シニア消費から見る日本の高齢化社会

ライフスタイルにこだわるシニア層:「百貨店にできることはまだある」

経済・ビジネス 社会 暮らし

高品質な商品の品揃えと丁寧な接客、高いブランドイメージで顧客の信頼を得てきた日本の百貨店業界。シニア層の消費動向をどう分析し、どのような手を打っているのか。業界最大手の社長に聞いた。

大西 洋 ŌNISHI Hiroshi

三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長。1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。1979年、伊勢丹入社。執行役員などを経て、2009年4月に伊勢丹常務執行役員と三越取締役常務執行役員を兼任。同年6月、社長就任。2012年2月より現職。著書に『三越伊勢丹 ブランド力の神髄』(PHP選書)がある。

ひとくくりにできなくなった百貨店の業態

——社会の高齢化が日本の消費構造をどう変えるのか、その変化が小売業界にどう影響を与えているかについてお伺いしたい。その前に、日本の小売業における百貨店の位置づけ、百貨店をめぐる近年の情勢について説明いただけたら

日本のGDPが現在約500兆円。うち小売業の占める割合は140兆-150兆円ぐらいだ。eコマースの売り上げが15兆円、ドラッグストアとかコンビニがいずれも10兆円ほどの規模。百貨店は、以前は10兆円規模の産業だったが、時代の変化で現在は6兆円ほどだ。小売業の売り上げの中の、わずか4%になってしまった。かつての“生活文化としての小売業の象徴”というポジショニングにはないのだろう。

ただ、三越伊勢丹は、百貨店の6兆円の売り上げのうち、20%-25%のシェアを持っている。「百貨店のあるべき姿」を目指す路線を歩んでいる。

——コンビニのように100円で商品が買えるところと、百貨店に家族やカップルで足を運ぶ場合では、消費スタイルは全く違う。今の時代、“老舗の世界”は崩れてしまったのだろうか。それとも、もともとあった百貨店の中のボリュームゾーンが落ちていって、ステイタスだけが残っているのだろうか。

その部分は店舗や企業の考え方によってさまざまだと思う。当社は“百貨店は特別なもの”という意識で、価格競争には飲み込まれないできたつもりだ。ただ、他社の場合は、業態に関係なく価格競争に挑んできたところもある。もう百貨店は、ひとくくりではない。自分たちだけでも“This is the Department store”という意識でないと、ステイタスが守れない。

高齢者にも2つのタイプ

——そこで、社会の高齢化を小売業としてどう見ておられるか。自分で稼ぐ消費者が減り、ため込んでいたものを消費する人が増えてくる時代は、これまで日本の社会になかったと思うが。

相当に危機感を持っている。65歳以上の方が、4人に1人の時代。ただ65歳以上の方でも2つのタイプがあると思っている。いわゆる団塊の世代の方たちというのは人口構成でも大きいわけで、そこともう一つはその上の方たち。団塊の世代はいろいろなことにこだわりがあり、たとえ仕事をなさっていなくてもご自分のライフスタイルがあり、百貨店として提案できることはたくさんあると考えている。

一方、団塊の世代よりも上の方たちというのは、間違いなく購買力が落ちていく。ここは、マーケットとして小さくなると思う。シニア向けとしてはモノだけではなくて、やはりライフスタイルに関わる旅行とか、財産運用とか、あらゆることに百貨店として取り組んでいかなければならない。当社はカード会社を持っているので、その中で保険や金融商品のコンサルタントを手掛けている。そこをもう少し踏み込んでやっていくことも、将来的には考えている。

旅行に対するニーズは、ものすごく高い。価格が高い商品にも人気が集まっている。ほかには、昨年「医療モール」をつくる会社を立ち上げた。これは介護施設とかではなく、ジムであったりコミュニケーションの場であったり、文化面での提案などもできるサービスだ。

一方で、モノも売れないと収益的には難しい。スーツとかビジネス関連は売れにくいが、旅行に行く時の洋服とか宝飾類とか…、モノとコトをバランスよくお客様に提案していきたい。

60歳は、もはやシニアではない

——伊勢丹新宿店の2013年の改装オープンで、シニア層向けの売り場を3割ほど縮小したものの、ミドルからシニア層の売り上げは落ちなかったという事例があると伺っている。これはどういう現象と考えているか。

新宿店は、実は年齢軸を意識した店づくりをしていない。テイストとライフスタイルを第一に考えている。そうはいっても、「このフロアはだいたいこの年齢層の方が多いだろう」という想定はある。その時のことだが、2階フロアは完全に20歳代、30歳代を客層に想定していたのだが、そこで私どもの予想の3倍ぐらい、50~60歳代のお客様が買っていただくという結果が出た。シニア層からの売り上げはこのフロアでは数%という予想が、実際は15%ほど。50代、60歳台前半の方は、感覚が若い。特に女性はファッションへの意識が高い。

現在は、60歳という年齢は「シニア」という言葉には当てはまらないだろう。70歳や75歳ぐらいがシニア。だから、60歳代の購買を上げるチャンスはあるとみている。新しい提案をすれば、反応してくれる。一方で、70歳以上の方に「これまでの倍買ってください」と働きかけるのは無理な話で、ここは別のアプローチが必要だ。

百貨店がやる「コンビニ」展開

——シニア層の持つ資産は70兆円とも100兆円とも言われ、“消費の主役”と持ち上げる見方がある一方、シニア消費は高級品に向かわず、コンビニ商品を指向するという分析もある。これについてどう見ているか。

資産や蓄えがあって、高級品を買ってくれるというマーケットは百貨店にはある。一方で、家の近くに歩いていけるお店がない“買い物難民”と言われる人が600万人もいると指摘されている。全体を見た時に、この人たちに対して「どうするか」ということを考えなければと感じている。

そこで、百貨店がやる「コンビニ」というのか、サテライト店というものを増やしている。もちろんコンビニのように何万店もの出店はできないが、数百店という単位で、もう少しグレードを上げた商品を出していきたい。サテライト店は衣料品や食品、雑貨も置いている。品数は当然絞り込まれる。お中元やお歳暮、ギフトなどの需要は地方にはまだあり、それにも対応する。

販売員の接客が百貨店の強み

——eコマースの増大、高齢化の進展により、コンビニでさえも「接客力の強化」を掲げる経営者が出ている。シニア消費者に向けた接客の重要性をどう考えるか。

コンビニでの接客というのはレジがある場所、お客様とカウンターを介してのやりとりに限られる。ところが百貨店の場合、お客様が店舗に入った瞬間から接客が始まる。きちっと商品を介して、会話が発生する。この差を維持していかないと、百貨店の強みはなくなっていく。店頭にいるスタイリスト(販売員)の人数は、どんなに厳しくても減らさない。私どもは逆に増やしている。特にシニア層は、丁寧な接客を望んでいると思う。

売り上げや利益も大事だが、私は入店客数を相当シビアに見ている。高齢化とネット社会の進展で、今後は年3-5%ほど入店客数が落ちるのではと仮説を立てている。そうなっても売り上げ、利益が維持できるような準備が必要だ。

地方の良品を新しいマーケットに

——東京と地方がこれまで、消費文化としてはかなり近かったものが、関西圏も含めた地方がかなり地盤沈下しているという印象があるが。

首都圏はしばらく大丈夫だとは思うが、地方は少子高齢化と経済衰退で、ダブルの打撃を受けている。地方都市の市街地は、昔からの商店街に百貨店が誘致されて発展してきた。その後は住居が郊外に移り、イオンなどに代表される郊外型スーパーができて市街地が衰退した。今は、ともすれば行政施設すらも郊外に出ていく。市街地活性化は様々なところで議論されているが、もう少し大きなビジョンを持ってやらないといけないのではないか。

もう一つ、地方にはいいモノづくりとか、長い歴史のある産業が多くある。これらは私たち小売業のミッションとして紹介し、新しいマーケットにつなげていかなければならない。三越伊勢丹では2011年から、「JAPAN SENSES」のタイトルで、地方の優れた素材、技術、商品を再認識してもらう取り組みを行っている。

こういうところに国とか民間がお金をつけていくことが必要だ。政府は今回、2600億円の交付金を使って各自治体で「プレミアム付き商品券」が発行されたが、これによる消費拡大は一過性のもの。そのお金があるのなら、地方の産業を立て直すことに使うべきではないか。

聞き手:間宮 淳(ニッポンドットコム編集部長)

バナー写真:2013年に改装、オープンした伊勢丹新宿本店本館3階の売り場。ファッション情報などを発信するため、きらびやかなライティングが施された「パーク」と呼ばれるスペースが設けられている(時事)