【Photos】ふわふわ、浮き浮き

文化

この人は、浮いている。着地を想像させない姿はタイトルにある通り、「Jump(跳躍)」 でなく「Levitation(浮遊)」。重力のない非現実の空間が、現実の日常風景に滑り込む。さあ、この不思議な鑑賞体験を、あなたも。


林ナツミさんの浮遊写真(© Natsumi Hayashi, courtesy of MEM, Tokyo)は、「地に足がついていない」自分を投影させたセルフポートレート。『本日の浮遊(Today’s Levitation)』と題して、2011年1月から自身のブログ「よわよわカメラウーマン日記(yowayowacamera.com)」で更新中だ。

世界が共感する“浮遊”感覚

ニューヨークタイムズなど世界中のメディアで幾度も取り上げられ、ブログやフェイスブックでの書き込みは海外からが主流となっている。ツイッターのフォロワーは1万人を超え、浮遊写真ファンのコミュニティサイトまで登場した。「You made my day」、「癒(いや)されました」―。「そういう感想に元気をもらい、次の作品を作っています」と言う。

日本版ロスジェネ(※1)の終盤世代の一人だ。 ゆとり教育を受けながら、現実に社会に出た時には、厳しい就職難に直面した世代。保守的なものと自由なものとの間で漂うこの世代特有の空気感を、彼女の作品は映し出している。彼女自身は、国や性別、世代を超えて広がる共感の源をこう見る。

「重力だと思います。言葉の壁や文化の違いはありますが、重力は世界中に平等にあって、そこから人は逃れられない。けれども浮遊写真の中では、人は重力から解放されて、地に足がついていなくてもよくなる。それが日記で展開されることで、本当にそういう人がいるんじゃないか、と思える可能性もでてきます。そういう感覚を世界中の人と共有できるのは本当に素晴らしいことだと感じています」

誰もが作品に入り込めるようにと、あくまで無表情を貫き、撮影はごく日常的な風景の中で行っていると言う。世界中に広がる共感の輪は、そうした“余白”が醸し出す、押しつけがましくない雰囲気に支えられているのかもしれない。















【Photos】ふわふわ、浮き浮き
2012年7月。「よわよわカメラウーマン日記」にアップした作品をまとめた写真集『本日の浮遊』(青幻舎)が出版された。

協力=株式会社青幻舎

(※1) ^ ロスト・ジェネレーション。日本でバブル崩壊後の「失われた10年」に社会に出た世代を指す。

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