菅新政権の課題

「間違った仕様」にしないための知恵を出したい : デジタル庁の見取り図(前編)

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Zホールディングス社長・最高経営責任者(CEO)の川邊健太郎氏が、菅政権のデジタル庁創設に当たり、自らの提言を記した「在宅勤務八策」をまとめた。既存の民間サービスとの連携を図り、人々の幸福の増進につなげるものにすべきだとしている。

川邊 健太郎 KAWABE Kentarō

Zホールディングス株式会社 代表取締役社長・最高経営責任者(CEO)。1974年生まれ。東京都出身。青山学院大学法学部卒。大学在学中の95年、ネットベンチャーの電脳隊を設立。99年、PIMを設立。2000年にヤフーとPIMの合併に伴いヤフー(現・Zホールディングス)入社。「Yahoo!ニュース」などの責任者を経て、12年に副社長、18年にCEOにそれぞれ就任。19年10月から現職。

公共部門では実現できていなかった「ネットで便利」

竹中 菅義偉首相がデジタル庁構想を自らの政権の主要政策に掲げている。2020年9月30日にデジタル改革関連法案準備室を発足その後させ、平井卓也デジタル改革担当相が室長に就いた。(※1)

新型コロナウイルスをめぐる問題では、特別定額給付金のオンライン申請が混乱して、結局何カ月も支払いが出来なかったり、保健所の情報をファクスでわざわざ報告したりするといった実態があり、国民は大きく失望した。

川邊 10万円ぐらいの現金給付をするのにこれだけ時間がかかるのは、恥ずかしい。私も忸怩(じくじ)たる思いを持った。忸怩たるというのは、自分たちなりにネットを通じて日本を便利にしてきたつもりが、こと公共部門になると全然話にならない状況で、われわれの働きかけが足りなかったなと思った。

コロナで在宅勤務をしていたので、ネットを通じてさまざまな人にこの話をした。デジタル化の課題はまさに一つの政権が全力で取り組む課題だなと感じたが、その時は自分個人の知的好奇心で終わっていた。

その後、菅首相からデジタル庁の話が出て、それなら自分としても考えを世に出すべきだと思った。

モノづくりの格言としてヤフージャパン創業者の井上雅博さんがよく言っていたのは「間違った仕様で正しく作るな」。間違わないように知恵を出していきたい。当初は(自らが代表理事を務める)日本IT団体連盟で取りまとめることも考えたが、それでは時間がかかるので、デジタル庁・私案として「在宅勤務八策」を個人として発表した。

【在宅勤務八策(1~4)】

策1 目的・ビジョン: デジタル庁の創設の目的は第一に日本に住む人のWellbeing(幸福)の増進。少なくとも煩雑な役所事務から解放され、空いた時間をもっと自分の為に使えるのは幸せに繋がる。第二に事務の効率化やデータ連携による創造性の増加が経済成長や長寿化の原動力となる。

策2 コンセプト: デジタル庁が各省庁や自治体など公共部門のシステム外注先になってはいけない。むしろデジタル化においては全公共部門のCTO、チーフアーキテクトとならねばならない。各部門との対話を重視しつつ、全公共部門のデジタル化の予算編成と重要開発の意思決定権を掌握して改革を断行する。

策3 人: 策4のシステム構成のうち少なくともバックエンド部分はデジタル庁プロパーのソフトウェアエンジニア達で開発すべき。でないと日々の継続的改善が難しい。その為に、公務員の定数構成等を見直して公務員エンジニアの人員増をできるようにする。長官はエンジニア出身者が望ましい。

策4 システム構成: 疎結合化、集約と分散のバランスが重要。バックエンドの少なくとも提供する価値のコアとなる部分は全公共部門共通のシステムやクラウド内で構築されるべき。これが整備されていないので各公共部門ごとに利用がまちまちとなり、今日の“デジタル敗戦”的状況が生まれている。

*策5~策8は(下)で紹介

国内のバックエンド人材育成も

竹中 現状の公共部門のコンピューターシステムは、各省、各地方公共団体が全部バラバラである。これを統一したものに置き換えることは可能だろうか。

川邊 サービスの基盤を共通のプラットフォームに替えて、公共部門は一体運用したほうがよい。それぞれの個別のコンピュータだけでしか動かないデータを「疎結合(独立性を保ちながら緩やかに連携させること)」して、関連する様々なデータとつなげていくことが今後は必要だ。

デジタル庁のシステムだが、国が使うわけなので安全保障、経済安全保障上の問題をクリアする必要がある。日本人で「バックエンド」を作れる技術者は、すでに外資系のクラウド技術の発達で数が少なくなっている。10年後には日本人だけではできなくなるかもしれないギリギリの状況ではないか、そういう意味ではいいタイミングではある。

 ヤフーは自前でクラウドを構築している。そういうところで働ける日本人技術者は少なくなっている。国としては今後のデジタル政策を進めるに当たり考えておくべき課題だろう。

ニーズのあるところに「行政が出ていく」発想を

川邊 一部のコンピュータだけでしか動かないデータを「疎結合」し、ネット上で活用できるようにすることで、どのようなことが実現するか。例えば、住民票をネットで取れるようになったら便利だろうなと考えたとする。しかし住民票というのは、ただそのものがほしくて入手するのではない。引っ越しなど、きっかけとなる行為があって、その手続きのために必要になるわけだ。

その「きっかけ」のところに、行政サービスが出て行って、ワンストップで全てが終わるようにすると、住民は格段に便利になる。例えば、A市が住民の移転に関連する手順をネット上で公開したとする。ある不動産会社は、他社と差別化するために顧客の移転手続きをネットで代行するサービスを導入するかもしれない。

(後編)に続きます

(インタビューはリモート形式で11月に行った)

バナー写真 : Zホールディングス 川邊健太郎社長(同社提供)

(※1) ^ 政府は2020年12月25日、「デジタル庁」を21年9月1日に発足させる「改革の基本方針」を閣議決定。同庁を「デジタル社会の形成に関する司令塔」と位置付け、500人規模で始動させる計画。首相をトップとし、担当閣僚として「デジタル相」を置く

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