長期政権となった安倍内閣の評価と今後

「ポスト安倍」は誰? 自民党の「首相候補」たち

政治・外交

「ポスト安倍」をうかがう自民党政治家らの横顔、党内の立場などについて、ベテランの政治記者が現状を分析した。

若手ながら注目度抜群の小泉氏

「ポスト安倍」とは、安倍晋三首相の後を務める可能性を持つ「総裁、首相候補」のことだが、自民党で派閥政治が絶頂を迎えていた1960年代から80年代にかけてと現在ではタイプが全く違っている。

派閥全盛期はいずれも、大なり小なり「派閥」という議員集団を率いる「領袖」か派閥幹部ら実力者だった。それは自民党の派閥が、「領袖が総裁選を勝ち抜くための基礎的な集団」と認識されていたことを考えれば当然のことだった。

しかし、現在、「ポスト安倍」に挙げられる人物は領袖らに限らない。筆頭は衆院当選4回で若干37歳、通常であれば一若手議員に過ぎないはずの小泉進次郎衆院議員だ。「誰が次の首相にふさわしいか」を問うメディアの世論調査では、石破茂元自民党幹事長とトップを争う。

高い内閣支持率を背景に5年半余り首相を務めた小泉純一郎を父に、防衛庁長官だった小泉純也を祖父、入れ墨大臣と呼ばれた小泉又次郎を曽祖父に持つ典型的な世襲議員。端正な顔立ちと切れ味のいいコメント、演説などで得た集票力によって「政界のプリンス」の地位を確立した。

政策にも関心が強く、党の農林部会長時代には農協改革など大胆な農業政策を進め、党組織「2020年以降の経済財政構想小委員会」の事実上のトップとして企業と労働者が保険料を負担して幼児教育や保育を無償にする「こども保険」創設を提言している。世論を喚起する劇場型政治を得意とした父とは違って、解決策をコンセンサスを得ながらとりまとめていく「地に足を付ける」手法だ。

慎重な性格は政局対応にも現れる。地方票や議員票に対する影響を最小限にとどめるため、9月の自民党総裁選で石破氏に投票することをメディアに明らかにしたのは投開票直前だった。このタイミングが「中途半端」「優柔不断」という批判を呼んだが、注目度、期待感の高さを浮き彫りにした。

小泉氏がポスト安倍の有力候補という事実は、総裁、首相の力の源泉が、率いる国会議員の数から国政選挙での集票力に代わったことを如実に象徴している。

「実力者」石破氏の先行きは不透明

20人と規模は小さいもののかつての自民党と同様、派閥を率いる領袖型なのが石破氏(61歳)だ。衆院当選11回、防衛庁長官、防衛相を経験した「安全保障」通で、憲法9条の抜本改正を唱える。

安全保障のみならず農林水産相、地方創生相なども歴任し、党幹事長も務めた実力者だ。会長を務める「水月会」を基盤として9月の総裁選に立候補、連続3選を目指す安倍首相に挑戦した。国会議員票では18%の得票にとどまったが、党員党友票では45%を獲得する善戦だった。

しかし、3年後の次回は岸田文雄政調会長らが立候補してくるのは確実な上、最大派閥「清和会」を事実上率いる安倍首相や党内の若手に影響力を持つ菅義偉官房長官が、今回戦いを挑んできた石破氏の勝利阻止を図ってくる可能性が高く、先行きは不透明だ。

次を狙う岸田氏の戦略は?

同じく派閥領袖だが、現職の安倍首相との戦いを回避した『非戦型』が岸田文雄政調会長(61歳)だ。衆院当選9回、自民党の保守本流である「宏池会」の嫡流を自負する。安倍政権で外相、政調会長を務めた。ただ、安倍首相とは理念、政策的にも正反対で、今回の総裁選でも主戦論が派内にもあったが、2015年の前回に続き立候補を見送っている。

衆議院予算委員会で質問する自民党の岸田文雄政調会長=2018年11月1日、国会内(時事)

しかし、不出馬と安倍首相支持の判断、表明が遅かったことから「政治センスのなさ」が指摘される。節目節目での発信力も低く、「次の首相」調査での支持率では小泉、石破両氏の後塵を拝し続けている。さらに次回総裁選で、安倍首相から支持を受ける事実上の禅譲路線なのか、支持を期待しない自立路線なのかも定まっておらず、派内からも総裁選勝利への戦略を不安視する声がある。

安倍陣営の支援が必要な加藤氏、河野氏

領袖以外の禅譲型として急浮上してきているのが、加藤勝信党総務会長(62歳、衆院当選6回)と河野太郎外相(55歳、同8回)だ。加藤氏は安倍首相に極めて近く、竹下亘前総務会長率いる経世会に属しながらも「安倍一族」と呼ばれる立ち位置にある。最初の首相を辞任して以後も安倍氏を支え続け、政権復帰後は官房副長官、1億総活躍担当相、厚生労働相などを務めた後、総務会長に抜てきされている。

首相官邸に入る加藤勝信自民党総務会長=2018年11月12日、東京・永田町(時事)

河野氏は、安倍首相の盟友である麻生太郎副総理兼財務相率いる「志公会」所属だが、麻生氏は、河野氏の父・洋平元衆院議長の「大勇会」の有力メンバーだった。若手時代から歯に衣着せぬ発言で、異端児的な存在だったが、安倍政権で国家公安委員長に就任。昨年、後見人的な存在の菅長官の推薦もあり、外相に起用された。加藤、河野両氏とも総裁選に出馬する際は安倍陣営の全面的な支援を受けることが必要となる。

“非世襲”では茂木氏が存在感高める

いずれのタイプには当てはまらないのが、野田聖子前総務相(58歳、当選9回)だ。37歳で郵政相となり、若手時代から「初の女性総理」候補と目されてきた。「政策論争は行われるべきだ」として前回、今回と派閥を否定しつつ独自立候補を目指したが推薦人20人が確保できず、断念した。この経験を生かして自身を支持してくれた議員を中心に事実上の派閥化を目指す。

首相候補としてのタイプはさまざまだが全員に共通するのが世襲であることだ。首相を父に持つ小泉氏、衆院議長を父に、副総理の一郎を祖父に持つ河野氏が典型だが、石破氏の父は鳥取県知事、自治相経験者、岸田氏は父、祖父とも衆院議員、加藤氏は農林水産相を務めた六月氏を義父に、野田氏は建設相経験者を祖父に持つ。

議員になる前の職業はサラリーマン、秘書、官僚とさまざまだが、地盤、知名度、資金源を引き継ぐことから若くして政界入りすることが多い世襲議員に偏っているのが特徴だ。非世襲では茂木敏充経済再生相(63歳、当選9回)が存在感を高めている。丸紅、読売新聞記者、マッキンゼーを経て、日本新党から初当選を果たし、その後、自民党入りした。内政、外政問わない実務、処理能力の高さで、政権幹部の地位を獲得した。足場となる所属派閥の経世会には加藤氏の他、小渕恵三元首相が父の小渕優子元経済産業相(44歳、衆院当選7回)を推す声もあり、派閥の意思統一が必要となる。

衆議院本会議に臨む河野太郎外相(右)と茂木敏充経済再生担当相=2018年11月20日、国会内(時事)

また、政権の司令塔である菅義偉官房長官(69歳、衆院当選8回)に期待する声も強まっている。秋田県の農家出身で高校卒業後に上京、働きながら大学を卒業し、国会議員秘書、横浜市議を経て政界入りしたたたき上げで、危機管理から政策調整までを一手に握る。菅氏の下に集う若手議員も40人規模でいるが、本人は総裁、首相への意欲を一貫して強く否定しており、状況の大きな変化が前提となる。

非世襲では茂木、菅両氏だけという状況は、自民党で世襲ではない議員が総裁、首相候補になるには政策、政局両面で高い能力を持っていなければならないことを浮き彫りにしている。

バナー写真:自民党総裁選挙を終え、記者団の質問に答える小泉進次郎氏(中央)=2018年9月20日、東京・永田町の同党本部(時事)

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