「地方創生」―地域の未来をつくる力

地方は生き残るために、稼ぐ事業と政策を組み立てよ <後篇>

政治・外交 経済・ビジネス 社会

人口減少社会にあって、急務の一つとされるのが地方活性化である。だが、従来型の補助金頼みの地域開発では、これまでの数多くの失敗例と同じ轍を踏むことになってしまう。

木下 斉 KINOSHITA Hitoshi

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師。1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、経営学修士。2000年、早稲田大学高等学院在学中に全国商店街合同出資会社設立、社長就任(~2004年)。2009年より現職。現在、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役(2008~)、一般社団法人公民連携事業機構理事(2013~)。主な著作は『まちづくり:デッドライン』(広瀬郁氏と共著/日経BP社/2013年)など。

地方創生、失敗事例の「墓標」

——地方創生で成功している事例がある一方で、まちの活性化として始まった事業が、まち衰退の原因となっている例も見受けられます。そうした失敗例を教えていただけますか。

青森駅前再開発ビル・アウガ(写真提供=毎日新聞社/アフロ)

「失敗例は後を絶ちません。青森駅前再開発ビル・アウガは、その典型例と言えるでしょう。これは、青森中心部を活性化しようとして始まったプロジェクトで、総費用185億円のうち、公共からの開発費補助額は85億円にものぼります。それでも、施設経営は初月から赤字で、事業計画上進んでも、今後ずっと赤字になってしまうという施設なのです。そこで自治体は緊急出資や緊急融資をしたりと、さらに支援金額はうなぎ登りになり、未だに再建に向けた火消しともいえる状況が続いています。活性化どころか自治体財政の足かせになり、地域としても衰退の象徴のようになってしまっています」

「私が代表をつとめているエリア・イノベーション・アライアンスでは、2014年に全国7つの活性化目的で開発された失敗事例を『墓標シリーズ』としてまとめ、レポートを発表しました。先日日本経済新聞にも掲載されるなど各所から反響がありました。なぜならば、これまでの政策では成功事例は共有されても、失敗事例は共有されなかったからです。しかし、過去の成長期に確立した手法が現代では機能不全となっている。その事実と向き合って解決策を生み出していかなければ、地方の活性化は不可能であると思っています。そのため、民間としてこのようなレポートを発表し、政策の改善を求めています」

従来型の助成金を使った地方活性化モデルの問題点

——失敗に終わってしまう地方活性化事業に共通する要素はありますか。

「要因はいくつもありますが、活性化事業は常に使い捨てをされてきました。地方活性化事業は、政策が先にできて、各地域で挑戦し、その中から成功事例が生まれるわけではありません。むしろ、政策とは関係なく、ある地域で地元の方たちの努力で成功している事例が突発的に生まれます。すると、『このような事例は今後の全国の参考になる』ということで、それを政府などが取り上げ、支援する予算が付きます。ここで政策になっていくのです」

「つまり政策によって成功事例が生み出されるのではなく、成功している事例を元にして政策が組み立てられるのです。なぜなら、政府などは現場を持っているわけではないですから、自分では成功事例を作れません。そのため成功している事例を見つけ、表彰したり、モデル事業などでピックアップして、政策の参考にします。さらに、その事業を参考にして、同じような事業をやりたいという全国各地の取り組みに補助金を配り、真似させて成果を上げさせようとします。しかしそう簡単に皆がお金をかければ成功するわけではありません」

「最初は成功事例だったはずの事業も、国の支援などで構造的に歪んでしまい、3年間もたてば最悪の場合失敗事例になってしまったりします。そうすると、あっさりと政府などは事例をポイ捨てをする。もう成功事例としては取り上げないし、補助事業のモデルにもしなくなります」

「そうこうしているうちに、担当している役所の人間もローテーションで入れ替えとなり、また次なる担当の方々が次の事業を発掘しモデル事業化して補助をする、ということの繰り返しです。これでは、政府としても予算の無駄遣いになりますし、何よりも地域活性化事業が常に使い捨てられていくという悲しい状況になっています。私自身も実際にそういった状況に幾度となく遭遇しました。だから行政に依存するような成功事例の普及啓発などは意味がないと思っています」

「だから、市場と向き合った取り組みが大切であると思うのです。成果を生み出している事例の共通要素は、何かの支援事業に依存せず、独立して取り組み成果を上げているという点です。そこに変な支援を入れてしまうので歪んで失敗してしまうわけです。支援はいらないのです。自立した成果を収め続けるしか道はないわけです」

「そもそも、誰しも稼ぐ以外の予算がくると、自分たちで稼ぐことが二の次になってしまいますね。なぜなら、黙っていても予算としてお金がくるわけですから。予算は補助金で担保されるので、その範囲内でやれることだけやっていればいい、という後ろ向きの考え方になってしまうのです。それでは地方に活力は生まれません。失敗する地域活性化事業に共通するのは、このような稼ぐ以外の資金に依存し、自ら稼ぎだすという姿勢を失ってしまったものばかりです」

地域経済開発では、健全な「利益」が出ることが必要条件

「これに対して、私たちがまちづくり会社を通してやっているのは、基本的に全てが経営優先です。生々しい話ですが、成果を生み出さなくては潰れる。それでいいのです。だからこそ潰れないように努力する。まちの活性化を考える上で、常に一つのまちを、一つの会社として見立てて経営していくということにしています。先ほどご紹介したアプローチのいずれも、既存資産を活用して、高い利回りを上げていくための投資事業なんですね。社会的ミッションだけで、儲けはどうでもいい、というような無責任な話ではないのです。儲けは二の次で、というのは、決して美談でも美徳でもありません。誰かに依存しようとしている証拠なのです。だからこそ、我々はそのようなことは言わない。まちのためにもなって、しかもまちで健全に稼ぐ。そのためにまず自分で挑戦し、その後に仲間を集めていくわけです」

「利益もろくに出さないで、『地域を活性化します』と口先では言いながら、実は税金でお金をもらっているだけという従来型の地域開発が、未だ山ほどあります。私は、これが地方衰退の諸悪の根源だと思っています。税金を食い物にして、活性化といいながらも経済成果を出していない人が、成果を出さないままに地方再生事業を食い物にしている。別に東京が悪いわけでも何でもなく、地方にせっかく再分配されている予算を食いつぶして、利益を生み出さないような事業ばかりやってきたツケが今の衰退です。山ほどの予算が地方で利益を生み出し、さらに経済の再循環に回っていれば、今のような状況は生まれていません。稼ぐことと向き合うこと、これが地方創生の基本です」

地方創生には、小手先の方法論ではなく根幹の議論を

——地域活性化に関していうと、日本創生会議(増田寛也座長)によって、いわゆる「増田リポート」が発表されました。そこで「2040年には896都市の地方が消滅する可能性がある」というショッキングな提言が出されましたが、この増田リポートについては、どうお考えですか。

「地方消滅論では、人口減少で2040年には『地方自治体が消滅する危険がある』という指摘をしているわけですが、それが、メディア的に出ると『地方自体が消滅する』とセンセーショナルに扱われてしまうので、様々な誤解を招いてしまっています。そもそも、地方自治体に消滅危険があると指摘しているだけで、地方自体がいきなりゼロになるとは別に誰も言っていません。地方自治体が消滅しそうであれば、自治体のやり方を変えればいい。そう簡単に地方そのものから人がゼロになったり消滅したりしません。細々なりとも人が残っていくのです。だからこそ難しいわけです」

「各地域で異なってくる住む人々の数、年齢、生活環境に合わせて自治体の経営を見直さなくてはならない、というのが地方消滅論の本質たる問題です。全国一律の地方自治体経営、従来のような人口構成、行政予算規模では経営は成り立たないということを指摘しているのです。ここを間違えてはいけないと思います」

「しかし、自治体が潰れるというのであれば、まず必要なことは、行政業務構造の合理化や、抜本的な組織単位の組み換えのはずです。都道府県なんて単位さえ明治維新でできたものですから、今一度道州制議論をすればよいですし、市町村合併も考えなくてはならないでしょう。行政事務を例にとっても、小さな自治体がそれぞれ個別に行うよりは、電話もコールセンターで一括して広域業務化するなど、知恵を使えばいくらでも合理化は可能なはずです」

「なのに、そういった議論は一切出てこない。全ては『人がいなくなるのが問題だ』という形で議論がすり替えられ、若者を東京から地方に戻せとか、そういう話になっている。大変矛盾した話です。今までの行政の高コスト体質を放置して、人口が減るから自治体が成り立たない、だから人を産めよ増やせよ、という話になるのだから意味不明です。収入側の問題ではなく、費用側の問題です。人口はどれだけ改善しても、今年生まれた子供の数以上に20年後の成人人口が増加することは基本的にはありません。減るんです。減るのに合わせて自治体を経営しなくてはならないわけです。人口縮減が改善すればラッキーボーナスくらいの考え方でやればよいと思うのです」

「何より、私は2040年の人口推計からの問題以前として、むしろ地方自治体は“財政的な問題”での破綻懸念と向き合うべきだと思っています。今、既に財政的にまずいところはあるわけですから。しかし、なぜか人口問題、出生率などに全ての問題の原因が置き換えられてしまって、すべて人が移動すれば、地方に若者が定着し人も増えて、地方の問題は解決するというロジックに違和感を覚えています」

地方は「奪い取る」という発想から「独自に稼ぎだす」という思想へ

「地方創生の議論の前提として、地方自治体がサステナビリティを保てる環境が大切です。破綻しないような財政規律とも向き合いながら、従来のように国から予算をもらって使い果たすのではなく、しっかり稼ぐ姿勢を独自に持って、すべての予算事業での利回りを意識する姿勢に転換すべきです」

「しかし今は、そうではなくて、大都市から地方に人を移転させれば問題は解決するとか、都市機能を地方に移転するとか、何か東京や大都市から機能や資金を奪い取る、という発想になっています。国内で内輪もめをして、取り合いをしているわけです。そんなことしていても、東アジアなどの周辺大都市に対して東京などの競争力が低下するだけで、国全体として得することはないでしょう。もうそろそろ、もっと根幹の話をしなきゃいけないと思います。それは、地方が独自で稼がなくてはならないということです。東京のようになろうとかではなく、特定産業で稼ぐとか、自ら作ったものを売って都市部の消費で稼ぐとか、もはや自分たちでどう飯を食うのか、という問題と向き合わなくてはならないわけです」

「そのためには、何を守って、何を具体化していくのか、そして何をやらないのかを決めることが重要です。大都市のような幕の内弁当モデルを真似することではなく、うちのまちはこれはやるけど、これはやらないと決めることが大切なのです。オガールの事例はそれを物語っています。もう行政が公共施設開発をやらない、と決めたから新たなアプローチが生まれたわけです。その他の事例も、新規開発をせずに今ある資産だけで新たな投資を回していこうと決めたからできています。今後の地方では、今まで形成してきた公共・民間の資産を活用して新たに稼ぐ、いわば一点突破モデルを考えるしかありません」

岩手県紫波町・オガールプラザ

「今回の地方創生関連予算も、従来のようにもらって使って終わり、というやり方では資金は地方に定着しません。重要なのは予算に依存せず、自ら稼ぎ出すことが可能な事業を考えることです。地方創生は、誰からか奪うことではなく、自ら稼ぐことと向き合う。これに尽きると思います」

(タイトル写真=公民合築施設として公共施設開発の成功モデルケースである岩手県紫波町「オガールプラザ」、写真提供=木下斉氏)