【Photos】湿原の瑞鳥:釧路湿原のタンチョウ

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タンチョウは、その鮮やかな色彩と「鶴は千年」の言い伝えから、古来より吉祥のシンボルとされてきた。タンチョウの最大生息地である鶴居村で生まれ育った写真家が捉えた四季折々のその優美な姿を紹介する。

タンチョウは体長が1.5メートル、羽を広げると2.4メートル、体重は10キログラムで、日本で一番大きな鳥である。シベリアや中国、朝鮮半島のタンチョウは渡り鳥であるが、北海道のタンチョウは一年中生息地を変えずに生活する留鳥だ。かつては本州にもいたが、今では北海道にしかいない。タンチョウは古くから昔話に登場し、数多くの日本画にも描かれてきた。日本人にとって馴染み深く、心に深く刻み込まれた特別な鳥である。

タンチョウのサンクチュアリ

しかし明治時代の乱獲や彼らの生息地である湿地の開拓により、一時は絶滅したと思われていた。ところが1924年、狩猟者も立ち入れないような釧路湿原の奥地、鶴居村のキラコタン岬の近くで密かに生息しているタンチョウの姿が発見された。タンチョウがまだ生き残っていたというニュースは、北海道のみならず、日本中の人々に驚きを与えた。その後、徐々にタンチョウを保護する動きが始まり、1952年には「釧路のタンチョウ」として繁殖地も含めて国の特別天然記念物に指定。そうした動きに合わせ、鶴居村や隣の阿寒町では、献身的に給餌活動を行う有志の人々が現れ、保護活動が活発になっていった。

現在、日本で1500羽ほどのタンチョウが確認されているが、そのうち1000羽近くが釧路湿原に生息している。世界中で2800羽ほどのタンチョウが生息しているが、その3分の1以上が釧路湿原で暮らしているということになる。そして越冬期には、その7割近くが鶴居村にやって来る。鶴居村は、繁殖地である釧路湿原と、冬でも凍結しない安全な塒(ねぐら)や給餌場があるため、まさしく一年中「鶴の居る村」となっている。

一時期からすると生息数も回復し、絶滅の危機を脱したようにも見られるが、繁殖期に給餌場が過密な状態になったり、タンチョウが近くの畑に被害を及ぼしたりと問題は山積している。

タンチョウの生態系を捉える

私は、鶴居村で生まれ育った。そのため、子どもの頃の私にとってタンチョウは特別な鳥ではなく、身近にいるごく普通の鳥に過ぎなかった。そんな私がタンチョウを意識するようになったのは、中学に入った頃だ。今からすると、その頃に自分がタンチョウの写真を撮り始めたのは偶然ではなく必然だったように思える。

私は、タンチョウそのものを撮影するのではなく、彼らが暮らす生態系をも含めた、「タンチョウの居る風景」を捉えたいと思っている。幼少の頃から、彼らが居る風景を見て育った自分にはまさしくそれが「原風景」だからだ。独学で写真を勉強したのも、大好きなタンチョウを撮りたかったからに他ならない。別に写真家を目指した訳ではない。

20代後半から家業のホテル業の傍ら、タンチョウが生息する釧路湿原に通った。彼らの美しい姿を撮影した作品を通して、世界中の多くの人々にこの鳥の素晴しさを知ってもらいたい。それがタンチョウを守ること、彼らが暮らす自然環境を守ることにつながっていけば、これほどうれしいこともない。

氷点下27℃、寒さに耐え朝を迎える(1月)
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寒い朝、朝日を浴び鳴き合をするつがい(1月)
寒い朝、朝日を浴び鳴き合をするつがい(1月)

霧氷の中で採餌をする家族(1月)
霧氷の中で採餌をする家族(1月)

澄み渡った北の青空を飛翔(ひしょう)する(1月)
澄み渡った北の青空を飛翔(ひしょう)する(1月)

広大な釧路湿原国立公園の流れにただずむ(7月)
広大な釧路湿原国立公園の流れにただずむ(7月)

新緑の湿原で求愛ダンスをする(7月)
新緑の湿原で求愛ダンスをする(7月)

湿原を望む丘陵にたたずむ(7月)
湿原を望む丘陵にたたずむ(7月)

夕暮れに辺りを警戒する夫婦鶴(9月)
夕暮れに辺りを警戒する夫婦鶴(9月)

湿原の湖を渡るエゾシカとタンチョウ(10月)
湿原の湖を渡るエゾシカとタンチョウ(10月)

ミズナラの紅葉を背景に採餌する(10月)
ミズナラの紅葉を背景に採餌する(10月)

朝靄の中を飛ぶファミリー(10月)
朝靄の中を飛ぶファミリー(10月)

湿原の塒(ねぐら)で朝を迎える(10月)
湿原の塒(ねぐら)で朝を迎える(10月)

厳冬期でも凍らない河川で眠る(1月)
厳冬期でも凍らない河川で眠る(1月)

1日を終え湿原の塒(ねぐら)に戻る(2月)
1日を終え湿原の塒(ねぐら)に戻る(2月)

写真と文=和田 正宏

バナー写真:寒い朝、朝日を浴び鳴き合をするつがい(1月)

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