対立続く日韓:関係改善は可能か

若い世代の相互理解促進に期待:日韓交流の現場から

政治・外交 国際交流

日韓関係の悪化に伴い、自治体レベルの交流や相互往来などにも負の影響が出ている。筆者は、両国間の交流は厚みを増しており、若い世代の交流を途絶えさせてはならないと指摘する。

自治体間交流にも深刻な影響

日韓交流の現場ではいま、「日韓関係は史上最悪だが、こういう時こそ交流を」という枕ことばで挨拶が始まる状況が続いている。「最悪の日韓関係」という言葉は、過去にも何度か使われている。例えば、竹島の領有権問題や日本の歴史教科書問題などで関係が悪化した2005年。この年は国交正常化40周年に当たる「日韓友情年」として、両国間で約700件もの文化交流行事が計画されていたにもかかわらず、韓国国会の文化観光委員会が日韓友情年イベントの全面再検討を促す決議案を採択し、実際にいくつもの交流事業が延期や中止に追い込まれた。結果的に「日韓友情年」であったはずの2005年は、「国交正常化以来」最悪の日韓関係と言われた。

現在は、元徴用工問題や輸出規制強化といった問題が加わり、今度は「史上」最悪の日韓関係と称されている。草の根レベルの交流事業の中止や参加者のキャンセルはあまり起きていないが、当時と大きく異なるのは、地方自治体間の交流に深刻な影響が生じていることである。筆者の知る限り、韓国の30近くの地方自治体が日本の姉妹都市や友好都市の提携先に交流事業の中止を半ば一方的に通告し、突然の事態に困惑した日本の自治体が対応に追われるというケースが相次いでいる。

その発端となったのが、2019年7月に「文在寅政権と歩調を合わせるため」として、日本の姉妹都市との行政交流や民間交流への支援事業を中断すると発表した釜山市である。ただ、こうした政治的忖度ともいえる判断に反発する動きもあった。長年にわたり長崎県対馬市との交流に携わってきた釜山市民は、毎年恒例となっている対馬での朝鮮通信使行列再演行事の参加まで中止しようとした釜山市長を説き伏せ、行事を継続させた。対馬をはじめとする日本の市民らと協力し、2017年に「朝鮮通信使」の記録をユネスコの世界記憶遺産に登録することに成功した記憶があり、日韓交流に寄せる思いには格別のものがあったためだ。

山口県下関市で開かれた「朝鮮通信使」の行列を再現するイベント。下関と韓国・釜山の両市民ら約160人が参加し、市中心部を練り歩いた。=2019年8月24日(時事)
山口県下関市で開かれた「朝鮮通信使」の行列を再現するイベント。下関と韓国・釜山の両市民ら約160人が参加し、市中心部を練り歩いた。=2019年8月24日(時事)

不買運動の背後にSNSの同調圧力

日韓関係の悪化に拍車をかけているのは、両国のマスメディアだと言われている。一部メディアによる客観性を欠いた偏向報道は、インターネット上のニュースサイトやSNSで瞬く間に拡散していく。現在、韓国の大手報道機関では朝鮮日報、東亜日報、中央日報、ハンギョレ新聞、聯合ニュースなどが韓国語の記事を日本語に訳し、自社ウェブサイトに掲載している。元は韓国の読者向けに書かれたこれらのニュースは、大手検索サイトにも転載されるため目にする機会が急増しているが、これが日本で嫌韓感情を生み、煽る一因となっているのではないかという指摘がある。

日本には、共同通信を除いて韓国語で記事を配信する大手メディアはない。このため、韓国人が読む日本関連記事の大半は韓国の記者のフィルターを通して書かれたものとなる。日本関連記事の中には韓国内で注目や関心を引きそうな内容に偏ったものもあれば、反文在寅政権の大規模デモには触れないのに、対日批判デモの規模を実際より誇張して報道するなど、不正確で客観性を欠く記事もある。

日韓関係の悪化に加担しているのは大手メディアだけではない。2005年の状況と大きく異なるのが、SNSの拡大である。双方向のやりとりが可能なSNSは情報源としてだけでなく同調圧力として強く作用する。韓国で現在、日本製品の不買運動や日本旅行に行かない「NO JAPAN」運動が広がっているのは、SNSの存在が大きい。訪日韓国人客の約半数を占めている10~20代の若者に聞くと、「NO JAPAN」運動に賛同や参加する理由には「抗議に賛同することで我々の反発は大きいということを安倍政権に分かってもらう」や「『独立運動はできなかったけど不買運動はします』というスローガン通り、愛国者だと認められたい承認欲求」があると答えが返ってくる。韓国内で深刻化している就職難を、さらに悪化させかねない対韓輸出規制に踏み切った安倍政権への反発もうかがえる。

一方、「『NO JAPAN』を誰かに強要されたくないし、自分も強要したくない。でも周りから批判もされたくないから、合わせるしかない」という消極的な参加理由もある。「日本製品をレジに持っていくのは人目が気になるが、ネットで買えば誰にもわからないから大丈夫」や「インスタで自慢するのも旅行の一部だったが、叩かれるのは嫌だから日本には静かに行ってSNSには載せないようにしている」といった「NO JAPAN」に参加しない若者もいる。

「まるで共産主義国家のように個人の自由を侵害する雰囲気が嫌だ。買いたいものがあったら買う」と同調圧力への反発を訴える者もいる。少し上の世代では「親を連れての家族旅行に最適だった日本に行きにくくなり残念。東南アジアは遠いし食べ物も合わない。日韓関係が早く良くなってほしい」と不満を感じる人もいる。

しかし、こうした意見をSNSで不用意につぶやくと非難が殺到する。SNS上で自分が少数派だと思えば孤立を恐れて沈黙せざるを得ない。皆が皆、必ずしも同じ方向を向いているわけではないのだが、「沈黙の螺旋」状態に陥ってしまうSNS空間が、日韓関係の膠着(こうちゃく)化を招いているともいえる。

厚みを増す民間の交流

日韓関係が「史上最悪」となり、交流事業が中止され不買運動が拡大しても、それは両国関係の一面でしかない。2005年に始まった「日韓交流おまつり」は、8月にソウル、9月に東京でそれぞれ無事に催された。ソウルは規模を縮小しての開催となったが、東京は過去2番目に多い8万人近い来場者を記録する盛況ぶりであった。

このように、1965年の国交回復後、日韓は民間交流の経験を着々と積み上げてきた。訪韓日本人数が300万人を突破した2009年には、女性が初めて50%を超えた。最近の訪日韓国人数の急減とは対照的に、日本では10~20代の女性を中心に訪韓人数が増えている。19年3月には国交正常化以来、月別で過去最高の約37万5000人を記録し、19年上半期の日本人の海外旅行先は韓国が1位となっている。

一方、訪日韓国人数は、18年に韓国の全人口の7分の1に当たる753万人に達した。言論NPOの日韓世論調査によると、訪日者の増加と軌を一にして「日本に良い印象を持つ」韓国人が年々増加し、17年には過去最高の31.7%に上ったという。

互いの言語を学ぶ若者も両国ともに増加傾向にある。日本語を学ぶ韓国の高校生は約35万人に上る。中国語に押されて一時は減少していたものの「日本で就職したい」という若い世代を中心に日本語学習者は増えている。

日本では10代の韓国語学習者が増えている。全国で約300の高校が韓国語を教えており、学んでいる生徒数は約1万人に上る。1993年に始まったハングル能力検定試験は延べ約42万人が受験し、2018年は受験者の約3人に1人が10代だった。また、韓国の学校と姉妹校締結や定期的な交流を行っている高校は全国で約200校ある。例えば、都立名門校の日比谷高校では「互いに分かり合おうという経験が重要」(武内彰校長)だとして、姉妹校を提携した韓国の高校と短期の交換留学を行っている。

18年時点で日本に留学中の韓国人学生は約1万7000人、韓国に留学する日本人は年間で約3800人に上る。民間レベルでの日韓交流は層が広がり、厚みが増しつつある。

政治が若い世代への後押しを

韓国を訪れた日本人学生は、だれもが判で押したように同じことを言う。「ニュースを見て、日本が嫌いな人が多いイメージだったが、来てみたら全然違った」「日本好きな人が多く驚いた。日本で見たテレビの報道と異なっていた」というものだ。そして、自分の目で韓国を見て、韓国人と実際に話すことで、日韓のメディアは客観的な情報を発信していないのではないかと疑問を口にする。日本を訪れる韓国人学生も、同様の反応を示す。

日韓関係がどれだけ悪化しても、若い世代の交流を途絶えさせてはならない。各種の世論調査をみると、両国ともに年齢が若いほど相手国に対する好感度が高いことが明らかになっている。日韓の若者が互いに抱いている肯定的で前向きな気持ちを損ねるのは、両国にとって大きな損失となる。印象論だけでなく、若い世代には互いの社会構造の違いや、戦後の日韓関係史といった知識も身に付けてほしい。将来この世代が影響力を増していくことを見越して、日韓の若者が互いを認め合い、尊重し合う気持ちを育むことこそが政治の役割であろう。短期的に効果が見られないからといって、日韓間の青少年交流の予算削減を唱える声が上がるのは残念でならない。

近年、学生向けの国際交流プログラムへの参加者には、男女の不均衡が目立つ。特に、日韓交流に関しては女子学生が参加者の8割前後を占めている。国際社会における日本の未来を安定させるためにも、男子学生の目をもっと海外に向けさせ不均衡をただす政策的取り組みは急務であると思われる。

戦争の歴史を繰り返したドイツとフランスの間では、1963年制定のエリゼ条約により、56年間にわたって約800万人の独仏の青少年が交流し、相互理解を深めてきた。日本政府も日韓文化交流基金などの民間組織を通じて韓国との青少年交流を進めてきたが、実績数はこの35年間で約4万人にすぎない。

交流の成果は、すぐ目に見えるものばかりではない。だが、多くの種をまき続けなければ実りはない。薪をくべ続けなければ希望という灯は消えてしまう。日韓の若者が憎み合うような未来を望む人などいないだろう。

バナー写真:「日韓交流おまつり」で披露された日韓の打楽器の共演=2019年9月28日、東京都千代田区(時事)

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