長期政権となった安倍内閣の評価と今後

強大な権限活用し実績挙げる:丸6年を迎える安倍晋三首相の2次政権

政治・外交

自民党総裁選で3選を果たした安倍晋三首相。長期政権の維持に成功した要因は何か。内政を中心にこれまでの実績を概観し、当面の課題について考える。

在職日数最長の長期政権へ

安倍晋三首相は2018年9月20日に行われた自民党総裁選に勝利、10月2日に内閣を改造する一方で、自民党の役員人事を行った。

改造されたものの、菅義偉官房長官や麻生太郎・副首相兼財務相、河野太郎外相、茂木敏充経済再生担当相は留任した。内閣の核は変わらなかったのである。役員人事では二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長を留任させる一方、総務会長に加藤勝信前厚生労働相、選挙対策委員長に甘利明元経済財政相を起用した。さらに、憲法改正推進本部長には下村博文元文部科学相を任命した。

首相は憲法改正に向けた意欲をこれまで再三示してきた。自民党が国会に提案する改憲案を取りまとめるのは憲法改正推進本部であり、了承するのは総務会である。下村氏や加藤氏は首相と近く、首相は憲法改正に向けた党内手続きに自らの意向を十分反映させられる態勢を作ったということである。

2次政権発足後、丸6年が経とうとしている。この間、安倍首相は安定的に政権を運営することに成功してきた。これは支持率の推移に端的に表れている。今年は長期間、不支持率が支持率を上回る状況が続いたものの、ほとんどの期間で支持率が不支持率を上回っている。首相が3年の任期を満了すれば、安倍首相の在職日数は1次内閣の任期と合わせて、戦前戦後を通じて1位の桂太郎をも超えることになる。2012年12月復帰後から数えても、8年を超える長期政権となる。

本稿では、首相が長期政権の維持に成功した要因を分析するとともに、内政を中心にこれまでの政権の実績について概観したい。その上で当面の課題について論じる。

制度改革で強大化した首相の権限

安倍首相がこれまで長期政権を維持できた理由として、1990年代以降の首相権力の強化がある。94年の政治改革により従来の中選挙区制度が小選挙区・比例代表制に改められた。一方、政治資金に対する規正が強化され、政党助成金が取り入れられた。

この結果、自民党内の権力構造は大きく変わった。中選挙区制の時代には、衆議院議員総選挙では個人本位の選挙戦が行われており、無所属の候補として勝利することが容易であった。しかし、小選挙区・比例代表制に変わり、選挙は政党本位で行われるようになり、無所属で当選することは難しくなった。また政治資金への規正が強化され、政党助成金が導入された結果、政治資金は政党に集中するようになり政党以外の組織や政治家個人が政治資金を集めることは難しくなった。

この結果、党執行部が握る公認権や政治資金配分権が大きな意味を持つようになった。執行部の頂点にいるのは首相である。

こうして自民党の議員や派閥にとって、首相が推す政策に反対することが以前より困難になった。 また、首相は以前より自由に閣僚人事権を行使できるようになった。55年体制の下で、首相は組閣の際に派閥からの推薦を尊重しなくてはならなかった。こうした配慮をする必要は徐々に薄れてきている。

さらに2001年の省庁再編は政策立案をするための首相の権限を強化し、補佐機構を充実させた。内閣法4条や内閣法12条が改正され、首相は政策を自ら策定する権限を獲得する一方、政策立案が内閣官房の正式な事務として認められた。また、首相の政策形成を支えるために内閣府や内閣府担当大臣が導入された。

改革以前の内閣法の仕組みでは政策を立案する権限を持つのは基本的に大臣であった。法律上、首相が立案できる政策分野はほとんどなく、首相は調整権限と政策が決まった後の指揮権限を持つにとどまった。改革の結果、首相は内閣官房や内閣府を活用し、政策形成を主導することができるようになった。

安倍首相はこうした強まった首相の権限を活用しながら政権を運営している。留意しなくてはならないのは、安倍内閣は、首相の法的権限をさらに強化していることである。2013年11月には安全保障会議設置法改正案を成立させ、同12月と2014年1月には国家安全保障会議、内閣安全保障局をそれぞれ創設した。この結果、安全保障政策を立案する上での首相の権限が強化された。14年4月には国家公務員制度改革法案を成立させ、5月には内閣人事局を新設した。この結果、首相の各省の幹部人事や組織編成に対する影響力が拡大した。

工夫をこらした政権運営

制度に頼るだけではなく、安倍首相は1次内閣時に比べ、政権運営に工夫をしている。例えば首相、官房長官、官房副長官、総理秘書官が日常的に懇談する機会を設け、政権中枢の意思疎通を円滑にするように努めている(※1)

また、重視する政策の数を限定し、内閣が現時点でどのような目的を追求しているのか国民に分かりやすく示すよう努めている。1次政権は構造改革、格差対策、教育再生、安全保障政策、憲法改正手続きなどと短期間にあまりに多くの政策課題に取り組もうとした。このため、国民は政権がどのような目標を追求しているのか十分理解できず、結果的に世論の批判を浴びることになった。例えば、2007年の「骨太の方針」について「総花的な課題の列挙では不十分だ」と、厳しい評価を下された(※2)。また首相の政権運営全般についても「これまでのところ国民に強いリーダーシップを印象づけることに成功したとは言い難い」と批判されている(※3)

これに対し、2次政権は15年終わりころまではいわゆる「三本の矢」といわれる経済成長政策と安保政策を中心に取り組んだ。15年の秋以降は「一億総活躍」「働き方改革」を打ち出し、社会福祉・労働政策を重視する姿勢を示してきた。

経済、労働政策で一定の実績挙げる

次に政権が残した実績を見ていきたい。マクロ経済面では2013年以降、16年を除けばインフレ率がプラスとなり、デフレ状態を脱すことができた。13年から17年までのGDP成長率は平均1.276%で、名目GDPは12年の494兆円から17年の546兆円に増えている。14年4月には消費税率を8%に引き上げ、2度の延期ののち、19年10月から10%とする予定である。

成長政策の面では電力自由化、法人税減税、コーポレートガバナンス改革などが実現している。また、訪日外国人の拡大に努め、昨年はその数が2860万人に上り、12年に比べ3兆円ほど経常収支の好転をもたらしている。

社会福祉・労働政策の面では労働時間に対する規制を強化し、従来は青天井もあり得た残業時間に例外なき上限を設けた。また、労働力供給が拡大し、政権発足後、17年7月までに就業者数は400万人増えた。

対外政策面では、日・EU経済連携協定を17年12月に、そして、TPP11交渉を18年3月に妥結させている。

安全保障分野では国家安全保障会議(日本版NSC)の設置し、国としての安全保障政策の立案能力を高める一方、15年に安保関連法制を成立させ、一定の条件のもとで集団的自衛権の行使を可能にした。

(※1) ^ 田崎史郎『安倍官邸の正体』講談社現代新書、2014年。

(※2) ^ 2007年6月20日『日本経済新聞』

(※3) ^ 2007年1月18日『日本経済新聞』

権力拡大の副作用:森友・加計問題

全般的に首相は安定的に政権を運営してきた。しかし、首相の権力の強大化は副作用も伴うことになった。2017年2月には森友学園問題が発覚、3月以降は加計学園の問題が注目を集めた。両問題では学園の経営者が首相あるいはその周辺と近い関係を持っていたために、優遇的な扱いを受けたのではないか、あるいは官僚が首相の意向を「忖度」したのではないかという疑念を多くの人が抱くことになった。さらに森友学園の問題では、国有地払い下げ決定の決済文書が改ざんされるという不祥事すら起きてしまった。

衆院財務金融委員会で、財務省決裁文書の改ざんについて陳謝する財務省の太田充理財局長(前列右)。同左は麻生太郎副総理兼財務相=2018年3月16日、国会内(時事)

首相は自らの関与を否定し続けている。しかしながら、説明に満足している国民は少ない。7月の読売新聞の世論調査では、77%もの回答者が安倍首相の説明に納得していないと答えている。総裁選における首相の党員票の獲得率が55%に止まった背景には、この二つの問題がある。

二つの問題がここまで注目を集めることになった背景に、首相の権力の拡大があることは間違いない。例えば加計学園の問題は、首相自身が扱う戦略特区という政策を巡って起きてしまった。

3選後の課題は山積

3選を果たした安倍晋三首相はどのような政策課題に取り組むのだろうか。

当面の課題は外国人労働者の受け入れを拡大するため、出入国管理法及び難民認定法改正案などを成立させ、「特定技能」という外国人在留資格を新設することである。法案が成立すれば、農業、漁業、建設業、外食業、介護などの業種で外国人労働者の受け入れが進むと考えられている。

より中期的な課題としては、社会福祉・労働政策に引き続き取り組むはずである。首相は総裁選中に、内閣改造後に「全世代型社会保障改革」に取り組むと表明している(※4)。 その一つとして、高齢者、より具体的には65歳以上の人々の雇用促進に取り組む考えを示している。未来投資会議を中心に具体案が立案される見込みである。

もう一つは現役世代への社会保障の拡大である。安倍首相は2017年9月の衆議院解散の際、消費税率を引き上げることで得られる増収分の一部を教育無償化のために使う考えを示した。その後、人生100年時代構想会議が発足し、18年6月に無償化の具体的方針を定めた。

安倍内閣はこの方針に沿って、今後は幼児教育および高等教育の大幅な無償化に踏み切る予定である。例えば、19年10月から3歳から5歳児までの全面無償化、20年4月からは低所得者層への高等教育の無償化を実施する予定である。

対外経済政策で特に重要なのは米国との日米物品協定(TAG)交渉である。18年9月26日に日米首脳会議で安倍首相とトランプ大統領が合意し、今後は茂木経済財政担当相とライトハイザーUSTR代表との間で主に物品に関する関税引き下げ交渉が行われることになる。

トランプ大統領は日本を含め、米国が各国と抱える貿易赤字を問題視してきた(2017年の日本との貿易赤字は688億ドル)。遅くとも5月以降、米国が輸入する自動車に関税をかける考えを示してきた。日米首脳はTAG交渉期間中、自動車関税に手を付けないことで合意しており、日本は当面、自動車に関税を掛けられることを回避できた。ただ、今後、米国側が厳しい要求を行う場合、安倍首相はかなりのエネルギーを費消しなくてはならない恐れがある。

さらに、19年はさまざまな重要な儀式、国際会議、政治日程が目白押しである。 4月30日に天皇陛下が退位され、5月1日に皇太子殿下が新天皇に即位し、10月には即位の礼が行われる。6月にはG20首脳会議が大阪で、8月にはTICAD(アフリカ開発会議)が横浜で開催される。 首相は一連の儀式、会議を滞りなく行わなくてはならない。

この間に4月には統一地方選挙、夏には参議院議員選挙が行われ、さらに10月には消費税率が引き上げられる予定である。

憲法改正:内閣支持率高まれば発議も

最後に安倍首相が熱意を示してきた憲法改正を試みる可能性について検討したい。

すでに自民党は、憲法で自衛隊を位置付けることを含め4つの改憲案をまとめている。首相は総裁選以前、臨時国会に自民党としての改憲案を提出することを表明していた。しかし、臨時国会では自民党としての考えを示すにとどめ、改憲案の正式な提案は見送る方針を示している。

問題は、首相が近い将来に憲法の改正の国会発議を目指すのかということである。

ここで、改憲の発議と参議院議員選挙の関係が問題となる。現在、いわゆる「改憲勢力」、すなわち、改憲に理解を示す議員が衆参両院で3分の2以上の議席を占めている。参院選後の議席配分は不透明である。このため、首相は3分の2以上の議席を確保している間に改憲を目指そうとするかもしれない。この場合、来年の通常国会で発議し、参院選は改憲の国民投票とのダブル選挙になる可能性がある。

ただ、首相が9条改正を目指す場合、世論の一部から強い反発を招く恐れがあり、国民投票の行方は不透明である。また、参院選で不利に働く可能性がある。それでも19年中の発議の可能性を否定できないのは、選挙後に与党が参議院で過半数議席を割り込むほど負けるということはなかなか考えづらいからである。

また、内閣支持率も発議の決定に大きな影響を及ぼす。支持率が高ければ、発議の可能性は高まる。

自民党の役員人事から見て、安倍首相が憲法改正を重要な課題として考えていることは間違いない。支持率の動向が参院選に及ぼす可能性を考えながら、発議を目指すのか判断することになるだろう。

バナー写真:自民党総裁選で3選を果たし、総裁室の椅子に座る安倍晋三首相=2018年9月20日、東京・永田町の同党本部(時事)

(※4) ^ 『朝日新聞』2018年9月15日。

自民党 安倍晋三