《広がるICT学習1》福岡市教委が挑むオンライン授業:複数校に発信、人材有効活用
社会 国際交流 政策・行政- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
PC画面越しに学ぶ
2026年2月、オンラインで福岡市内の市立小学校4校をつなぎ、日本語の授業が行われていた。児童は中国、韓国、インドネシア出身の1~4年生の4人。江藤理映子教諭が拠点校の春吉小学校(福岡市中央区)から「これは鉛筆。いっぽん、にほんと数えます。これは消しゴム。いっこ、にこと数えます」と身の回りのものの名前や、数字の数え方などを教える。子どもたちは画面越しにうなずき返した。
この授業は、福岡市教育委員会が2026年1~3月に「トライアル」として試験的に実施したものだ。外国ルーツの児童生徒らが通い慣れた学校や自宅でパソコンを使い日本語の授業を受け、その効果や課題を洗い出す。
パソコン周辺では、子どもの集中が途切れないよう保護者や教員がそばで見守る。紙や鉛筆を使う時には、大人がカメラで手元を映して教員に状況を伝え、双方向のやりとりをしていた。
家庭、学校ともに負担減を目指す
オンライン授業の目的は、日本語を学ぶ子どもとその家庭、学校側の負担を緩和しながら、学びの機会を確保することだ。
市教委は、文部科学省による基準「日本語の指導が必要な子18人に対し教員1人」に沿い、体制を充実させてきた。25年度は小学校146校中12校、中学校は72校中6校に日本語の担当教員を配置。日本語指導担当教員が在籍している学校に通級して日本語の授業を受ける体制だった。ただ、市教委は「他校へ通級して日本語教育を受けるには1時間以上かかる場合もあり、送迎する保護者の負担が重かった。オンラインはその軽減につながる」(指導部学校企画課の阿部万優子主任指導主事)とする。
阿部主事は「年度途中に外国ルーツの児童生徒が大きく増えていることも、オンライン授業を進める大きなきっかけだった」と説明する。
文科省は日本語教員の配置数を、5月1日の児童生徒数によって決めることとしている。ただ、福岡市内では出身国・地域の学年替わりの時期にあたる5月と9月に外国ルーツの児童生徒が大幅に増える。25年度の場合、日本語指導が必要な児童生徒は5月1日で527人だったが、12月末には744人になった。子どもが増えるたびに非常勤の教員を募集しているものの、確保は簡単でなく、現場にしわ寄せが及んでいた。オンライン指導が定着すれば、教員を確保するまでの間も地域格差を軽減できる。
今回のトライアル事業では、小学1年生から4年生と、5年生から中学3年生までの2つのグループに分け、それぞれ45分の授業を10回実施した。対面による日本語指導はこれまで主に児童と教員のマンツーマンで実施してきたが、オンラインでは一度に複数の子を指導する。市教委は「画面越しでも一緒に学ぶ仲間の顔が見えることで横のつながりができ、学びに積極的になる可能性がある」とみる。
政府対応策に明記、トライアルは研究の場に
政府は2026年1月に決定した「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」で、児童生徒の日本語教育のために多言語翻訳システムやネットを使った遠隔教育ICT(情報通信技術)の活用を明記した。外国人の集住地域は「18対1」の基準に沿った教員数を確保できる学校も多いが、外国人が少人数で暮らす散在地域では、子どもの数が基準に達せず教員を確保できない例もあり、現場の負担が増している。ICTを使えば、こうした問題をある程度緩和できる。
ただ、江藤教諭はオンライン授業について「教室での『生の授業』とは全然違います」と話す。一般にオンラインの授業は受講側の集中力を維持するのが難しいとされ、日本語を理解しにくい外国ルーツの子であればなおさらだ。
このトライアル事業では、授業中の教員は身ぶり、手ぶりなどのアクションを大きくするなど、画面越しの子どもに伝わるように工夫を凝らす。授業に使うスライドは、東京都や横浜市が製作したワークシートなどを参考に、福岡市教委が無料のデザインツールCanvaを使ってデザイン。アニメーションやタイマーなども入れて集中が途切れないようにアレンジしている。

オンライン授業では、教員のペンの動きが画面に映るように工夫している
江藤教諭が苦労していたのは目線だ。画面の子どもの像を見つめて語りかけると、教師の目線はカメラから外れてしまう。「カメラのレンズに向かってしゃべらないと、子どもたちにとっては、自分を見てくれていると思えないのです。普段はレンズを見て授業をしないので難しいですね」と試行錯誤していた。

子どもたちと目線を合わせようと、意識的にカメラに向かってアクションする江藤教諭
トライアルはオンライン授業の研究も兼ね、日本語指導教員や阿部主任指導主事、児童生徒や保護者との面談などを行うコーディネーターが見学。終了後に感想や改善点を出し合う。この日は日本語指導を研究している筑波大学の澤田浩子准教授も参加した。
江藤教諭の授業について、見学者からは「子どもたちは飽きずに学習に取り組めていた」と評価。一方、「開始から15分以上、子どもの笑顔がほぼなかった」。「『ある』と『ない』の違いを説明する時、実物を見せながら教えると子どもたちが授業に引き込まれていった。授業の最初からこうした取り組みをした方がいい」といった具体的な改善点も出ていた。
課題踏まえ本格展開
市教委は2026年度に拠点となる「実施校」を決め遠隔授業を本格化させる。教えるのは、主に生活で使う初歩の「サバイバル日本語」。25年度のトライアル事業の成果や課題を踏まえ、独自の教材を作って指導する方針だ。
26年度になり、市教委が「試験校」に出向き、本格実施に向けて管理職と打ち合わせを進めている。第1期から第8期までの期間を設け、その期間前に転入してきた日本語指導を必要とする児童生徒を対象に、オンラインで日本語指導を実施する予定だ。
遠隔指導の拠点校を増やそうと各校に理解を求めている阿部主事。サバイバル日本語に加え、「教科の学習言語を教えるカリキュラムの研究にも着手したい」と話す。
文科省は2025年4月、「ことばの発達と習得のものさし」という指導方針を打ち出し、母語も活用しながら日本語を段階的に習得していくことを推奨している。市教委はAI音声翻訳機を教員に配布し母語を活用した教育も模索している。市教委は「ICTなどの最先端技術を活用しながら今いる子どもたちにとって必要なことを、一歩ずつ段階を踏んで進めていきたい」としている。
※写真は筆者撮影
バナー写真:福岡市教委が試行を始めた、外国人の子ども向けの遠隔授業


