米中貿易戦争、6月首脳会談がカギ―企業の「脱中国」加速も

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米国と中国の貿易戦争が危険なチキンゲームに発展している。米国が強硬姿勢にこだわる背景や、解決の糸口、日本を含め世界へのインパクトなど、中国問題に詳しい東京財団政策研究所の柯隆・主席研究員に話を聞いた。

柯 隆 KE Long

東京財団政策研究所・主席研究員。1963年中国南京市生まれ、86年南京金陵科技大学日本語学科卒業、88年来日。 92年愛知大学法経学部卒業 。94年名古屋大学大学院経済学修士 。長銀総合研究所国際調査部研究員、富士通総研経済研究所主任研究員を経て現職。財務省外国為替審議会委員(2000~09年)、財務政策総合研究所中国研究会委員(2001~02年)。主著に『暴走する中国経済 』(ビジネス社、2014年)、『中国が普通の大国になる日』(日本実業出版社、2012年)など。

貿易戦争から経済戦争へ

米中間の貿易不均衡は関税引き上げや為替操作では解決しない。一例を挙げると、中国は高い貯蓄率を利用して投資し、そこから生まれた製品が輸出に回るのに対し、米国はやたらに消費率が高いから、結果的に米国が赤字になるのは当然だ。

米中摩擦について、日本のマスコミは「貿易戦争」と呼んでいるが、私からすれば「技術を含めた経済の全面戦争」に発展している。トランプ米大統領の側近だったスティーブン・バノン元首席戦略官も「トレード・ウォー(貿易戦争)がエコノミック・ウォー(経済戦争)になった」と言っている。経済戦争という言葉はレーガン元大統領が旧ソ連に対し使って以来だ。その時は結果的にソ連の崩壊につながった。

日本の大型連休(4月27日―5月5日)までは、市場では「米中は合意間近」との読みで株価は上がっていた。ワシントンで米中貿易交渉があるから期待されていたわけだ。しかし、突如として連休最終日の5月6日、トランプ大統領がツイッターで第3弾の対中制裁措置として「2000億ドルの輸入品に対して25%の関税」と言い出し、いきなりこじれてしまった。

米交渉チームが明らかにしたように、中国はもともと約束していた項目について再交渉を要求してきたので、トランプ政権は「中国が時間稼ぎをしている」と見抜いた。中国は時間稼ぎしながら、貿易を巡る対立が激しくなると株価が大きく下落し、来年に大統領選を控えたトランプ氏には不利になると読み、そこに賭けた。そこで米国は「時間稼ぎは許さない」として、いきなり2000億ドル分の関税をぽんと上げたのだ。

中国は補助金を止めるとか、知的財産を保護するとか、技術を盗んだり移転を強要したりしないなどの諸点で、いったん約束したのに、それを撤回して再交渉を求めた。中国にとって貿易交渉の合意文書に署名すると自殺行為になるからだ。例えば、国営企業は補助金がないと成り立たない。知財や技術も似たような話で、米国の要求を飲んだら共産党政権が成り立たなくなる恐れもある。

チキンゲームの行方

さらに米国は第4弾3000億ドル規模の対中制裁措置(関税25%)の準備に入った。この措置のパンチの厳しさは短期的なものではなくて、中国を生産拠点と捉えるグローバルなサプライチェーンを変える圧力になる。多くの企業が「本当に3000億ドル規模の措置をやるのか」と、様子を見ている。本当にやるなら、生産体制を変えないといけない。中国工場の移転コストはかかるので、「こんなばかなことをやらないだろう」と踏んでいる人もいて、日本企業は決断に時間がかかっている。だが、仮に来年の大統領選でトランプ氏が再選されるとなると、日本企業も動き出すだろう。

一方、米国が第4弾の3000億ドル規模の措置を実施したとしても、中国には有効な報復措置の弾がない。保有する米国債を売却するのは自殺行為だ。国際金融市場が大混乱し、対抗措置として米国は中国国有銀行のドル決済を止めるだろう。また、元安誘導もできない。富裕層が大規模なキャピタルフライト(資本逃避)を起こしてしまい、中国には耐えられない。

問題は6月28日からの大阪での20カ国・地域首脳会合(G20)期間中に米中が首脳会談を行うかどうかだ。首脳会談するというのは何らかの合意に達する可能性はあるが、会わなければ、米国はその後すぐさま第4弾の3000億ドル規模の関税引き上げ措置を実施するだろう。そうすれば世界経済は一挙に冷え込み、日本も消費税率を上げられなくなる可能性がある。禁輸措置を受けた中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)問題も含めて、世界経済にはリーマン・ショック以上のダメージがあるだろう。

G20期間中に米中首脳会談が行われるとは限らない。何の合意もなく会ってもしようがないからだ。米国のムニューシン財務長官は北京に行くと言っていたのだが、今は行かないと言っており、交渉のムードにはない。首脳会談は流れる可能性が高くなる。北京の雰囲気は険しく、ナショナリズムが台頭し、国民の対米感情は悪い。

中国の選択肢

トランプ政権が中国に求めているのは自由な市場経済だが、中国の経済構造は全く違う。仮に米中交渉で合意文書に署名して、その通りにやっていたら中国経済は自殺行為というと大げさだが、相当減速する。場合によって、共産党政権そのものがひっくり返る恐れがある。習近平政権にとっては簡単には飲めない事情がある。

しかし、中国が合意文章に署名しないで、このまま時間稼ぎしたとしても「座して死を待つ」ようなものだ。ファーウェイ問題のように、中国のIT分野の最先端企業までもが首を絞められ国際社会から締め出されてしまうだろう。グーグルなどソフトウエアを使わせてもらえなくなり、日本企業もチップを納めなくなったので、作れなくなった。欧米だけでなく、日本のキャリアも同社の携帯電話を売らなくなり、国際シェアは15%から5%まで一気に低下した。

中国は米国からの要求を飲むという選択肢を取れない。その代わり、習近平国家主席は時間稼ぎして、トランプ大統領の退陣を待っているようだ。しかし、それは座して死を待つようなもの。例えばファーウェイの生命線は切られており、中国市場では生き残るだろうが、国際的なプレーヤーとしては終わったと思う。

データ経済の覇権

歴史的に見て、戦争というと19世紀までは領土を巡る争い、20世紀は資源を巡る争いなのに対して、21世紀はデータを支配した国が勝つ。今やデータは最も重要なリソースであり、中国はファーウェイみたいな企業を育成して、第5世代の通信規格である5Gを駆使して全部支配しようと考えた。しかし、残念ながら米国に見抜かれてしまった。

日本はモノ作り国家だが、データの重要性を理解する人は増えている。例えばTポイントなんかは、データを売っている。何が売れているか分析すれば価値が出て来る。単純なモノづくりだけでは付加価値は生まれてこない。データはその先の需要を読みとれるようになる。今までの時代と比較して、違うのはスピードだ。スピードを助長するのがデータだ。データから何が生まれて来るか分かっていないと、こつこつモノを作っていても全く間に合わない。中国は危機感を持って5年、10年先を見据えていたところ、米国に拒まれた。米国にも危機感がある。

米中経済戦争はもちろん、米国にも痛みはあり、例えばファーウェイのスマホを売っている会社や半導体部品を収めている企業にとっては打撃になる。しかし、こうした痛みはあくまでも短期的なものであって、時間がたつとグローバルなサプライチェーンが変わることになる。実は米中貿易戦争で一番意味があるのはここだ。バノンの言う「エコノミック・ウォー」で狙っているのは、貿易不均衡是正よりもファーウエイのようなハイテク企業の排除だった。

もしトランプ氏が再選されなければ、この夢は実現しないだろうが、かなりの確率で再選される可能性があり、中長期的には「脱中国」の新たなサプライチェーンが再形成されるだろう。ファーウェイに取って代わる可能性のある企業としては日本、韓国、台湾の企業だ。短期的に痛みはあっても、中長期的にはクライシスをチャンスに転じる企業は勝つ。日本企業も恐れる必要はなく、グローバルに戦略を練り直す必要があり、チャンスは出てくる。

(聞き手・構成=ニッポンドットコム編集部 持田譲二)

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