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特集 「働き方改革」:日本社会は変わるか
関連法が成立:多様な働き方許容する社会へ段階的な見直しを

黒田 祥子【Profile】

[2018.07.06]

国会で可決成立した「働き方改革」関連法案。著者は、(1)時間外労働の上限規制を徹底する土壌を固めた上で、さらなる引き下げが必要、(2)副業推進の動きが先行するのは「危険」―などと指摘。さらに働き方改革とともに、人材育成・教育訓練方法の抜本的見直しが必要だと提言する。

日本では、何十年も長時間労働社会が続いてきた。これまでも長時間労働社会を是正していくべきだとする考えは繰り返し唱えられてきたが、依然として日本人の多くは長時間労働をしている。安倍首相は今国会を「働き方改革国会」を位置付けているが、果たして日本の働き方は変わっていくのか。本稿では今般の働き方改革について、①時間外労働の上限規制②年次有給休暇の取得③多様で柔軟な働き方の実現④副業の推進⑤人材育成——の5点について、その評価と残された課題を考えたい。

時間外労働の上限規制:段階的に引き下げを

第1の時間外労働の上限規制については、臨時的な特別の事情がある場合の特例として、単月で100時間未満を上限に、時間外労働を年 720 時間までとすることが今般の改正労働基準法に盛り込まれた。年間720 時間の上限は、単純に割ると月60時間、一日当たり3時間の残業に相当する。

下図に示したように、『社会生活基本調査』(統計局)と呼ばれるタイムユーズサーベイの個票データを用いた筆者の計算によれば、日本人の平日(月~金)の忙しさは趨勢的に増す傾向にあり、2016年時点で平日一日当たりに11時間以上働くフルタイム雇用者の割合は男性の約3割、女性の約1割に相当する。これは通勤時間や勤務の間の休憩時間などを除いた実労働時間であり、一日の所定内労働時間を8時間とすると、これらの人々は一日に少なくとも3時間以上時間外労働をしていると解釈できる。

今般の上限規制を巡っては設定水準が高すぎて、過労を許容することになるとする声も聞かれるが、現状からあまりに乖離(かいり)した無理なルールの設定は、法規制の形骸化につながってしまう恐れもある。まずは実現可能なレベルから始め、上限規制を徹底する土壌を作ることが先決だ。その上で、単月の上限および年間の総労働時間の引き下げなどの早期見直しを図っていくという段階的なステップを踏んでいくことが望まれる。

見直しの際には、ルールのシンプル化も考えていく必要がある。今般の時間外労働の上限規制は、多様な意見に配慮した結果、ルールが複雑になってしまった。シンプルな法制度を整備していくことは、法令違反企業への国民自身による監視力を強化することにもつながる。

有給休暇の“強制取得”義務付け

第2に、今回の労働基準法には、有給休暇の取得促進を目的とした項目も盛り込まれた。具体的には、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、そのうちの5日について使用者は毎年、時季を指定して与えなければならないとするものである。この改正は、時間外労働の上限規制に比べて認知度が低いものの、日本人の働き方を変えていく貴重な一歩といえる。

現在の日本人の年間有給休暇の取得日数は年間平均8日程度で、これは実際に付与された有給休暇日数の半分に満たない。中には、1年間に1日も有給休暇を取得していない人も1-2割程度存在している。このように取得率が低いのは、これまでは有給休暇の取得時季を指定する権利が労働者側にあったことと大きく関係している。

つまり、日本ではこれまで、労働者が申し出ない限り有給休暇は取得できない仕組みになっていたため、同僚や上司に気兼ねして有休取得を申請しにくい雰囲気が多くの職場にあった。今回の時季指定権の使用者への移行は、少なくとも年間5日は半ば強制的に有休を取得することを使用者に義務づけるものである。年間5日の取得は初めの一歩ととらえ、これをきっかけに今後はさらに取得率が上昇していくことが期待される。

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  • [2018.07.06]

早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専門は労働経済学。1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。慶應義塾大学博士(商学)。日本銀行、東京大学社会科学研究所准教授などを経て2014年から現職。著書に『労働時間の経済分析―超高齢社会の働き方を展望する』(共著、日本経済新聞出版社、2014年)など。

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