コーポレート・ガバナンス:日本の企業は変われるか?

ガバナンス向上を求め「ルール違反」を徹底追求—村上絢 ・C&I Holdings CEOに聞く

経済・ビジネス

「もの言う株主」として企業価値向上を求める投資会社C&I Holdingsの村上絢CEOが、経営者たちにコーポレート・ガバナンス強化を強く求める投資理念を語る。

村上 絢 MURAKAMI Aya

1988 年生まれ。父は2000年代に「もの言う株主」として注目された投資グループ「村上ファンド」代表の村上世彰(よしあき)氏。慶應義塾大学卒業後、モルガン・スタンレーMUFG証券に勤務。その後C&I Holdingsに入社、2015年に同社の代表取締役に就任。

1999年に元通産相官僚の村上世彰(よしあき)氏が中心となって設立した投資グループ「村上ファンド」は、保有資産を持て余し株価が割安で推移する企業に投資し、株主還元の拡大や事業売却などを強く求める「もの言う株主」として注目を集めた。2006年、村上氏はライブドアによるニッポン放送株の買収に絡み、インサイダー容疑で逮捕、起訴され、ファンドも解散した。

その「村上ファンド」の流れをくむ「C&I Holdings(HD)」は、コーポレート・ガバナンスの適正化を全面に押し出し、投資先企業の企業価値向上を強く求めている。現在、東証一部上場会社で国内トップの電子部品商社である黒田電気に対し、株主還元の拡大や手元資金の活用などガバナンスの強化を強く求め、世彰氏を含む4人の社外取締役の選任を求めるなどのアクションを起こし、「もの言う株主」として再び注目を集めている。C&I Holdings代表の村上絢氏に話を聞いた。

PBR(株価純資産倍率)の低い「割安株」を買う

——まずC&I Holdingsの投資方針に関してお伺いしたい。投資対象の判断、投資家としての要求のスタンスはどのようなものですか。

村上絢CEO

 基本的にC&Iは全て村上家の個人資金で運営しています。以前父(村上世彰氏)がやっていたころはお客さまから資金を預かっているということがあって、受託者責任というものがありました。今は基本的に全リスクを自分たちで取る。ですから、投資期間が長めでも可能だということです。

基本的に買うのは割安株です。よくコーポレート・ガバナンスが利いていない会社のみを買っていると誤解されがちですが、割安株は顕著にコーポレート・ガバナンスが利いていないことが多いので、あくまでも結果的にコーポレート・ガバナンスが利いていない会社に投資していることが多くなってしまう。

では、「割安」の判断の基準はというと、もちろんPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)があります。例えば日米の株式市場を比較した場合、PERで比較するとほとんど差がない。

逆にPBRで見るとアメリカは3倍で日本は1.5倍とかなりの差があります。そういう意味ではPBRが割安な会社が日本にはすごく多いんですね。

今後、(昨年導入された)「スチュワードシップ・コード」【編集部注:日本での正式名称は「責任ある機関投資家」の諸原則】、(今年6月に導入された)「コーポレートガバナンス・コード」を踏まえて、日本が今後どこで株価を向上させる余地があるかといえば、やはりPBRです。なので、PBRが1倍を割れている会社が、投資対象としては基本的に多くなります。

業界再編も視野に入れた中長期的な投資

——例えばC&Iのように中長期的な視野を持って割安株に注目する投資会社は、日本の投資の世界の中ではまだ特異な存在だと思われますか。

村上

 「特異」だとは思っていませんが、周囲からはよくそういわれます。何が特異なのかと考えると、多分、最終的には敵対的になってしまっても行動を起こすというところなのかなと思います。それがより「特異」に映る理由としては、投資理念としてコーポレート・ガバナンスをずっと掲げていているところでしょう。

10年前、父が「村上ファンド」の代表をしていた時代から、基本的にスタンスは変わっていません。ただ、当時はガバナンスという言葉が世の中に全く浸透していなかった。今は、コーポレート・ガバナンスを重視する動きになっています。ただ、変わりつつあるとはいえ、まだ皆さん、株主還元とか、自己株取得、配当政策などに目が行きがちです。

私たちがずっと言っているのは資本効率の向上で、その中には株主還元、配当政策だけではなく、業界再編、企業買収、合併や、最終的に(投資対象の)会社の売却といった可能性も視野に入れています。

ですから(いわゆる)投資ファンドと比べて何が違うかというと、包括的な資本効率の向上を(企業側に)強く訴えていることだと思います。場合によっては投資期間が長くなったり、IRR(内部収益率)で見ると低くなったりしてしまう。でも投資ファンドはお客さまの資金を扱っているのでそれはできないと思います。

C&Iはコーポレート・ガバナンス、資本効率の向上を追求しているので、中長期的な企業価値向上につながる投資を目指すだめに、投資行動が投資ファンドとは少し変わってきて、よって特異に見られることがあるのかなと思います。

利益追求ではなく経営者の「ルール違反」が大問題

——日本にはまだ、企業に投資して利益を得るということに対する倫理的な拒絶感のようなものが社会にある一方で、企業は企業のもの、しかも経営の権限を持つごく限られた利害関係者のためだけに動くことが許容されている企業風土が残っている気がします。

村上

 基本的には以前に比べたらコーポレートガバナンス・コードによって、(企業行動は)飛躍的に良くはなっていると思います。つまり、法的には縛られないけれども、上場企業が参照すべき指針が出てきて、今後これから投資家と対話する時もこのコードが前提となることが多くなるでしょうから、より一層企業経営者は変わってくると思います。

ただ社会全体がどうかという話になると、やはり投資によって利益を得ることに対する反発は、いまだに大きいのかなとは思いますね。日本の社会には、お金を儲けるとか、利益を追求するということに対して、是としないみたいな風潮はいまだに少し残っている気がします。

例えば東芝の不正会計を例にとると、当期利益追求のプレッシャーによって、当期純利益を前倒しをしたために結局こういう不祥事になってしまった、つまり利益追求がいけないということになる。でもいけないのはあくまでもルール違反をしたことで、利益追求はどの経営者もやることです。

——C&I が大株主となった黒田電気の経営陣との対立が話題となっています。8月21日、黒田電気が臨時株主総会を開き、村上さんが要求していた社外取締役の件が否決されました。黒田電気は、C&I側の提案に反対する従業員の声明文などを出して、他の株主を説得する材料にしています。

村上

 我々は、黒田電気が出した従業員の声明文というものが、実はねつ造だということを従業員の内部告発によって知り得ることができました。声明文は(黒田電気の)会長、社長の指示で作成されたという証拠となる録音データも入手しています【編注:9月10日、黒田電気は社外調査委員会を設けて、声明文の「ねつ造」疑惑を調査すると発表】。声明文を出したのは、自分たちに有利になるように投資家の議決権行使を促すためです。株主総会という神聖な場で、会社がねつ造文書によって議決権行使を促すというのは大問題であり、極めて大きなルール違反です。これを許してしまうと、日本のガバナンスは向上しないので、きちんとしたプロセスを踏んで追及していくつもりです。

あくまでも正当な株価形成を求める

——安倍政権は成長戦略の一環として、投資家による企業監視を強化する意図でコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの適用を打ち出したわけですが、現実問題として効果があると思われますか。

村上

 あると思いますし、今後、より一層効果が表れると思います。アメリカと日本で大きく違う問題は内部留保だけなんですよ。ROE(自己資本利益率)で見るとアメリカが15%程度で日本が7%。じゃあ、その8%の違いって何かといえば、内部留保なんです。つまり内部留保が激減すれば、アメリカの市場と変わらなくなる。特に内部留保が厚い会社は大体持ち合い株式です。つまり、PBRが0.4、0.5といった会社はネットキャッシュが時価総額より多く、不動産資産や持ち合い株式も多いところがほとんどですね。

リーマンショックや東日本大震災などを経て、リスクウェイトをどれぐらい積む必要があるのか、統計で見れば分かるはずだと思いますが、日本の上場企業はそのプロセスを怠ってきているところが多いと思います。

直接金融で資本調達をするということは、あるべき正当な株価を維持することが前提です。今の日本企業は全くそれができていない。一方で、今、日本経済の何が問題かといえば、誰も銀行から借りない、つまりマネーサプライは増えているけれども、全く市中に出回るお金は増えないこと。つまり、みんなが内部留保を持っているからです。

銀行借入を利用しなければ、銀行も利益が上がりません。本来であれば金融は血液のようなもので、きちんと回ればそれが経済活動にプラスの影響を及ぼします。上場企業の方たちはリスクウェイトを算出して、それに基づいた資本調達というのをやっていかなければいけないと思います。

手元の資金は投資に回して利益拡大、株価向上を目指すべき

——企業に投資に回さない資金が貯まっているという現状が、コーポレート・ガバナンスの浸透によって、株主が声を上げることで大きく変わると思われますか。

村上

 スチュワードシップ・コードができてから1年半余り、コーポレート・ガバナンスができてからまだ半年で、かなり飛躍的に変わってきていると思います。海外のアクティビスト・ファンドも、日本での活動が活発化しています。ですから、確実に投資環境は変わっていくと思います。

——先ほど、資本効率を上げることがいい会社だとおっしゃいましたが、具体的にはどんな会社、あるいは経営者が相当しますか。

村上

 SoftBankのように、チャレンジして、結果を出している会社はいい会社ですよね。チャレンジするというのは、例えば内部留保をきちんとした投資に向かわせて、もしくはレバレッジをかけて、より一層の利益を追求していると会社です。そういう会社が事実、株価も向上しているし企業規模も大きくなっているので、やはりそういう経営者の方を株主としては応援したいと思います。

父と同じ道を歩むと決めた理由

——今度は、絢さんご自身のことについてお伺いしたい。お父様の村上世彰氏の「村上ファンド」が2006年に解散してから、リーマンショック、東日本大震災があって、この10年で世界は大きく変わりました。その中で、常に10年前の父親との対比で語られたり、取材を受けたりすることに対して、どう感じていますか。

村上

 メディアの方は基本的に私ではなくて、父に会いたい、父のコメントが取りたいのだろうと思います。私自身は父を通してうちの会社(C&I)に注目していただいていることが有り難いです。そのおかげで、コーポレート・ガバナンスについて語る機会を与えていただいていると思っています。

——お父様の世彰氏は、例えば阪急電鉄と阪神電気鉄道の経営統合を実現するという大事業を成し遂げたわけですが、当時のお父様に対してどういう印象を持っていましたか。

村上

 私は高校生でしたから、何も分かっていなかったですね。ちょうどスイスに留学していた頃で、日本のメディアにも触れる機会もなかった。スイスから帰国する飛行機の中で、テレビに父親に関するニュースが映っていて、かなりびっくりしました。その後、父は逮捕されたわけですが、大学では嫌な目で見られたり、噂話をされたりとかして、父親に対する反発心みたいなものもあったと思います。

今、父と同じ業界に入って仕事をしていて思うのは、父親が訴えてきた上場企業のあるべき姿、コーポレート・ガバナンスに関しては全く間違っていないということです。

——普通父親が逮捕されたりすれば、父親とは違う道を歩もうと思う人も多いと思いますが、あえて父親の仕事を引き継ぐという決断の原動力となっているのはなんでしょうか。

村上

 逮捕がきっかけになって、実際に父親は間違ったことをしたのか知りたいという探究心が生まれました。それで、大学を卒業したら金融業界に入る、そして数年後には退社して父と同じ仕事をやってみようと思っていました。

それに、父の時にはまだ、コーポレート・ガバナンスを企業に浸透させるということを成し遂げられていなかった。日本は上場企業に関してはまだ途上レベルですよね。ですから、日本の上場企業がきちんとした株価形成をすること、それが最終的に日本の国益にもつながりますし、日本の経済発展にもつながります。そのゴールへの道のりに貢献したいと思ったんです。

すべてのステークホルダーが満足することが目標

——今後の目標は?

村上

 基本的にコーポレート・ガバナンスには二つの側面があると思っています。一つは東芝や黒田電気のような「ルール違反」を犯さない、つまり企業の中のコンプライアンス、ルールを遵守するというガバナンスという側面があります。もう一つがコーポレートガバナンス・コードに基づき、企業経営者がきちんとした株価形成をするという側面です。

このコンプライアンス違反まで追求できるのは、現状ではうち(C&I)だけだと思っています。東芝もオリンパスも内部告発者が出たわけですが、このことは上場企業の経営者の方々がルール違反をしてしまっている結果なのだと判断しています。

ですから、うちとしてはきちんとした株価形成を実現させていくということと同時に、全ての上場企業がきちんとしたコンプライアンスを保ち、かつ従業員を含むさまざまなステークホルダーの方たちがきちんとした満足度を得られることを目指して行動していきたいと思います。

(2015年9月7日のインタビューに基づきニッポンドットコム編集部が構成)

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