中国経済の暗雲

中国経済は「日本化」回避できるか:不動産不況には政府の直接介入が必要

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中国はこの数年、経済の減速が目立っている。コロナ禍に伴う消費不振に加えて、不動産不況が背景にある。中国は「失われた30年」を経験した日本化を避けられるのか。大阪経済大学の福本智之教授は、軟着陸に必要な条件として、不動産市場への政府の直接介入や一段の民営化促進などを挙げている。

コロナ禍で減速

2023年の中国の経済成長率は5.2%と、政府目標(5%程度)をクリアした。しかし、都市封鎖などにより3%に失速した2022年と合わせた平均値は4.1%と、コロナ前の19年の6%成長から3~4年で約2ポイント低下した。コロナ禍が中国経済に与えた影響は甚大だった。

コロナ禍は、都市封鎖によって多くの零細企業や個人事業主を休・廃業に追い込んだ。この種の傷跡は、どこの国でも大なり小なりあったが、中国の場合は先進国と異なり、個人や個人事業主への現金給付が行われず、社会的弱者が影響を受けやすかった。家計調査によると、個人の名目可処分所得の伸びはコロナ前の2019年の8.9%から23年には6.3%まで低下した。

コロナ禍は米中対立、中国と西側諸国との摩擦も深刻化させた。政府、企業、個人などさまざまな層で対面交流が途絶したことによって、相互不信感が強まった。経済安全保障の観点から、リスク低減(デリスキング)の動きが広まり、西側諸国の対中投資姿勢が慎重化した。

不動産不況のダブルパンチ

一方、コロナ禍は、未曽有の不動産不況の間接的な要因にもなった。コロナ不況への景気テコ入れを狙った金融緩和によって、不動産ブームが発生。ところが、中国政府は「不動産は住むためのもので投機するためのものではない」として、不動産デベロッパーの資金調達と銀行の不動産セクター向け貸し出しを抑制する規制を同時に実施した。不動産市場は急速に冷え込み、大手デベロッパーは資金繰りに行き詰まり、住宅価格は下落し続けている。

3年近くたった今でも、不動産不況から回復する兆しがみえない。中国経済の減速は不動産不況の影響がとりわけ大きいと筆者は考えている。2023年の住宅販売面積は9.5億平方メートルと、21年の15.7億平方メートルから4割も減少した。不動産開発投資も同じ期間に25%減少。全国70都市平均の新築住宅価格はピークから4%下落したが、サンプルの取り方もあり、実態としては1~2割は下落したとみられる。

不動産価格の下落は消費の弱さにもつながっている。家計の保有資産の約7割が住宅資産である。その価値が下落していることが消費を慎重にさせているのだ。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授ほかによれば、中国では、不動産セクターが直接、間接に国内総生産(GDP)に占める割合は21年時点で25%に上る。その不動産セクター縮小の影響はかなり大きい。

しかも、人口構造からみても、住宅需要が今後緩やかに減少していく可能性が高い。中国における1軒目購入の平均年齢は27歳であり、25~34歳が主力の購入層だ。この層の人口が17年の2.3億人から30年代前半には1.6億人に減少する。筆者はその影響で住宅購入の実需は減少していくと予測している。

「伸びしろ」残る中国経済

では、中国が経済の苦境から脱することは不可能なのか。日本では、1990年代の不動産バブル崩壊に伴い、潜在成長率が4~5%から1%程度まで低下して、そのまま元には戻らなくなった。中国は、日本と同じような道を歩むのだろうか。

中国経済は人口減少などの構造要因から今後も減速するのは避けられないものの、筆者は、政府が適切な政策対応を打ち出せば、日本の1990年代以降のような低成長にいきなり陥るのは回避できると考えている。

中国の都市人口比率は2023年末時点で66%だが、これは日本の1963年と同じ水準だ。また、2022年の1人当たり名目GDP(米ドル換算)は米国の6分の1で、これは日本でいえば1960年と同水準。つまり「伸びしろ」がかなりある。総人口の減少が始まったことや少子高齢化といった変化を踏まえても、中国経済の発展段階は日本の1990年代よりは「若い」と考えられるのだ。

デフレの恐れ

いったい中国経済はどのような政策対応によって軟着陸が可能なのだろうか。筆者は3つの策を同時に実施する必要があると考えている。それは、(1)マクロ経済政策の十分な拡張(2)不動産不況に対する抜本的対応(3)民営企業の活動範囲を拡げる経済改革-である。

まず、財政・金融政策というマクロ経済政策を考えてみたい。中国では、デフレが懸念されている。1月の消費者物価指数は前年比0.8%低下、生産者物価指数も同2.5%下落した。物価の下落傾向には、食品・エネルギー価格の下落といった供給要因も関係しているが、最も重要なのは最終需要の弱さである。個人消費や企業の投資マインドが弱く、最終需要の弱さにつながっている。こうした状況では、政府が財政・金融政策を拡張させて、最終需要を喚起する必要がある。

中国政府も、昨年12月の中央経済工作会議で需要不足を認め、「反循環的な」調節を強化するとした。今後、財政・金融政策は拡張していくであろう。ただし、これまでの経済政策は、景気浮揚には不十分な可能性がある。今後、一段の思い切ったマクロ経済政策が必要となろう。

未完工物件の買い取りを

さらに、不動産不況に対する抜本的対応策が必要だ。政府は住宅ローン金利を引き下げ、最低頭金比率規制の緩和、不動産投機の防止を目的とした「2軒目以降の住宅購入制限」を撤廃するなど、需要喚起策を段階的に強化してきたが、ほとんど効き目がない。

不動産不況が深刻化した真の原因は、人々が不動産デベロッパーの経営に不安を持っていることにある。中国では、住宅販売の大半が予約形式を取り、購入から引き渡しまで2年以上かかる。国際通貨基金(IMF)は、昨年10月の国際金融安定報告で、中国のデベロッパーは資産比で3割近くが実質債務超過だと推計している。経営に懸念がある状況では、怖くて住宅を買えない。事実、現在でもデベロッパーが資金繰りに窮して住宅が期日通りに引き渡せていないケースがかなりある。

不動産市場安定化のために重要なのは、未完工の物件を完成させ、買い主に引き渡すことだろう。現時点でも、ある程度の対策は打たれているが、経営難に陥っているデベロッパーに自力で完工する体力がないため、例えば、政府が「住宅買い取り機構」のような組織を設立して、未完工物件を買い取り、責任をもって完工するなど、思い切った手を打つことが必要だろう。

不動産業界の合併再編による健全化も必要だ。国有セクターを活用して間接的にでも、公的資金を一時的に注入する必要があるだろう。しかし、不動産バブルを起こした民間デベロッパーを救済することへの抵抗感やモラルハザードへの懸念から政府はこれらの措置には及び腰だ。

三中総会はいまだ開かれず

最後に、民営企業の活動範囲を拡げる経済改革の実施である。民営企業の2023年の固定資産投資額は前年比0.4%減少した。政府の規制強化によって、民間企業の投資意欲が低下していることが、民間投資の弱さの一因である。

もちろん、全ての業種で投資意欲が減退しているわけではない。不動産やプラットフォーマー、教育など規制が強化された産業が多い第3次産業の投資が前年比6%減少した一方で、製造業の投資は同9%増と比較的堅調だった。EVの増加が目覚ましい自動車産業に加えて、半導体など先端技術の「自立自強」が志向されている電気機械産業は2桁の投資の伸びが続いている。それでも、民間企業のマインドが総じて慎重なのは否めない。

投資マインドを上向かせるためには、市場メカニズムの活用と民間企業の行動範囲を拡大する方向での経済改革の推進が必要だろう。国有企業が独占してきた産業などへの民間企業の参入を認めていくことが重要である。

過去の例では、重要な経済改革の方針は、共産党大会後の翌年秋に党中央委員会第三回総会(三中総会)が開催され、決められることが多かった。20回党大会が2022年10月に開かれたため、1年後の23年秋に開催されることが期待されていた。しかし、現時点でも三中総会は開かれていない。

現時点では、筆者が必要と考える諸政策は未実施または不十分なものにとどまっている。今後、中国共産党・政府が、どのタイミングで、より思い切った政策にシフトするのかが、中国経済が軟着陸できるかどうかの成否を握っている。

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