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特集 米朝会談:その先の東アジアは?
中途半端な米朝会談声明:今後ロシアが「存在感」示す余地も

小泉 悠【Profile】

[2018.06.28]

米朝首脳会談の結果と行方を、ロシアはどのように見ているのか。筆者は、「北朝鮮の非核化が完全には解決されず、くすぶり続ける」ことが、ロシアにとって望ましい状況だと指摘する。この問題で、自らの存在感を示す局面が生まれる可能性が増すからだ。

2018年6月12日に行われた米朝首脳会談に関する一般的な評価はあまり高いとは言えない。会談後に発表された米朝首脳の共同声明はCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)にも弾道ミサイルの破棄・制限にも触れておらず、北朝鮮の核・ミサイル問題をどのように解決していくのかはあいまいなまま積み残されたためである。

しかし、ロシアにとってはそうではない。むしろ、今回の米朝首脳会談における結果の不十分さは、ロシアにとって望ましいものとさえ言える。以下、その理由と背景について述べてみたい。

中朝露のいびつな三角形

そもそも北朝鮮に対するロシアの影響力は、一般に想像されるほど強いものではない。

北朝鮮という国家は、たしかにソ連によってつくり出された。しかし、「衛星国」と呼ばれた東欧社会主義国と決定的に異なっていたのは、北朝鮮が中国というもう一つの社会主義大国を後ろ盾に持っていたことである。中ソは冷戦下で対立関係にあったから、北朝鮮はその時々の状況に応じて両国との距離を変え、特定の大国に完全に従属させられる事態を回避することができた。この意味では、北朝鮮に対するソ連(ロシア)の影響力は最初から限定的であったと言える。

欧州における冷戦の終結がアジアにおいても一定の緊張緩和をもたらし、ソ連(ロシア)の国力が劇的に低下すると、この関係には微妙な変化が生じた。一方において、韓国との経済協力に期待したソ連は、「新思考」外交の下、1990年に韓国との国交を正常化した。他方、ソ連から北朝鮮に無償ないし安価で供給されていた経済・軍事援助は大幅に縮小され、91年末にソ連が崩壊するとほぼ完全に停止してしまった。96年にはソ朝友好協力相互援助条約が失効を迎えたが、ロシアはこれを更新せず、露朝は名実ともに同盟国ではなくなった。

ただし、韓国への接近は思ったほどの実利を生まず、いたずらに北朝鮮との関係を損なうだけに終わった。そこでロシアは90年代後半から北朝鮮に再接近し、プーチン政権下の2000年には露朝友好善隣条約が締結された。もっとも、この条約にはソ朝友好協力相互援助条約のような相互防衛義務が含まれず、露朝が同盟国でないという事実は変化しなかった。また、プーチン政権も北朝鮮への戦略援助は復活させず、エネルギーも武器も北朝鮮の支払い能力の範囲内でしか供与しなかった。

そして中国は、この間も北朝鮮の後ろ盾であり続けた。冷戦期には中ソが北朝鮮から概ね等距離の三角関係を構成していたとするならば、冷戦後には露朝の関係が遠のき、相対的に中国の影響力が強まったことになる。このいびつな三角関係は現在でも基本的に継続していると考えてよい。

疎遠ではないが冷淡な露朝関係

冷戦後、ロシアが北朝鮮に対するコミットメントを低下させたのは、そこにメリットを見いだしがたくなったことが大きい。高度技術製品を除いてほぼ自給自足が可能なロシアにとって、北朝鮮は自国の死活的な利益に関わる国ではなく、北朝鮮の経済力の低さゆえに市場としても魅力的ではなかった。

また、冷戦の終結は、米国や中国に対抗して朝鮮半島にプレゼンスを維持する必要性をも低下させた。米国の同盟国である韓国との「緩衝地帯」としての価値はロシアでも認められてはきたものの、露朝国境の長さは39.4キロに過ぎず、首都モスクワからは約6300キロの彼方にある。北京から最短650キロの地点で1400キロもの国境を接する中国とは、「緩衝地帯」としての切迫感は全く異なる。また、北朝鮮はロシアが「勢力圏」と見なす旧ソ連の範囲にも含まれない。

それどころか、冷戦後のロシアでは、北朝鮮の存在が一種の障害とさえみなされるようになった。

軍事面でのロシアの懸念は、北朝鮮の核・ミサイル計画が、結果的に東アジアにおける米軍のプレゼンスやミサイル防衛計画を正当化しかねないことであった。ことにミサイル防衛の推進は、ソ連崩壊後に核抑止への依存を強めざるを得なかったロシアにとって甚だ不都合なものであった。北朝鮮の核開発が核拡散につながりかねないことも、ロシアの懸念を呼んだ。

こうした中で2006年に北朝鮮が初の核実験を強行すると、ロシアは国連決議に従って北朝鮮に対する武器禁輸措置を発動し、冷戦後に希薄化していた軍事的後ろ盾としての立場はさらに後退した。

経済面では、北朝鮮という特異な体制が存続していることでロシア極東の発展が妨げられているという見方がある。ロシアの経済専門家の中には、北朝鮮という障害が取り除かれればロシアのガス・パイプラインや鉄道を韓国まで延伸でき、あるいは豆満江開発を進めることで極東振興に資するのではないかという期待論が少なくない。ただし、この種の期待はロシア側ステークホルダーの希望的観測に基づいている部分も大きいと思われ、懐疑的な意見も根強い。

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  • [2018.06.28]

公益財団法人・未来工学研究所特別研究員。専門はロシアの軍事・安全保障政策、宇宙政策。1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。外務省国際情報統括官組織専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員などを経て、2011年から現職。著書に『軍事大国ロシア』(作品社、2016 年)など。

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