トランピズムの行方

2度目のトランプ弾劾裁判にみる米共和党のこれから

国際

トランプ前米大統領の弾劾裁判は、無罪評決で早期に幕が引かれた。共和党の「トランプ離れ」は今後可能なのか。筆者は、トランプ政権下で同党の「権威主義的政党化が進んだ」とし、「民主主義を破壊しかねない勢力を抱えたままでは米国の民主政治の行方にも影響する」と指摘する。

2021年1月6日、暴徒による米連邦議会議事堂の襲撃事件が発生した。それへの関与の責任が争われたドナルド・トランプ前大統領の2度目の弾劾裁判は、2月13日に連邦議会上院の無罪評決で終結した。有罪評決には全100議席の3分の2にあたる67人の賛成が必要だが、50人の共和党議員のうち賛成したのは7名のみで、全体では2人の無所属を含む民主党側の議員全員と合わせ57人に留まった。

裁判ではトランプ側代理人の弁論の拙劣さが話題となったが、弾劾裁判は政治性が強く、審理の内容に結果が左右される見込みは薄かった。上院で裁判の前にとられた、その妥当性を問う議決でも、共和党側は大多数が反対しており、無罪評決に驚きはない。しかしこの結果は、共和党の今後に向けて重要な分岐点と位置づけられる可能性がある。以下ではそのことを、米国の政党と今日の政党制の特徴を交えて解説する。

無罪投票は「目先の選挙」を意識?

今回の弾劾手続きでは、1月13日に下院で行われた弾劾の議決でも、上院での裁判における最終評決でも、共和党議員は大半がトランプ擁護の立場で投票した。ただし、議員らはほとんどが再選を目指し、選挙区や支援者の意向を強く意識して行動するので、それが本心だったとは限らない。

例えば、下院で弾劾決議に賛成したリズ・チェイニー議員については、2月3日に下院の共和党議員総会で党幹部職からの解任の是非を問う投票が行われたが、大差で否決されている。議院の本会議よりも外部の目が届きにくい場でのこうした動きは、共和党議員が皆積極的にトランプを擁護しているわけではない可能性を示唆する。(※1)

また過去要職にあった、つまり目先の選挙を気にしなくてよい共和党の政治家によるトランプへの攻撃も目立つ。2019年には、党内でトランプの再選の阻止を目指す「リンカン・プロジェクト」が組織され、翌年の選挙に向けて活動した。最近も、2024年大統領選挙への出馬がささやかれるトランプ政権のニッキー・ヘイリー元国連大使のトランプ批判が話題となった。共和党全体が「トランプ化」したわけではない。

外部からの「乗っ取り」に弱い米政党

こうした動向を理解するには、米国の政党の特徴を踏まえる必要がある。再選を意識する政治家は、世の東西を問わず近視眼的で支持母体に配慮しがちになる。それでも、日本を含む多くの国の政党は、党執行部が候補者の公認権や、カネなど選挙で戦うのに必要な資源の配分の決定権を握るなどして党内の政治家を多かれ少なかれ統率できる。

ところが米国では、政党の規律が例外的なまでに弱い。二大政党には恒常的な綱領も、強制力を持つ指示を出せる執行部もない。また全国政党ではあるが、実態は州ごとの政党の連合体である。議会内でも、日本の国会でいう党議拘束は存在せず、議員たちは各自の判断で投票する。

今日、民主党がリベラル、共和党が保守でまとまり、互いに対立していることは日本でもよく知られる。しかし、このイデオロギー的分極化は党組織の決定でなく、各党内の政治家と支持連合の構成の長期的な変化によって生じてきた。そのため、各党内の考え方は依然としてかなり多様で、それは政治家の行動にも表れる。

規律の弱さの重要な一因が、今日ほぼ全ての選挙職について採用されている予備選挙制度の存在である。党内の候補者間で争われ、本選挙に向けて各党の正式な候補者を選出する予備選挙には、被選挙権があれば実質的に誰でも出馬できる。また候補者は、党を頼らず資金集めや組織作りをする必要がある。

そのため、共和党の政治家でないトランプが同党から大統領になれたように、米国では政党外の主体が党内に入り込みやすく、また献金等を通じて政党政治家に影響を与えやすい。この党内外の垣根の低さが、規律の弱さと並ぶ米国の政党の重要な特徴である。(※2)

権威主義政党化の進む共和党

この柔構造は、米国の政党が時代の要請に応じて支持連合を組み替えることを容易にし、民主・共和の二大政党制が一世紀半以上にわたり存続することを可能にした。ところが現在、その柔構造が共和党の今後を不透明なものにしている。共和党に、民主主義と矛盾する姿勢が目立つようになっているからである。

政治学では近年、政党の多国間比較が盛んに行われている。そして、民主主義的な規範の尊重や民族的な少数派への配慮といった指標でみたとき、米国の共和党はヨーロッパ等の極右政党や非民主主義国の支配政党に近くなってきているとされる。(※3)

こうした変化は、トランプの登場以前から生じている。20世紀末以降、連邦政府内で共和党による政策形成の妨害が目に余ると指摘されてきた。また共和党が優位にある州では、露骨な選挙区の区割り操作や、投票所やその開場時間を減らすといった、民主的手続きを歪めるような制度変更が目立つ。(※4)

これだけでも問題であるが、トランプを支持して政治の表舞台に登場した陰謀論者や白人至上主義者らは、民主政治を正面から否定するような言動を繰り返してきた。議事堂襲撃事件は、その延長線上にある。共和党の権威主義政党化は、トランプ政権期に本格化した。

非民主的勢力の排除に団結できず

共和党の政治家も、これら非民主的な勢力をすんなり受け入れたわけではない。それでも党の「トランプ化」に歯止めがかからなかったのには、二つの理由がある。

第一に、共和党にはトランプを受け入れる誘因があった。日本でも知られるように、トランプは人種差別的で経済的に不安定な状態に置かれた白人労働者らを多数動員した。現在は二大政党が全国規模で拮抗しており、トランプによる独自の支持層の調達は共和党が選挙を戦ううえで好都合だったのである。

そのため第二に、「トランプ化」を防ごうとすれば党が一丸となって行動することが不可欠であった。ところが、柔構造をとる米国の政党には、非民主的勢力の排除に向けて団結できるような仕組みが元々なかったのである。

議事堂襲撃には党内からもトランプ非難の声

こう考えると、今回の弾劾裁判では、規律が弱くトランプ支持派に頼りたい共和党がこれまでで最も「脱トランプ化」に近づいたといえる。世論は議事堂襲撃を非難し、トランプに責任があると捉えた。また何より、議員たちは襲撃の直接の被害者であった。事件直後、大統領選挙の結果確定の手続きを再開した連邦議会では、共和党議員もトランプを非難する発言を行っている。

特に、議会内の共和党指導部がトランプに反感を示したことが重要である。下院ではチェイニーが弾劾を支持し、上院では共和党の最高位にあるミッチ・マコネル院内総務が、弾劾裁判になればどう投票するか分からないと述べた。彼は、トランプとその支持勢力が共和党に有害と考えていたとされる。(※5)

しかし、マコネルは結局、無罪票を投じ、その後襲撃についてトランプを糾弾する演説を行うに留まった。彼が有罪評決に向けて指導力を発揮していたら、共和党議員の票が動いた可能性は大きい。とはいえ、トランプの有罪を支持した共和党議員には、トランプ支持派が予備選挙で対立候補を立てるなどの報復が考えられるから、有罪評決に必要な票が集まったかは定かでない。

「トランプ頼み」では長期的に少数党に?

議事堂襲撃事件を経てもなおトランプや反民主的勢力と決別しなかった共和党では、今後もせめぎあいが続くとみられる。事件以降、多くの共和党支持者が党を見限ったことが判明している。また民主党のジョー・バイデンの大統領当選を認めない共和党議員に対し、企業などが献金を停止する動きも進んでいる。これらは共和党の政治家に「トランプ離れ」を意識させよう。(※6)

ただ他方で、共和党支持者の「トランプ化」もかなり進んでいる。襲撃事件直後の世論調査でも、共和党支持者の約3分の2が本当はトランプが選挙に勝っていたと答え、また半数強はトランプが今後も政治的な存在感を発揮すべきと回答している。他の人種・民族との対立意識を持つ共和党支持者に、民主的な諸価値を軽視する傾向がみられるという分析結果も出ている。(※7)

実は今日、若者や人口増加率の大きい民族的マイノリティの多くがリベラルで民主党を支持することから、このままいくと長期的に民主党が優勢になると予想されている。これは共和党でも意識され、とくに2012年大統領選挙での敗北を機に、選挙戦略を見直す必要性が唱えられた。

しかしトランプの登場もあり、むしろ人種間の分断を煽り、白人支持層の動員を徹底する戦略がとられてきた。これは短期的に有効だったものの、トランプ寄りの政治的スタンスをとり続ければ共和党が長期的に少数党化する可能性もないではない。(※8)

米民主主義を左右する共和党の行方

共和党の行方は、米国の民主政治のそれも左右しうる。イデオロギー的分極化と、共和党側の民主主義を掘り崩すような動きにより、二大政党は政策形成で互いの足を引っ張り合い、支持者を含め感情的にいがみ合うようになった。各国の民主化度を測る政治学の主な調査は、米国の民主化指数を相次いで引き下げている。(※9)

人種や階層間の分断とも対応する二大政党間の分極化は、簡単に解消するとは考えにくい。しかし、共和党が民主主義を破壊しかねない勢力を抱えたままでは、収束の見込みはないといってよい。今回の弾劾裁判が、米国の民主主義にとっても「失われた機会」とならないかどうか、注視する必要があろう。

バナー写真:ドナルド・トランプ氏=2020年9月撮影(AFP=時事)

(※1) ^ 米国連邦議会での議員の行動様式については、次の古典的研究を参照。デイヴィッド・R・メイヒュー(岡山裕訳)『アメリカ連邦議会―選挙とのつながりで』(勁草書房、2013年)。R. Douglas Arnold, The Logic of Congressional Action (New Haven: Yale University Press, 1990).

(※2) ^ 米国の政党の特徴と、そうした特徴を持つ政党が展開してきた政党政治の解説として、次の拙著を参照。岡山裕『アメリカの政党政治―建国から250年の軌跡』(中公新書、2020年)。

(※3) ^ Anna Lührmann et al., “New Global Data on Political Parties: V-Party,” V-Dem Briefing Paper, No. 9, (Oct. 26, 2020), available at https://www.v-dem.net/media/filer_public/b6/55/b6553f85-5c5d-45ec-be63-a48a2abe3f62/briefing_paper_9.pdf; Pippa Norris, “Measuring Populism Worldwide,” Party Politics, 26: 6 (2020), 697-717.

(※4) ^ スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット(濱野大道訳)『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道』(新潮社、2018年)。アリ・バーマン(秋元由紀訳)『投票権をわれらに―選挙制度をめぐるアメリカの新たな闘い』(白水社、2020年)。

(※5) ^ Jonathan Martin, Maggie Haberman, and Nicholas Fandos, “McConnell Privately Backs Impeachment as House Moves to Charge Trump,” New York Times, Jan. 12, 2021 (updated Feb. 12, 2021).

(※6) ^ Nick Corasaniti, Annie Karni, and Isabella Grullón Paz, “‘There’s Nothing Left’: Why Thousands of Republicans Are Leaving the Party,” New York Times (online), Feb. 10, 2021; Shane Goldmacher and Nick Corasaniti, “Pressure Mounts on Republicans to Buck Trump Amid Impeachment Battle,” New York Times (online), Jan. 13, 2021.

(※7) ^ Pew Research Center, Biden Begins Presidency with Positive Ratings; Trump Departs with Lowest-Ever Job Mark, Jan. 2021, available at https://www.pewresearch.org/politics/2021/01/15/biden-begins-presidency-with-positive-ratings-trump-departs-with-lowest-ever-job-mark/. Larry M. Bartels, ”Ethnic Antagonism Erodes Republicans’ Commitment to Democracy, ”PNAS, 117: 37 (Sept. 15, 2020), 22752–22759.

(※8) ^ 邦語での解説として、次を参照。井上弘貴「共和党はどこにいくのか―ロムニーとトランプが示すこれからの岐路」、『三田評論』2021年2月号所収(https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2021/02-2.html)。

(※9) ^ Frances E. Lee, Insecure Majorities: Congress and the Perpetual Campaign (Chicago: University of Chicago Press, 2016); Lilliana Mason, Uncivil Agreement: How Politics Became Our Identity (Chicago: University of Chicago Press, 2018); Anna Lührmann et al, Autocratization Surges—Resistance Grows. Democracy Report 2020 (V-Dem Institute, 2020), available at https://www.v-dem.net/en/publications/democracy-reports/; Polity5 Project, Center for Systemic Peace, https://www.systemicpeace.org/polityproject.html.

米国 ドナルド・トランプ 共和党