米中競争の行方と日本の役割:過度の対決に向かわせない外交努力を

政治・外交

アメリカの中国に対する認識は悪化の一途をたどっており、米中関係の先行きは予断を許さない。筆者は、アメリカが真剣に中国を巡る問題に向き合うことは日本にとって望ましいとする一方、過度の米中対決はアジアの経済・社会に深刻な影響を与えかねないと指摘する。

消えた「対中配慮」の姿勢

12月1日、ブエノスアイレスG20に合わせて開催された米中首脳会談は決裂を回避し、米中それぞれが外交的な勝利を宣言する結末となった。2月末まで90日間行われる交渉で合意点を拡大できるかが鍵となるが、米中貿易戦争はつかの間の小休止を得ることになった。アメリカによる対中関税の「第4弾」は回避され、「第3弾」に含まれていた追加関税(19年1月から)の発動も当面猶予された。

両国は構造的な対立局面に入っており、アメリカは中国との競争を前面に据えた政策を修正しないとみる向きが強い。会談直後のタイミングでのファーウェイ最高幹部の逮捕も、そのような見通しに説得力を持たせている。つまり、小休止は休戦に過ぎないということだが、その背景にはアメリカの中国認識の悪化も大きい。

中間選挙、アジア歴訪を前にマイク・ペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説(18年10月4日)は、多面にわたり中国の行動を批判しており、今年に入り(特に初夏にかけて)強硬化の一途をたどったアメリカの対中認識の悪化を総括するような内容であった。

ペンス氏は、「中国は政府を挙げて、政治・経済・軍事的な手段、さらにはプロパガンダまで活用して米国に対する影響力を広げ、利益をかすめ取ろうとしています」と述べた上で、中国が投げかける問題は貿易赤字だけでは決してなく、アメリカからの技術窃取、安全保障、信仰の自由、さらには民主主義や国際秩序のあり方への挑戦であると、逐一具体的な例をあげて、40分の演説時間の多くを割いて中国を叩き続けたのである。

その3日前、国慶節にあわせ中国大使館が催したイベントでも、マット・ポッティンジャーNSC上級部長(アジア担当)が中国側を挑発していた。「世界最古の民主主義国家として、建国の父たちが築き上げたアメリカの歴史と原則の上に、中国とのチャンピオンシップで競争し続けていく適応力を持っていることを私たちは確信しています」と述べた。従来のように対中配慮の言辞でごまかさず、米中が競争段階にはいっていることを正面から認めるべきとしたのだ。

経済も政治も対中警戒ムードで「統合」

アメリカの対中政策、また背景にある対中認識が急展開したわけではない。2018年の春以降、多くの報道は米中の「貿易戦争」が深刻なものになりつつあると報道した(3月に通商法301条に基づく知的財産権侵害への制裁が公表され、6月に米中交渉が決裂したことを受け、7月に関税「第一弾」が発動された)。

しかし実のところ、さらに遡り、17年の年の瀬を迎えるころから、アメリカでは中国認識に変化の兆しがみられていた。年末の国家安全保障戦略も、中国をロシアと並ぶアメリカの競争相手と明確に位置づけたが、それだけではない。たとえば、中国がロシアとともに民主化途上にある国の政治や世論等に働きかけていることへの警戒(シャープ・パワー論)や、AIや量子コンピューター、5G等の次世代技術競争において米中が肉薄しつつあることへの焦りも、この時期から看取できる。

もとより、これらは分野ごとに形成された情勢判断であったが、徐々にある種の「統合」がみられていく。たとえば、アメリカ第一を唱える経済ナショナリストの代表格ピーター・ナバロ氏は18年2月から3月にかけて再び力を取り戻したが、ホワイトハウスにある彼の部署は6月に中国の技術窃取や不公正な行動をつまびらかにした報告書を公表。あまたに付けけられた脚注の多くは、安全保障政策コミュニティがこれまで蓄積したものだった。他方、安全保障専門家たちも、経済摩擦による雰囲気の悪化を利用したところがある。6月1日にマティス国防長官は南シナ海における人工島の軍事化を批判し、また8月に成立した国防授権法も中国政策の総合的な見直しを提起した(1261条など)。

連邦議会も中国への厳しい政策で超党派的なまとまりを持つにいたった。中国系通信企業ZTEへの警戒心は夏の連邦議会でも表出し、それは政府による規制解除への党派を超えた反発に表れていた。18年夏には、ウイグルにおける思想改造を目的とした収容所の設置が議会とメディアの大きな関心を集めることにもなる。中間選挙後の議会を見渡しても、共和党、民主党ともに中国にソフトな路線を採ろうとする動機は極めて低い。

「関与」路線は壊滅

1972年以降の米中関係において、アメリカの対中政策の根幹には、政治体制が異なるとしても、中国のパワーが国際秩序に意義ある効果をもたらすという期待と、将来的に政治体制の変化もあり得るという期待があった。それゆえ、中国に関与することを正当化できた。特定のビジネス界や政治家・官僚が関与路線の守護者であったことも事実だ。人権問題で中国を批判する議会やNGOの動きを、(米中関係の)ノイズに過ぎず、関係管理すればよいと彼らは言い放っていた。

しかし、オバマ政権後期、特に2014、15年を通じて中国への期待は縮減し、関与路線は厳しい立場に置かれたが、18年にはこれが壊滅しつつある。関与派にくみしていた多くの元高官、中国専門家も、中国が国内外(特に国外)で行っている既存の秩序や各国社会への干渉に首を傾げ、批判に転じるようになった。

もちろん、関与の考えが完全に消え去ったとは言えず、サンクコスト(埋没費用)や代替する調達先・販売先が見い出しにくいビジネス界の声は、引き続き関与勢力の源泉となろう。またアカデミズムにも、長期的に展望した時、「トゥキディデスの罠」(権力交代に伴う覇権国と挑戦国とのあいだの戦争確率が高いとする考え方)を避けるためには米中で互いの共存を図る合意を形成していく必要があると、宥和的な議論も根強くある(ハーバード大学教授のグラム・アリソン氏が代表的だ)。

しかし、アメリカにおける対中認識の悪化は、期待に基づく関与という40年間にわたり続いてきた対中政策の主軸を廃れさせた。オバマ政権は、確かに中国の台頭がもたらす安全保障秩序への問題は気付いたが、米軍や政権外からの警戒論に対して、政権は関与と(長期的な)備えを慎重にバランスさせていたところがある。

中国がアメリカの覇権、または構造的権力に迫るにはまだ時間の余裕があるとの見通しもあり、外交的手段を通じた中国との対話をオバマ政権はまずは優先させる。それは地域のいら立ちを誘い、アジア・リバランス政策への評価はきわめて悪化した。トランプ政権になり、中国のパワー伸長を待ち構えるにそれほどの時間的余裕がないこと、そして中国の挑戦は民主主義国が作り上げてきた世界秩序の足下を揺さぶるほど大きなものに既になっているという認識で、政策の軸そのものが変化することになった。

出口が見えない対中強硬論

しかし、今後の展開は未だ読みづらい。たとえば、政権内外の対中強硬論者は便宜的に連携しているが、アメリカ第1を唱える経済ナショナリズム、米主導秩序の維持を優先させる安全保障派、信仰の自由など人権派のそれぞれは、本来異なるゴールを持つ。

トランプ政権の特徴は、特定の指令塔が継続して主導するのではなく、政策形成の潮目が変わることであり、大統領が頻繁に政策形成に介入することにある。トランプ大統領個人の対中認識は未だに予見しづらく、経済交渉を重視している一方で、ときに中国の米社会への政治干渉を批判し、他方で中露との軍縮の必要を語ったりする。

2020年の大統領選挙まで、小出しの成果を得る形で米中交渉が断続的に続き、経済面を中心とする取り引きが宣伝される可能性はあろう。安全保障派はその影で中国への備えを進めたいだろうが、国防予算の面で十分に目的を達成できるかは不確実だ。

さらに、対中強硬論の出口も見えてこない。ペンス副大統領演説は10月4日も、11月16日(APEC)も、中国が変化すればインド太平洋に温かく迎えると説くが、果たしてそのための条件は経済面での貿易赤字削減、不公正な慣行(技術移転を含む)の是正に留まるのか、政治・安全保障、人権まで含むのか。

他方で、米政権には中国を完全にサプライチェーンから切り離すべきとの議論もあるという。事実、留学生や投資への制限はすでに始まっている。アメリカが単に中国への交渉力を高めていくことを目的とするのか、それとも中国との別離を決断するのか。後者はすでに米中競争というよりは、米中対決というべき状況だろう。

中国からの投資はアメリカ全土に入っており、中国市場の魅力も大きいなかで、対決へのコンセンサスまで米社会が得るとは考えづらいが、パワーが肉薄する中で、中国への焦りが時に極端な政策的帰結に繋がることは十分あり得る。しかし同時に、トランプ大統領による緩慢な交渉の継続というシナリオもあり得るため、依然としてシナリオの蓋然性を語る段階ではないだろう。

中国との競争に加え「包摂と説得」を

アメリカが中国の投げかける問題の深刻さに気づいたことは、日本にとって望ましいことだ。過去10年を振り返れば、日本はアメリカに先行する形で中国の台頭に対応できる地域秩序作りを主導しており、アメリカのアジア外交をけん引する役割も担ってきた。アメリカがインド太平洋のもつ戦略性とそれへの挑戦に取り組むことは日本と地域の利益になり得る。

しかし、過度な米中対決により経済社会活動に深刻な影響が生まれることは、この地域の利益ではない。ルールに則った秩序を根付かせていくために必要なことは、中国との競争に加え包摂性と説得であり、変化への期待を捨てないよう、日本は繰り返し訴えていくべきであろう。

バナー写真:G20首脳会議に合わせて行われた米中首脳会談で向き合うトランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AFP/アフロ)

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