日本語が通じない?日本人

SNS上で起きる日本語のすれ違い:「言葉が通じない」のはどんな人?

社会

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で、やりとりが全くかみ合わないことがある。同じ言語を使用しながら、「話の通じない人がいる」と感じてしまうのはなぜか? どういう人に対して「通じない」と思うのか? 国語辞典編さん者の飯間浩明氏に聞いた。

ツイッターなどで日本語ネイティブ同士なのに、まるで宇宙人と会話しているような違和感を持ったことがある人は多いのではないだろうか。

例えば、耳新しい単語が出てきた場合、その意味を調べる前に「知らない」という不満を発言者にぶつけたり、文脈を全く無視した見当違いの返信を投げつけたり……。そんな不可解なことをしているのはこういう人たちなのかもしれない。

この「言葉が通じない人」の特徴を4つに分類したツイートは、あまりにも的を得ていたことで話題になった。ツイートの主は飯間浩明氏。国語辞典編さん者という「言葉のプロ」だ。

「言葉が通じない人」の実例

さて、ここまでの文章で「的を『得る』は誤用で、正しくは的を『射る』だ。プロのライターなのに間違っている!」と感じたあなたは、もしかしたら「言葉が通じない人」になりかけているかもしれない。なぜなら、飯間氏が「言葉が通じない人」の存在に気がついたきっかけとなった出来事の一つが、まさにこの「的を得る」に関するやり取りだったからだ。

「的を射る」という慣用句がある。これは実は「的を得る」でも正解なのだ。飯間氏が編さんに携わる三省堂国語辞典では、1980年代の版で「的を射る」の説明に「〔あやまって〕的を得る」と記述した。このことがきっかけとなり、世間に「『的を得る』誤用説」が広まってしまった。しかし、再検討の結果、「得る」には「うまく捉える」という意味があり、「『的を得る』誤用説」そのものが成立しないという結論になった。2014年発行の第7版では、「得る」の意味の説明を詳しくし、「的を得る」の誤用扱いをやめた。

この経緯について、飯間氏はたびたびツイッターで触れ、これまでの記述を撤回、おわびしていた。ところが、読者の反応の中には「本来誤っている言い方を容認することには反対だ」という意見が根強いという。

「誤用説を広めた当事者が、『本来誤りではなかった』と、経緯を説明しておわびしていることがなかなか理解されないんです。ツイッターの短文で意を尽くせない面もありますが、前後の関連するツイートも合わせて読んでくれればいいのに、と思います。『かみ合わない感じ』はありますね」

ここで起こっている行き違いは、飯間氏による分類「ことばが通じない人(2')文脈的意味を理解しない」の例に当たる。

こうした行き違いは、SNS上だけでなく現実生活でも起こりうる。飯間氏は大学で講義をもち、例題として「『全然』の使い方」をよく取り上げている。「全然」は「〜ない」という打ち消しの助動詞とセットで使うものだと教えられることが多い。筆者も、日常生活でつい「全然オーケー」などと言ってしまい、そのたびに後ろめたい思いをしていたが……。

「実はそうなったのは戦後のことで、明治時代には打ち消しではない言葉にも用いていました。夏目漱石や芥川龍之介の小説にも普通に『全然悪いです』『全然支配されている』などと出てきていて、否定の意味を持たない『全く』『すっかり』と同義語なんです。今は日本語学の分野でも、『全然』の下は、本来は打ち消し」というのはデマで、むしろ戦後に一般化した用法というのが通説になっています」

講義でこう説明しても、講義後のアンケートの回答を読むと、結構な数の学生がなぜか「『全然』は『〜ない』とセットで使うものだということがわかりました」と書いてくるという。飯間氏は「どこをどう聞いていたらこうなるんだと、がく然とすることが何度もありました」と話す。

このような学生は、飯間氏による分類では「ことばが通じない人 (2)語句の意味の理解が不正確」、つまり「言ってないことが言ったことになる」例に当たる。

ネガティブなツイートをしてしまう理由

いまや、言語コミュニケーションの一大プラットフォームとして無視できないのがSNSだ。そこでの言語の消費のされ方について、言葉の守り番である辞書をつくる人々はどう感じているのだろう。

飯間氏も、日本語や辞書のスポークスマンとしてツイッターで発信しているが、書き込みが秒刻みで流れていってしまうという性質上、論議のしづらさを感じるという。また、ハッシュタグ(単語の頭に「#」をつけることで、フォローの有無や時間を超えて話題を共有できるシステム。強調させたい場合に使うことが多い)やタグ付けといった、それぞれのプラットフォームに合わせた作法や用語を使い、インパクトを「狙って」発言しなくてはただの空砲になってしまうことが多く、表現の方法に悩むことも多いとか。

言葉について取り上げた発言はSNS上に多いが、とりわけ、間違いを指摘するようなものは拡散されやすいのだそう。

「手っ取り早くバズらせる(爆発的に拡散させる)となると、批判めいたものになってしまいがちです。たとえば、ゴシップを煽るように『テレビ番組でタレントの○○が▲▲と言っていたけれど、あれは正確には××である。日本語もロクに使えない奴がテレビに出ているのはけしからん』とかツイートすればリツイート数は稼げるでしょう。私だって、自分の発言を広めるため、人を批判しようと思えばいくらでもできます。そういうことはしませんが」

バズらせたいという思いが、この種の批判的なツイートをさせてしまい、多くのリツイートで拡散されてしまう。また、日本語のある特性がネガティブなツイートを書かせてしまう面もあると飯間氏は考えている。

「実は、現状を肯定する言葉より、マイナスを意味する言葉のほうが多いんです。例えば、プラスの気持ちを表す形容詞は〈うれしい〉〈楽しい〉〈面白い〉〈ありがたい〉、くらいなのに比べ、マイナスの気持ちを表す形容詞は〈つらい〉〈悲しい〉〈寂しい〉〈切ない〉〈わびしい〉〈苦しい〉〈憎い〉〈許しがたい〉〈いまいましい〉〈いら立たしい〉〈うらやましい〉〈ねたましい〉〈悔しい〉〈怖い〉〈恐ろしい〉〈恥ずかしい〉…、とバリエーションが圧倒的です。つまり、形容詞がたくさんあるから書きやすい。またネガティブな形容詞が多いというのは、人間の習性として、不満がある時こそ口に出してしまう、口に出す必要があるということなんだと思います」

確かに、賛同や肯定の意を表したいときは、「いいね」ボタンを押していたりして、いちいち書き込んだりはしない。「うれしい」「楽しい」と書くよりも、批判や不満をバリエーションのある形容詞を入れて書いたほうが何か言った気になりそうだ。

100%理解し合うことは無理だが…

否定的、批判的なツイートが拡散されて炎上につながることもある。文化庁が2017年、全国の16歳以上の男女、約3500人を対象に行った「国語に関する世論調査」により6割から回答を得たところ、「炎上」を目撃したら自分もそうした書き込みや拡散を「だいたいすると思う」「たまにすると思う」という人は2.8%だった。

「私の体感というか、リツイート数や『いいね』の数からの印象では、数%、せいぜい1割未満が、見当違いな意見や罵倒の類いですね。いちいち相手にすべきではないし、まともに相手をしていたら身が持ちません。ネットで言葉を扱うのに必要なのは『スルーする力』です」

うまくスルーして、気にしないことが大事−−その思いから、冒頭の「言葉が通じない人」の分類をしたツイートも生まれているのだが、飯間氏はこうも付け加える。

「それでも一定数いる『言葉が通じない人たち』とうまく折り合いつつ、100%理解し合うことは無理だと肝に銘じ、分かってもらう努力はし続けなくてはいけないと思っています」

文・オカヂマカオリ

飯間浩明(いいま・ひろあき) 国語辞典編さん者、『三省堂国語辞典』編集委員。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院博士課程単位取得。主な著書に『辞書を編む』(光文社新書)、『辞書編纂者の、日本語を使いこなす技術』(PHP新書)、『小説の言葉尻をとらえてみた』(光文社新書)、『国語辞典のゆくえ』(NHKシリーズ)などがある

バナー写真:(Graphs/PIXTA)

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