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「少子高齢化」から「無子高齢化」へ:専業主婦依存の呪縛から逃れられない日本

前田 正子【Profile】

[2018.12.05]

少子化は進む一方なのに待機児童問題が解消されないのはなぜなのか。性別役割分業によるかつての成功体験に縛られ、子育てを「個人の責任」「母親の責任」とする日本社会は、少子高齢化どころか無子高齢化に突入すると警鐘を鳴らす。

世界の少子高齢化の先頭をひた走る日本だが、出生率の低下が社会的な問題として認識され、政府が本格的な少子化対策に取り組み始めたのは、文部、厚生、労働、建設の4大臣合意によって1994年に策定された「エンゼルプラン」からだ。その後、どの政権も保育園の整備・拡充を掲げ、自治体も努力を重ねているが、保育園に入れない待機児童はなかなかゼロにならない。

その一方、少子化の進展は急速で、地方では保育園の定員割れが広がり、保育園の閉鎖も始まっている。ここ15年の間、毎年500前後の小中高校が閉校になっているのだ。出生数は2016年に初めて100万人を下回り、17年には94.6万人まで減った。18年は90万人を下回るのではないかとささやかれている。それにもかかわらず、待機児童がゼロにならないのはなぜだろうか。実は待機児童は一部の地域に集中している。この背景には、いくつかの複合的な要因がある。

妻の収入が不可欠な時代

第1に人手不足の中で女性の働く場が広がり、出産後も就労を継続する女性の増加傾向がみられる。また、いったん出産で退職しても、子どもが小さい間に再就職したいと考える人が増えていることがある。

第2に1990年代に比べ、明らかに若い世代の所得が減っている。「収入が伸びている」と言われるが、それは所得減少の底を打ったここ数年のことにすぎず、1990年代の水準には及ばない。子どものいる世帯にとって、妻の収入は不可欠となっている。

第3に晩婚化・晩産化が進み、子どもが大きくなるまで待つと、親の年齢も30代後半から40代となり、再就職するのが難しくなる年齢に近づいてしまう。つまり、子どもが大きくなるまで待てないのだ。それが先に挙げた早期再就職の流れと結びついている。

保育園ができると、預けたい人が増える

第4に保育園は作れば作っただけ新たな需要が掘り起こされる。近くに保育園ができれば、そこに子どもを預けて働く利便性が増す。そうすると今までどうするか迷っていた人も「預けて働きたい」となる。世の中は人手不足で、都市部であれば子どもの預け先さえ見つかれば仕事はいくらでもあるからだ。

第5に仕事と人口の偏在もある。地方だけでなく都会の周辺部でも若い世代が減少する一方で、通勤に便利な都心部に若い世代が集中して住みだしている。日本全国が人口減少に直面する中で、首都圏、特に東京23区は若い世代の流入により人口が増えている。このため、東京の合計特殊出生率は全国で最低レベルであるにもかかわらず、児童数は増えている。

さらに人口が減少している地域でもその減り方はいびつである。例えば関西全域、大阪府でも人口は減少しているが、大阪市だけはタワーマンションの建設ラッシュで人口は増えている。しかも都心部は地価が高く、保育所を作りたくても作れない。言ってみれば野放図な都市開発が待機児童問題を悪化させているのだ。

第6に保育士不足がある。保育士が不足しているのは、女性の仕事の多い都市部である。ということは、保育士という職業が他の仕事に比べて魅力ややりがいがあり、待遇などが良くないと、わざわざ保育士として働くことを選ばないことになる。ところが保育士の処遇は雇用者として働く女性の平均収入と比べて低い。さらに子どものけがや親との関係、人手不足による恒常的な長時間労働など就労条件はあまり良くない。最近は保育士に対する給与加算などで待遇の改善が図られているが、一部の法人では理事長や園長などの経営陣がその加算分を独り占めにし、保育士に配分していない事例もある。

また待機児童が多く、財政力のある都会の自治体が人件費の加算や住居費の補助までして全国から保育士を集めている。そのことがさらに地方から若い女性を奪って都市に集中させ、人口バランスを崩していることも忘れてはならない。

第7に保育士が長時間労働になりやすいのは、親がそれだけ長時間働いている、ということがある。最近は「女性の活躍」「働き方改革」と言われているが、結局、片働き時代の男性の働き方(専業主婦の妻が家事育児をすべて担う)が標準のままである。

子育てしながら働ける条件に恵まれた親(男女ともに)は、まだごく一部である。

専業主婦のお陰で社会保障コストを抑制できる?

実は保育園が日本でフルタイムの雇用者の勤務にも対応できるように整備され始めたのは、エンゼルプラン以降でしかない。それまでは、保育園が午後5時閉所など、フルタイムで働く人にとってはあまりに非現実的なサービスだった。保育園の後のベビーシッター(二重保育)や祖父母の援助など保育園以外の育児資源を確保できる人しか、子どもを産んで働き続けることは不可能だった。

延長保育や病児保育などが徐々に広がり、保育園に子どもを預ければなんとかフルタイムの仕事を続けられるようになったのは、2000年代に入ってからである。なぜ、90年代まで保育園の整備が進んでいなかったのだろうか。

その背景には日本が性別分業・片働き型社会で成長を遂げてきた成功体験がある。エンゼルプランのわずか15年前の1979年、自民党から「日本型福祉社会」という研究叢書(そうしょ)が出されている。そこには専業主婦が介護や育児を担うことにより、日本の税や社会保障費用を低く抑えられているということや、「ポストの数ほど保育園を作れば国が破産する」とまで書かれている。

そのたった10年後の1989年の出生率は、「ひのえうま」の迷信によって出生率が極端に低かった1966年(1.58)を下回る1.57まで落ち込み、「1.57ショック」と騒がれた。だが、かつての成功体験に縛られ、片働き社会の価値観を引きずったままの日本では、働き方改革は進まなかった。出生率の低下はそれ以降も続き、2005年には史上最低の1.26を記録した。その後は若干回復傾向にあるが、出生数減少にブレーキをかけるには至っていない。30年たっても少子化対策はいつも小出しで、抜本的な対策は講じられないままである。

待機児童問題を保育園だけで解決しようとするのには無理がある。育児休業制度や働き方の改革などの子育て環境、そして社会全体の仕組みを変える必要がある。

子どもを育む寛容性を失った社会が行き着く先

少子化は進む一方なのに、待機児童問題は解決できないままだ。しかも、政府は2019年度からの保育の無償化を打ち出している。それは保育の需要をさらに掘り起こし、待機児童を増やすことになるだろう。選挙のアピールのために、小手先で細切れの施策を打ち出したことがさらに事態を悪化させる可能性がある。また国の基準を満たさない認可外保育所も無償化の対象とするなど、子どもの安全や命を脅かしかねない事態も考えられる(保育所での子どもの死亡事故は続いている)。

日本の少子化が急速に進んだ背景には、人口の多かった団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアの未婚率が上がったことがある。それは企業が生き残りのために、正社員採用を絞り、若者の非正規化を進めたために起こったのだ。不安定な雇用や低い収入しか得られなかった若者が、どうやって安心して子育てできるだろうか。

最近は人手不足で若者の就職状況が良く、すっかり忘れられているが、日本の失われた20年は若者を犠牲にして、少子化を一層進めた時代でもあったのだ。安定した職を得て、子どもを持ちたいと望む人が、安心して結婚・出産できる環境を一日も早く整備しなくてはならない。

子どもを「社会の子」として捉えず、「子育ては個人の責任」、ひいては「母親の責任」とし、子どもを育む寛容性を失った日本は、少子高齢化どころか、無子高齢化へと突き進んでいる。このままでは、誰が日本の子育て支援施策の司令塔か分からぬまま、待機児童対策はおろか、日本の未来さえ見えない時代が始まりつつある。

バナー写真 : PIXTA

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  • [2018.12.05]

甲南大学マネジメント創造学部教授。早稲田大学教育学部卒。松下政経塾を経て、1992年から2年間、米・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に子連れ留学。慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程修了。1994年~2003年までライフデザイン研究所(現第一生命経済研究所)で、女性の就労や保育政策を研究。第2子の育児休業明けの2003年から07年まで横浜市副市長(医療・福祉・教育担当)。2007年~10年公益財団法人横浜市国際交流協会理事長。2010年より現職。主な著書に『大卒無業女性の憂鬱』(新泉社)、『保育園問題』(中公新書)、『無子高齢化—出生数ゼロの恐怖—』(岩波書店)。

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