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特集 「移民」と日本社会
日本農業が生き残るために:外国人材活用の現状と課題

青山 浩子【Profile】

[2018.10.30]

農業の深刻な人手不足に対処するため、政府は外国人技能実習の研修期間延長や戦略特区での外国人就労解禁を決め、「骨太の方針」では農業も外国人材受け入れ拡大の対象分野に含めた。今後、受け入れ体制整備や労働生産性向上へのさらなる取り組みが求められる。

急速な構造変化と深刻化する労力不足

日本の農業界では長年、中小零細規模の農業者が圧倒的多数を占めてきたが、いまその構造が急速に変わりつつある。高齢・中小規模農家が多数リタイアし、彼らの農地が規模拡大に意欲的な農業者のもとに続々と集まっている。こうした農業者は雇用者を増やしながら、さらなる規模拡大を図っている。

日常的に農業に従事する「基幹的農業従事者」は、2017年時点で約151万人。10年前の200万人超に対し、4分の1減少した。一方、各地域で中核となって農業を営む担い手に農地がどれほど集積しているかを見ると、2000年には集積率(全農地面積に占める担い手の利用面積の割合)が約28%だったが、17年には約55%まで上昇した。

農業者の多くは家族経営が中心だが、規模拡大に伴い、家族経営から法人経営への転換も増えている。法人経営を行う農業者は11年の約1.4万経営体から17年には約2.3万へと6割程度増加した。政府は農業法人化を推進しており、23年までに5万経営体に増やす目標を掲げている。

一経営体当たりの規模拡大が進むに従い、従業員の数も増加傾向だ。法人および個人に常時雇用されている「雇用農業者」は、11年の約18万人から17年には24万人に増えた。それでもなお十分ではない。16年4月には日本農業法人協会がJA全農、JA全中、農林中金などに呼び掛けて、「農業労働力支援協議会」を設立している。農業人材不足に対する解決策の協議・検討がその目的だ。同協議会によると、法人数の増加、およびその規模拡大のペースに雇用の伸びが追いつかず、雇用農業者は、現在約7万人不足している。このギャップが年々拡大し、5年後には13万人が不足する事態も避けられないとしている。

人材難に対し、農業界がこれまで受け身の姿勢だったわけではなく、高齢者、女性、障害者など多様な人材を積極的に雇用している。また、ロボットやドローンなどICT技術を活用しながら作業を省力化し、労力不足を補う農業者も少なくない。しかし、日本農業の競争力の源泉でもある高品質な農畜産物生産は、人手によるきめ細かな作業が欠かせない。また、稲作など作業の機械化が進んでいる作物もあれば、果樹などはほぼ手作業に頼らざるを得ない作物もある。

技能実習生の実習期間を延長

日本人の労働力だけでは農業を維持できない状況は、最近生まれたわけではない。生産現場ではすでに1990年代から、外国人技能実習制度を活用した農業経営が行われている。現在、およそ2.5万人の技能実習生が農業分野で活躍している。「技能実習生なしには、経営が成り立たない」という農業経営者の声を聞くことも珍しくない。

ただし、実習制度である以上、さまざまな制約がある。研修期間は最長3年間で、一経営体が受け入れられる研修生の人数制限もある。また、実習対象となる職種や作業も決められており、研修に役立たないとされる単純作業は除外されている。生産現場からは3年という期間に対し、「技術を覚えた頃に帰国してしまう」「常に技術が未熟な研修生への指導に時間が取られる」など政府に善処を求める声が多く出ていた。

こういった背景を踏まえ、政府が近年、次々に外国人材拡大に関連する政策を打ち出した。その一つが、優良な受け入れ先、監理団体に限定し、技能実習期間を最大3年から5年まで延長できるようにする措置だ。2017年11月に施行された「外国人の実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律」に盛り込まれている。

戦略特区での外国人就労解禁と「骨太の方針」

二つめの政策が、国家戦略特区における外国人の就労解禁だ。外国人材活用を求める農業者と外国人就労者の間に人材派遣会社が入り、外国人の人権に配慮した監理体制を整えた上で、一定水準以上の技能等を有する外国人の入国・就労を認めるというものだ。農業分野で外国人の「就労」を認めたのは初めてのことだ。一経営体当たりの人数制限もない。ただし、就労期間は通算3年で、永住は認められない。国家戦略特区の指定を受けた10区域のうち、早くも愛知県が実施を表明し、2018年8月には人材派遣企業も選定された。

こうした動きに対し、農業が盛んで、技能実習生を多く活用している産地からは「国家戦略特区に限定せず、全国での就労解禁をしてもらいたい」という声が多く聞かれる。

長崎県島原半島一帯の約120名の農業者を組織し、その農産物を集荷し、生協などに販売する「農事組合法人ながさき南部生産組合」の近藤一海(かずみ)代表理事は、「労働力が確保できないため、規模拡大をしようにもできない農業者が多い」と指摘する。規模拡大できなければ、農家数減少に伴う国内生産力低下は避けられず、その隙間を縫うように輸入農産物が増加する可能性がある。「規制を緩めないままでは、輸入農産物は必然的に増える。特区限定の制度にせず、一刻も早い全国解禁が必要」と語る。

そして18年6月、三つめの政策が打ち出された。「骨太の方針2018」において、新たな外国人材の受け入れ制度が閣議決定されたのだ。詳細が固まるのは今後だが、在留期間は5年、対象業種の1つに農業も候補として挙がっている。対象者は、一定水準以上の技能を有する外国人であり、技能実習を終えた外国人も含まれる。技能実習生として来日した外国人が新たな受け入れ制度を活用すれば、最大で10年在留することになり、農業側の不満は解消される。

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  • [2018.10.30]

農業ジャーナリスト。愛知県生まれ。1986年京都外国語大学英米語学科卒業。日本交通公社(JTB)勤務を経て、90年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。99年以降農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分は農村での取材。2010年4月から毎日新聞社の「経済観測」、11年から朝日新聞社「WEBRONZA」で定期的に執筆している。主な著書は日本経済新聞出版社刊の『「農」が変える食ビジネス』(2004年)、『強い農業をつくる』(2009年)。

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