての十分な体制を整えているとは言い難い。こうした現状では、不祥事の根絶や予防に向けてよほど真剣に取り組まない限り、組織の対応は低調になるだろう。

獲得した五輪メダルが「スパルタ指導」を肯定

加えてスポーツ界には、以下のような構造的問題がある。

中央競技団体は競技者に対して代表選手決定権を持つ。また、指導者と競技者間にも権力関係は生じやすく、一般的に言われているような先輩後輩間の上下関係もある(権力関係)。

こうした関係において「勝利」に最上位の価値が置かれ、それ以外の価値観が排除されると、勝利に向けた不適切な指導や理不尽な要求が行われるようになる(勝利至上主義)。

競技者は人生の大半を競技にかけており、競技団体における集団凝集性(集団の一員となるように動機付ける度合い)は高くなる。そのような競技関係者の占める割合が高い組織においてはその社会的威信やイメージを守ることが優先され、方針に沿わない少数意見は排除される(集団主義)。

競技団体のガバナンス力が低いのは、マネジメント能力とは関係なく、選手時代の成績によって役員が選ばれ組織の決定がなされるからである(パフォーマンス主義)。

こうしたスポーツ界特有の体質を許す背景には、「スポーツはそういうもの」という諦めに近い「社会の容認」がある。これはある部分、1964年東京オリンピックの負の遺産と言えるかもしれない。戦後19年目に開催されたこの大会は、敗戦国日本が戦後の復興を目に見える形で世界に示したり、勝戦国に勝つことによって再びプライドを取り戻したりする場となった。スパルタ指導によって獲得したメダルはそのような指導法を肯定し、日本における典型的なコーチング理論として社会に浸透していくことになった。

ただしこの点については変化の兆しもみられる。東京2020の開催を契機として、最近ではスポーツ界の運営体制が否定的に報道され始めている。しかし、そうした報道も次々に生じる個別事例における批判にとどまっており、スポーツ界全体にわたる構造的な問題として捉え、その根本問題に焦点を当てた議論には至っていない。

アマチュアスポーツ界の主な不祥事や騒動(2018年)

1月 カヌー 男子選手が昨年9月の日本選手権でライバル選手の飲料用ボトルに禁止薬物を混入したことが発覚、除名処分に。
2月 スケート 平昌五輪で、スピードスケート・ショートトラックの男子選手がドーピング陽性反応。資格停止処分で出場できず。
4月 レスリング 日本レスリング協会の強化本部長が、女子金メダリストへのパワハラで辞任。
バドミントン 強豪実業団の元監督が女子選手の賞金の私的流用で告発される。
5月 水泳 競泳の男子トップ選手が3月のドーピング検査で陽性反応だったことが判明。資格停止処分でジャカルタ・アジア大会の代表を取り消される。
アメリカン・フットボール 日大選手が関学大との定期戦で危険な反則タックルを行う。指示した監督とコーチが7月に懲戒処分に。
8月 ボクシング 日本ボクシング連盟の助成金不正使用疑惑で、会長と理事全員が辞任。
剣道 居合道の昇段審査を巡って不正な金銭授受の事実が判明。
体操 女子トップ選手への指導中の暴力行為で男性コーチが登録抹消処分に。
バスケットボール ジャカルタ・アジア大会開催中に男子4選手が買春し、日本選手団の代表認定を取り消され、1年間の出場停止処分に。

外部評価でガバナンス力の向上を

スポーツ界のこうした特殊性や構造的問題を競技団体自体が認識し、真摯(しんし)に向き合うことを期待したいが、現実的には難しいかもしれない。組織基盤が脆弱(ぜいじゃく)な上に、東京2020開催に向けた各種調整・手配業務などに忙殺されているのが現状だからである。しかしこの状況を放置するわけにはいかない。今後倫理的問題が発生するリスクはさらに高まると思われ、何らかの被害を受ける競技者がこれ以上発生するのを避けなければならない。

また無事に東京2020を終えることができたとしても、それをピークに日本のスポーツは衰退期に入るかもしれず、そうした事態を避けるには競技団体のガバナンス力の向上は必須の条件であろう。東京で2回目のオリンピック大会を開催したレガシーが競技施設やインフラの再整備だけでは、何とも物悲しい。倫理的問題への対処も含めた組織のガバナンス力の向上を、オリンピック・レガシーの一項目として後世に残すべきである。

競技団体のガバナンス力を向上させる一つの方策として、独立した外部の評価認証機関の創設が考えられる。もはやスポーツ界における自浄作用を期待できないことも理由の一つであるが、社会を見渡してみると、組織を評価したり業界の諸活動を監視したりするシステムはすでに構築されている。例えば、自由で公正な経済活動を保障するために公正取引委員会が行政機関として存在する。また全国の国公私立大学は、文部科学大臣の認証を受けた外部独立機関による評価認証を7年以内に受けることが学校教育法において定められている。つまり、組織を評価認証し業界を監視するシステムは現代社会においては標準的なものであり、このシステムのスポーツ界への導入をそれほど消極的に捉える必要はない。

こうした機関の創設に向けては、いくつかの道筋があるだろう。例えばスポーツ庁では2017年度に「スポーツ界のコンプライアンス強化事業」として現況調査を行ったり、組織運営に係る統一的な評価指標の開発を行ったりしている。こうした事業の成果は、将来的な機関創設に向けた大きな財産になることが期待される。ただし、新たな評価認証機関を行政機関として創設すべきか否かについては議論が分かれるところだろう。あくまでもスポーツ界の自治を尊重するのであれば、行政機関としてではなく、大学の認証評価機関のように民間の組織として文部科学大臣から認証を受けた機関がその役割を担うという方法もある。

市民組織が競技団体を監視する例も

別の方法としては、市民オンブズマン的な活動を起点とするシステム構築がある。韓国では、中学生の女子水泳競技者の学習権を保障するために体育市民連盟という組織が2002年に設立され、大韓体育会などのスポーツ統括組織の活動を監視評価している。現在ではその活動が社会的に評価され、韓国のスポーツ政策決定に影響力を持っている。

カナダでは過去に指導者から性的虐待を受けたアイスホッケー競技者が、スポーツ界において性的虐待を根絶するためのプログラムを展開している。Respect in Sportという名称のそのプログラムでは、指導者と保護者向けの教育啓発映像をweb上で配信し、プログラム修了者・団体にはRespect in Sportのロゴの使用を認めている。2011年の時点で、ホッケー・カナダは全国のアイスホッケーのコーチにRespect in Sportを修了するよう義務付けている。

東京2020開催をきっかけに、こうした市民オンブズマン的な活動を発展させ、評価認証機能を持たせるのはどうだろう。その実現は、スポーツ界だけでなく日本社会の成熟度を国内外に示すことになるはずだ。

バナー写真:臨時理事会後、報道陣の取材に応じる日本ボクシング連盟の山根明会長=2018年8月7日、大阪市淀川区(時事)

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  • [2018.10.24]

明治大学政治経済学部教授。研究テーマは「スポーツ環境におけるセクシュアルハラスメントや暴力の問題」について。1994年、横浜国立大学大学院教育学研究科修士課程修了。99年、中京大学大学院体育学研究科博士課程修了。博士(体育学)。明治大学政治経済学部准教授を経て、2015年より現職。主な共著に『スポーツ教養入門』(岩波書店、2010年)、『入門スポーツガバナンス』(東洋経済新報社、2014年)。

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