「一汁三菜」の配膳・食べ順・器の取り上げ方:和食文化は“ご飯ファースト”が大前提
Guideto Japan
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理にかなった配膳のルール
ユネスコ無形文化遺産に登録される和食は「一汁三菜」が基本。主食のご飯、みそ汁などの汁物、魚などの主菜、そして野菜中心の副菜2種で構成される。かつては日常の食卓に大皿料理はなく、「銘々膳」といって、食べる人それぞれに一汁三菜が載った膳を配った。

料理の配膳を描いた浮世絵。歌川広重・三代歌川豊国「双筆五十三次 平塚」1854年(国立国会図書館所蔵)
和食の配膳にはしきたりがある。多数派の右利きが食べやすいよう、合理的な理由があるので説明したい。
まず、食べる時に持ち上げる椀(わん)は手前に配置する。飯椀は左手で上げ下げしやすいよう左側。こぼすと被害甚大な汁物の椀は、リスクを減らすため利き手の右側に置く。なお、ざるそばと漬けつゆ、ケーキと紅茶など、和食に限らず「液体は右側」が原則である。
次に、奥側のおかずゾーン。主菜は頻繁に箸をつけるので、利き手に近い右側。副菜は中央から左に配置。ご飯のお供の漬物は飯椀の近くが好ましい。これらは原則なので、彩りなどを考慮してアレンジすることもある。
そして、食事に欠かせない箸は料理より手前。先端を左向きに置くのがしきたりなのは、右利きが持ちやすいのはもちろん、「天子南面ス」という古代中国の思想にも由来する。南を向く玉座から見て左は、日が昇り、縁起の良い方角とされた東。その東に向けて、太陽の生命力を取り込むという考えが元になり、どんな向きで食事をしても「箸は左向き」となった。このほか、主役のご飯は左に配置し、魚は頭を左に向けて盛り付けるのも、この「左上位」の原則の影響とされる。

切り身の魚は身幅が広い方を左に、皮を奥側に向けるのが基本。なお、漬物は三菜に含まれない(PIXTA)
木製テーブルウェアの独自文化
汁物は器を持ち上げ、直接口を付ける。この世界的に珍しい食事作法は、軽くて熱を伝えにくい木製の椀を常用することで定着した。江戸時代には漆でコーティングする技術が普及し、耐水性や口当たりが向上。便利な漆塗りは箸にも用いられた。
伝統的な和食であれば、箸で割いたりほぐしたりして、どんな料理でも食べられる。ナイフとフォークが必要な分厚い肉はなく、硬い食材も一口サイズに切ったり柔らかく煮たりと、箸で食べやすく調理を工夫する。ハード面では漆器が発展したので、汁物にさじやレンゲを併用しない。食事が箸一膳で事足りるのは、世界人口の約3割を占める箸食文化圏で唯一、和食だけである。

英語では「Japan」とも呼ばれる通り、漆器は日本が誇る伝統工芸(PIXTA)
なお、汁椀の取り上げ方にも作法がある。右側にある汁椀を左手で取るのは危なっかしいので、両手を使うこと。箸を取り上げるのは、椀を左手でしっかり持ってから。椀を置く時も、先に箸を置いて両手を使う。ただし、この所作を繰り返すと、食事に時間がかかってしまう。食べ始めたら、箸を持ったまま飯椀と汁椀を持ち替えられる略式作法で構わない。
【椀の取り上げ方】
- 右手で椀を取り、左手で底を支える
- 右手を離して、箸を取り上げる
- 椀を持った左手の中指を浮かせ、隙間に箸を挟み込む
- 右手を箸頭に滑らせて下にし、箸を持ち直す
- 左手から箸を離す
※食卓に戻す時は逆の手順。最後は椀を両手で置き、左手、右手の順に離す
【椀の持ち替え方(略式)】
- 右手の薬指と小指で箸を握り込む。箸先は自分の方に向けること
- 左手に持った椀に、右手の親指・人差し指・中指を添えて卓上に置く
- 別の椀を両手で取り上げ、左手で底を支えたら右手を離す
- 椀を持った左手の中指を浮かせ、隙間に箸を挟み込んで持ち直す
- 左手から箸を離す
おかずはご飯の引き立て役
「いただきます」をしたら、まず汁物を箸で混ぜながら口にする。口を潤しつつ味覚を整えるためだが、箸に米粒がくっ付きにくくなる利点もある。汁だけを飲み、ご飯を挟んだら汁物の具を食べ、再びご飯、そして主菜、またご飯…といった順番で、味の濃淡を楽しむ。
世界標準のマナーは一品ずつ食べ進めるものだが、和食では「一丁食い」というタブーとされ、おかずの間にご飯を挟むのが原則。なぜなら、「ご飯をいかにおいしく食べるか」を第一に考えた「口中調味」が前提だから。つまり、主役のご飯とペアリングするよう、脇役たちの味を調えるのだ。その伝統が元になり、子どもの食育では、主食と主菜、副菜を交互に口に運ぶ「三角食べ」を指導する。

茶懐石も一汁三菜だが、メニューは決まった順番に供される。飯(いい)、汁、刺し身や酢の物といった向付(むこうづけ)に続き、吸い物の椀盛、魚料理の順(PIXTA)
紀元前から稲を作り、収穫しては神にささげてきた日本人にとって、米は単なる食糧にとどまらない。「米一粒に七人の神様がいる」と言い慣わし、実りをもたらす水、土、太陽、雲、風、虫、作り手をたたえる。その言葉を子どもに言い聞かせ、天地人に感謝する心を養う。
残さずおいしくいただくことが、米の神への感謝の証し。口中調味を意識すれば、さまざまな味の余韻で飽きることなくご飯が進み、おかわりまでしたくなるだろう。

日本では古来、田植え前から神様に豊作を願い、収穫期には初穂を供えて感謝してきた。神社に納める祈祷料を「初穂料」と呼ぶのは、その名残(PIXTA)
あらたまった席では、箸の持ち方から椀の蓋の開け閉めまで、終始作法を意識するだろう。どの料理にしようかと箸を宙に舞わせる「迷い箸」や、箸を付けた料理を器に戻す「移り箸」など、数えきれない箸遣いのタブーにも注意が必要だ。
和食は独自の作法が多いものの、料理を粗末に扱う印象を与えず、食卓を不快にしない心がけは、世界に共通するテーブルマナーの本義。作法に則った食べ方は、料理の味を最大限に引き出すため。ひいては、最後までおいしくいただくことで、米の神様に感謝を示す礼儀である。
監修:柴崎直人(SHIBAZAKI Naoto)
岐阜大学大学院准教授。心理学の視点で捉えたマナー教育体系の研究を専門とし、礼儀作法教育者への指導にも努める。小笠原流礼法総師範として講師育成にも従事。
イラスト=さとう ただし
文=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:PIXTA




