【Photos】野生の輝きを失わない北の大地の動物たち
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津軽海峡を挟んで、北海道と本州の自然の様相はまったく異なる。最終氷期といわれる2万年前、海面が100メートルも下がり、宗谷海峡が陸橋となって、ユーラシア大陸の生き物が北海道に渡ってきた。しかし最大400メートル以上の水深があり、潮流の速い津軽海峡を越えることができず、北海道だけに見られる固有種も多い。津軽海峡が動植物相を隔てていることを突き止めた英国人研究者にちなみ、この境界線は「ブラキストン線」と呼ばれる。
動物食を好む北海道のヒグマ
日本では、ブラキストン線より南にツキノワグマ、北にヒグマが生息する。ヒグマは雑食性で90%ほどを植物食に頼っているが、川を遡上(そじょう)してくるサケやマスなどの魚、アリなどの昆虫、最近は過密になったエゾシカなど、動物食を好み、十分な脂肪を蓄えてから冬眠する。メスは冬眠期間中に巣穴で1〜2頭を出産。産まれた子グマは4月の雪解けと同時に巣穴から出て、1年目は常に母グマと行動を共にする。その年は親子で冬眠し、翌年の春になると、子グマは親離れする。

じゃれ合いが高じて争う若いヒグマ

サケやマスを狙うヒグマの親子
現在は北海道にしかいないヒグマの化石が本州で発見されている。動物地理学を専門とする北海道大学の増田隆一特任教授は、DNA分析で道内のヒグマが「道南」「道東」「道央・道北」の3系統であることを解明した。このうち「道南」系統は本州で見つかった化石と近縁で、確たることは言えないが、朝鮮半島から対馬海峡を渡って日本に入り、古い時代にブラキストン線を越えて北海道に渡った可能性もあるという。
私は「道南」のヒグマを直接は目にしていないが、聞いた話では性格や大きさに少し違いがあるようだ。DNAから古代の動物の大陸移動をさかのぼる研究が進んでいるというのは、何ともロマンのある話だ。

眠り込んだヒグマ
北の大地を彩る役者たち
北海道にはフクロウの仲間が数多く生息している。よく見かけるものとしてはエゾフクロウ、ミミズク、コノハズク、めったに出会えないのはシロフクロウ、ワシミミズクなどだ。

冬のエゾフクロウ
北海道だけに生息する国指定の天然記念物であるシマフクロウは、翼を広げると2メートル近くもある。もちろん日本で最大のフクロウだ。アイヌの人たちが「コタンコロカムイ(村を守る神)」として崇めた気持ちが理解できる。
知床の山の小さな沢で、ひとつがいのシマフクロウに出会ったことがあった。テントで休んでいて、日が落ちると、シマフクロウの声を子守歌にいつしか深い眠りに落ちたのが懐かしい。

春、明るい時間帯に樹上で昼寝するシマフクロウ

フクロウ類は獲物に気付かれぬよう静かに近づく習性があるが、巨大なシマフクロウも音を立てず羽ばたく

オショロコマ(カラフトイワナ)を捕るシマフクロウ
タンチョウは北の大地を象徴する存在である。江戸時代には本州にも飛来した記録が残っているが、20世紀初頭には絶滅したと考えられた。しかし1924年に釧路湿原の奥深くで、10数羽が生き残っているのが発見された。その後、保護活動が順調に進み、今では道東以外でも姿が見られるようになった。再発見から約100年がたち、現在は1927羽(2025年1月22日調査)まで回復している。

空を舞うタンチョウ
降雪の中、飛び立つタンチョウの家族

毎年2月頃、繁殖期を迎えたタンチョウのペアは求愛ダンスを舞う
エゾシカを指すアイヌ語「ユック」は「獲物・肉」を意味し、アイヌの人たちにとって食料となっていたことが分かる。明治時代には大雪によって絶滅寸前になったが、近年はシカの好む草地の拡大によって爆発的に増え、さまざまな問題を引き起こしている。

満月の夜のエゾシカ

凍結した風蓮(ふうれん)湖の湖面を駆けるエゾシカ

雪の中から草の根を掘り出すエゾシカ

冬の屈斜路湖のハクチョウ

冬の朝のハクチョウ

大雪山や日高山脈などの岩石が堆積する高山帯に生息するナキウサギ
かつてエゾオオカミは北海道の森や湿原を自由に駆けまわっていたが、明治時代に人間の営みによって絶滅してしまった。現在も野生の輝きを失わない動物たちと接するとき、彼らがいかに貴重な存在なのかを改めて実感するのである。
写真と文=水越 武
バナー写真:カラフトマスを捕るヒグマ。ヒグマはユーラシアや北米などの寒い地域に生息するが、日本では北海道にしかいない。

