【Photos】北の大地を彩る植物の春夏秋冬
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本州と北海道を分ける津軽海峡には、幕末から明治初期に函館に住んだ博物学者・ブラキストンが提唱した「ブラキストン線」と呼ばれる生物分布の境界線が引かれている。しかしこれはヒグマやシマフクロウなど動物分布の境界線であり、植物には当てはまらない。

鮮やかな6月の新緑
東北地方に多く見られるブナは冷温帯の落葉広葉樹林を代表する樹木だが、津軽海峡を超えて、道南にまで分布が及んでいる。函館と札幌の中間点に位置する黒松内町の歌才ブナ林は、1928年にブナの自生北限地として国指定の天然記念物となった。そしてその後、ここより8キロ北の白井川上流にも立派なブナの原生林が分布していることが知られるようになった。また「高山植物の女王」として人気の高いコマクサなども、北アルプスから北上して大雪山や知床の山などに分布している。植物の分布にはさまざまな要因が影響しているが、月平均気温や地質、降水量なども絡んでくるし、地史とも関わりが深い。
針葉樹と広葉樹が混じり合う森
北海道の森林は時間をかけて激しく変動した地史と、何度も押し寄せた大きな気候変動の波によって変遷を遂げてきた。古くは亜熱帯の森林が生い茂っていたこともあったという。このようなことも化石や花粉の研究によって解明されている。それが幾度かの氷河期を経て、最終氷期が終わると気候は急速に温暖化し、6000年ほど前に現在私たちが目にするような「針広混交林」と言われる森林の姿になった。
針広混交林は、シベリアの北方針葉樹林帯(タイガ)と本州以南に広がる広葉樹林帯との植生帯が相互に混じり合う森林だ。樹種を細かく見ていくと、ミズナラ、カツラ、シナノキ、ハルニレ、ヤチダモなど広葉樹の中に、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツなどの針葉樹が混生している。こうした森が広範囲に見られるのも北海道の植生ならではと言える。

東大雪の針広混交林
変化に富んだ多彩な植生
もう一つ北海道の森林の特徴として挙げなければならないのは、林床がチシマザサの群生に覆われていることだ。深い森の中は光が届かず薄暗いだけでなく、ササが密生している。そのためエゾマツなどは、高齢化して樹木が消えた森林に苗木が生え、世代交代を図る「倒木更新」という方法以外では次世代の若木を育てられない。こうしたさまざまな要因によって、北海道には変化に富んだ多彩な森が形成されている。

雪解けを待っていたようにミズバショウの花が咲き始める

網走国定公園内にある小清水原生花園に咲き誇るノカンゾウ。6月中旬を過ぎると北海道の大地は開花の季節を迎える

落葉広葉樹林の林床を覆うエンレイソウとニリンソウの花
これ以外にも河川や湖沼の近くには湿地帯林があり、ハンノキやヤナギの群落が見られる。さらに山地の沢筋ではカツラ、ヤチダモ、ハルニレなどの森が広がる。火山の多い北海道では火山灰地を好むカシワの林が多く、冬も美しい黄色の大きな葉をつけている。特に十勝や苫小牧の海辺に多く生え、高波の音を消すほどだ。また山火事や崩落でできた裸地にはまずシラカバが生える。シラカバは木肌が白く美しいこともあって高原や北国では人気が高い。

チングルマの花

チングルマの綿毛

チングルマの紅葉

9月に入るとキノコの季節が到来する。倒木に生えたタモギタケ

食虫植物のナガバノモウセンゴケに捕まったトンボ

赤いナナカマド、黄色のダケカンバとヤナギ、緑のハイマツなど彩りも鮮やかな大雪山の錦秋
夏は楽園、冬は生命を拒絶する銀世界
北海道で私が最も魅せられてきたのは高山の植生である。高山で標高を上げれば、ダケカンバやナナカマドが目に入ってくる。

森林限界のダケカンバ
さらに登って森林限界を越えるともはや背の高い木は生育できず、緑のハイマツが山肌を包む。ハイマツは漢字で「這松」、樹高は1メートルほどだ。ここは気温が極めて低く厳しい自然環境だが、夏の短い間だけ雪の残る沢筋に高山植物が育ち、さまざまな色の花を咲かせる。大雪山では、北極を中心とする北方地域に広く分布するチョウノスケソウの花と出会うこともできる。この植物の存在はこの地に氷河が到達した証しでもある。コケや地衣類、低木が点在する高山ツンドラは短い夏の間だけ楽園となるが、冬になると生命を拒絶するような白銀の世界に一変する。そうした北海道の植生が織りなす鮮やかなコントラストや奇跡のような光景を求め、これからも森に分け入り、撮影を続けていくつもりだ。

モノトーンの雪景色の中、トクサの緑が目にしみる

道東の山々は例年11月中旬には根雪になる
写真と文=水越 武
バナー写真:上空に白い虹が二重にかかった森林限界のハイマツ帯
