長崎・五島列島観光ガイド:快適な船旅のすすめ

教会群などの歴史・文化遺産に加え、雄大な自然や美しい海、郷土色豊かな料理や祭りなど魅力あふれる長崎県五島列島。おすすめの船旅ルートや豆知識、港近くで食べたいご当地グルメを紹介する。

魅力が詰まった五島列島の地理と特徴

長崎港から西へ約100キロと九州最西端に位置し、無人島を含めると約140の島々からなる五島列島。ほぼ全域が西海国立公園の指定区域となり、美しい多島海景観で知られている。20187月にユネスコの世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に、4つの島の集落が構成資産として含まれたことで、さらに注目を集めている。

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世界遺産に登録されている野崎島の旧野首教会。五島列島には約50軒のカトリック教会がある

行政区は、北から宇久島と寺島が佐世保市、小値賀島(おぢかじま)と野崎島などの小値賀町、中通島(なかどおりじま)を中心に頭ヶ島(かしらがしま)、若松島がある新上五島町と続き、南部は五島最大の福江島を含む、久賀島や奈留島がある五島市となる。世界遺産に登録されているのは史跡ごとではなく集落単位で、北から野崎島の集落、頭ヶ島の集落、奈留島の江上集落、久賀島の集落となっている。

訪れる人が一番多いのが、列島最大の島となる福江島。数多くの教会の他、大瀬崎断崖や鬼岳火山群などの自然名所など、観光スポットが豊富な島で、福江空港(愛称:五島つばき空港)には、福岡、長崎の両空港に定期便が就航している。

五島の雄大な自然を感じることができる大瀬崎断崖

全面が芝生に覆われる鬼岳までは、福江港から車で約15分

北側の上五島を観光する場合は、2番目に大きい中通島が拠点となる。五島で最も標高がある番岳からは列島の連なりが美しく、赤ダキ岸壁は海と空の青と赤い岩肌とのコントラストが見事だ。世界遺産に登録された頭ヶ島とは橋でつながっているので、車で手軽に訪れることができる。

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多島美景観が美しく見渡せる、五島で一番高い番岳

五島列島へのおすすめルート

五島列島へは空路もあるが、船の旅が一般的だ。九州各地の港からフェリーや高速船が出ているので、どれを利用するかで所要時間や楽しみ方も変わってくる。ここでは、主要な3つのルートを紹介したい。

1、博多の夜を楽しんでから夜行便で

福岡県の博多港からは、野母商船の五島行き夜行便フェリー「太古」が運航している。博多港は天神からバスやタクシーで10分程度。午後1145分発と遅めの出発なので、天神や中洲の繁華街を十分満喫してからでも乗船することが可能だ。

出航2時間前の午後945分から乗船が開始されるので、夜遊びに興味がない人や子ども連れの人にも便利。早めに休んで、翌日の五島観光に備えよう。

博多から五島列島への夜行便「太古」

宇久島(午前355分着)、小値賀島(440分着)、中通島(540分着)、奈留島(725分着)、福江島(815分着)と、多くの島を経由するので、旅程の自由度も高い。船内にはキッズルームやリラックスルームまで完備しているので、快適な船旅を楽しめる。

リラックスルームではマッサージチェアでくつろぐこともできる

2、長崎港から世界遺産を巡る旅へ

世界遺産巡りが目的の人は、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一つ、大浦天主堂を訪ねてから長崎港を出発するのが良いだろう。天主堂のすぐ隣には、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の旧グラバー住宅もあり、五島へ向かう船からも構成資産となる三菱長崎造船所の「ジャイアント・カンチレバークレーン」などが望める。フェリー乗り場の近くからは、軍艦島(端島炭坑)に上陸できる観光船が出ているので、そちらにも旅の前後に訪れてみてはどうか。

1865年、カトリック史に残る信徒発見の現場となった大浦天主堂

長崎港からはフェリーに加えて、九州商船のジェットフォイル「ぺがさす」が運航している。ジェットフォイルは、水中にある翼に働く揚力を利用して、船体を海面上に浮上させて航走する高速旅客船。フェリーだと福江島まで3時間40分かかるが、およそ1時間半で移動できる。波の影響をあまり受けないために揺れも少なく、船が苦手な人にもおすすめだ。

船体を水上に浮かせて、海を“飛ぶ”ように進むジェットフォイル

揺れが少ないペガサスの船内。シートベルト着用で、甲板に出ることはできない

3、佐世保港から宇久島・小値賀島や福江島へ

テーマパーク「ハウステンボス」などで知られる長崎県佐世保市からも、五島行きの船が運航している。九州商船の「なるしお」に乗れば、北方の宇久島、小値賀島へ渡ることができる。

佐世保から宇久島、小値賀島へ渡るなるしお

船旅の準備と注意点

船は、強風などで欠航になることも珍しくない。天気予報や船会社の運航状況を小まめにチェックして、旅程もプラス1日くらいの余裕を持って組んでおきたい。高速船は移動時間が短いのだが、フェリーよりも高波や強風などで欠航しやすいことも考慮しておく必要がある。

島から島への移動は、船の便数が少なく、1日に12便しかないような港もある。どの船を利用するか、海上タクシーを使うかなど、しっかり計画を立てておく必要がある。出航時刻は、船が港を出発する時間なので、ギリギリに港に着いても船に乗るのは難しい。乗船券の購入や乗り込みなどの時間を考えて、30分前には到着しておくことをおすすめする。

船酔いが心配な人は、船体の後方に乗ると良い。前方に比べて安定しており、揺れが小さくなるので船酔いは軽減する。甲板に出ることができる大きめな船では、ぜひ一度は外へ出てほしい。多島美景観が魅力の五島列島は、潮風を受けながら海上から眺めるのが醍醐味(だいごみ)の一つである。

なるしおの甲板で、心地よい風を感じながら島々を望む

郷土色豊かなご当地グルメや祭りを楽しむ

旅の楽しみといえば、なんといってもご当地グルメ。五島の料理で特に有名なのが、日本三大うどんに数えられる「五島うどん」。五島産のつばき油を練り込んだ麺はコシが強く、焼いたトビウオ(アゴ)からとったダシを使うなど、その味は折り紙付き。福江港のターミナル近くから、五島列島の至る所で食べることができる。

つばき油を使用した五島うどんは、コシが強いのが特徴

当然、魚介類は豊富で、サバずしなどが名物となっている。観光客に評判なのが、見た目のインパクトが大きい「かっとっぽ」。ハコフグをそのまま器として使用し、取り出した身をみそや酒、きざみねぎなどと混ぜてから、おなかに戻して焼いたもの。ご飯のお供としても、地酒の焼酎のつまみとしても最高に合う。

かっとっぽはハコフグを丸々1匹使用するぜいたくな料理

そして、風変わりな祭りの時期に訪ねるのも、五島列島の通な楽しみ方だ。福江島で1月の第3日曜日に行われる「ヘトマト」は、奇祭中の奇祭といわれている。大草履に女性を乗せて、ふんどし姿の男たちが担ぎ上げ、参加者も見物客も顔中にすすを塗られる。

お盆時期の念仏踊りは、地域ごとに衣装や音楽、踊りが受け継がれている。「チャンココ(福江島)」「オーモンデー(嵯峨島)」「オネオンデ(富江町)」など、それぞれ魅力が異なるので、いくつか見て回るのも面白い。

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福江島の下崎山地区で行われる起源不明の奇祭ヘトマト

大きな島にはバスが走っているが、本数は少なく、思い通りにルートを回るのは難しい。島内の移動は、レンタカーやタクシーを利用する方が良いだろう。自然、文化、歴史、グルメと魅力の詰まった五島列島だけに、少しでも多くの場所を巡ってみてほしい。

中通島の赤ダキ岸壁は、赤と青とのコントラストが美しい

写真=黒岩 正和
取材・文=藤井 和幸

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