岩壁を御神体とする「神内神社」:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(20)
Guideto Japan
Images 環境・自然・生物 歴史- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
静かな森にたたずむ磐座
神内神社は、三重県最南端の紀宝町にある山里に鎮座する。周辺は日中でも静けさに包まれ、人の気配をほとんど感じない。
清冽(せいれつ)な山水が流れる小川沿いに鳥居が立ち、その左手にそびえるホルトノキの大木は川の上まで枝を伸ばしている。根元が大きな自然石を抱え込む姿は、いとしいわが子を抱く母親のようだ。神内神社は古くから「子安(こやす)の宮」としてあつく信仰されており、この木も「安産樹」と呼ばれる。
参道を進むと静謐(せいひつ)さは一層深まり、神域らしい厳かな雰囲気が満ちてくる。スギやクスノキの巨木が林立するほか、幹や岩に根を張る着生植物などが繁茂する。約7ヘクタールにわたって広がる境内は、約300種類の植物が自生する「神内神社樹叢(じゅそう)」として県の天然記念物にも指定されている。
森の奥には圧倒的な迫力の大岩壁がそそり立つ。長い歳月が刻んだ水蝕(すいしょく)洞穴をもつ酸性岩で、本殿にあたる建物はなく、磐座そのものが祈りの対象となってきた。かつて熊野地方の各地では、巨岩や大木を神の依代(よりしろ)としてあがめたそうで、その原始的な自然信仰の姿が今もなお保たれている。
また、日本神話の古層とも深くつながっており、境内には神武天皇を祀(まつ)るほこらが巨岩に守られるようにたたずむ。かつて熊野の地に上陸し、大和へと向かった神武天皇も、この磐座に旅の成功を祈ったのかもしれない。
華美な装飾が一切ない神域は神さびた森に包み込まれ、木々の葉を揺らす風の音だけが響く。古代から連綿と続く神と大自然への祈りが、ただ寂然と息づいている。

御神体の磐座 撮影=大坂 寛
神内神社
- 御祭神:天照皇大神(あまてらすすめおおみかみ)、天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)、鸕鶿草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)
- 住所:三重県南牟婁郡紀宝町神内958
太古の自然信仰の形態が残された神社で、御神体の巨大な岸壁とそこにある洞窟を拝む。創始は不詳だが、神内地区の森は国生みの神であるイザナギとイザナミの降臨地とされる。母胎を思わせる御神体の造形や、命を生み出す神々の聖地という伝承から、子宝や安産が祈られてきた。
岩壁の周囲はうっそうとした森に覆われている。岩肌に群生するコケ類などの着生植物に加え、巨木が折り重なるように自生しており、原生林の面影をとどめる。

神内神社は子安神社ともいう。近郷では安産や豊漁の神としてあがめられてきた 撮影=北崎二郎

樹齢700余年のホルトノキ。安産をかなえる木として鎌倉時代から氏子が守ってきた 撮影=北崎二郎
取材・文・編集=北崎 二郎
バナー写真:御神体の岩壁を拝む神内神社 撮影=大坂 寛

